証拠はそこにある! LINE・メール時刻で決まる残業代リスクとは?

杉山 晃浩

1. はじめに──「お疲れ様です」が証拠になる時代

「お疲れ様です。本日は上がります」――そんな何気ない一言が、数百万円の残業代支払いを決める“証拠”になることをご存じでしょうか。

2024年11月27日、東京地方裁判所が注目の判決を下しました。ある不動産会社の元営業社員Aさんが、退職後に残業代を請求。裁判の争点となったのは「実際に何時まで働いていたのか」という点でした。
会社側は「定時の18時に退社した」と主張しましたが、Aさんが日常的に送っていた「お疲れ様です。本日は上がります」というメッセージの送信時刻が決め手となり、その時刻まで就労していたと認定されたのです。結果、残業代約244万円に加え、労働基準法114条に基づく付加金(お仕置き金)として同額が命じられ、合計約488万円の支払い命令が下されました。

この判決は、経営者にとって「労働時間管理の盲点」を突きつけるものです。
日々の何気ない連絡が、裁判では“労働時間を裏付ける証拠”となりうる時代。今回はこの裁判例を踏まえ、残業時間管理の重要性と、トラブルを防ぐために経営者が取るべき対策を解説します。


2. なぜ残業代リスクが高まっているのか

働き方改革や労働基準監督署の指導強化により、企業の労働時間管理に対する社会的な目はますます厳しくなっています。
特に「長時間労働」「サービス残業」「未払い残業代」の問題は、SNSや労働問題に詳しい弁護士の発信を通じて可視化され、労働者が証拠を残しやすい環境が整っています。

デジタル記録が“動かぬ証拠”に

今や、タイムカードやICカード打刻だけが労働時間の証拠ではありません。

  • LINE・メールの送受信時刻

  • 業務報告チャット

  • PCログオン・ログオフ記録

  • 勤怠システムのログデータ

これらは、後日「実際の労働時間」を裏付ける強力な証拠として用いられます。
今回の判決のように、メッセージ送信時刻が“終業時刻”として認められるケースは、今後ますます増えるでしょう。


3. 経営者が誤解しがちな“裁判での労働時間認定”

経営者や管理職からよく聞く言い訳があります。

  • 「うちは定時退社と言っているから、残業はないはず」

  • 「LINEやメールは雑談であって業務じゃない」

  • 「本人が勝手に残業しているだけ」

残念ながら、これらは裁判ではほとんど通用しません。
裁判所は“実態”を見ます。 就業規則に「残業は許可制」と書かれていても、実際に上司が業務連絡を送り続けていたり、業務終了を報告させるルールがあれば、それは「黙示の残業承認」とみなされるのです。

さらに、上司が「残業しないで」と言いながら、業務の完了報告を求め続けるのも危険です。今回の事件でも、社長や上司がAさんからのメッセージを受け取りつつ特に指摘しなかったことが、裁判所の判断を後押ししました。


4. 裁判例が教える3つの盲点

盲点1:業務終了連絡が“残業の証拠”になる

今回の事件では、社長宛てに送った「上がります」メッセージが終業時刻の証拠として認定されました。つまり、経営者自身が労働時間の証拠を集める“協力者”になってしまうケースがあるのです。

盲点2:曖昧な残業命令が“黙示の承認”とみなされる

「終業時刻を過ぎてもLINEで業務連絡をしている」
「業務報告を求めている」
これらは、経営者や上司が残業を認めていた証拠となり得ます。

盲点3:付加金でコストが倍増

今回の判決では、未払い残業代244万円に加え、**同額の付加金(計488万円)**が命じられました。
付加金は“お仕置き”として労働基準法114条に定められており、「悪質な未払い」と判断されると支払額が倍増します。これに弁護士費用や裁判コストを加えると、会社のダメージは計り知れません。


5. トラブルを防ぐための「残業時間把握」実践策

では、経営者はどうすればこのようなリスクを防げるのでしょうか。

(1)PCログ・勤怠システムの活用

単なる紙のタイムカードでは不十分です。
PCのログオン・ログオフ記録や勤怠システムと連動させて、実際の稼働時間を正確に把握することが重要です。

(2)業務終了連絡の仕組み化

今回の裁判例のように、LINEやメールで業務終了を報告させる運用は、証拠の裏付けとしては強力ですが、経営者にとっては諸刃の剣です。

  • 専用の勤怠アプリで終了報告をさせる

  • 上司の承認フローを簡略化する
    といった“公式記録”を残す仕組みに変えましょう。

(3)残業削減と管理職教育

「残業はするな」と言いながら実質的に残業を強いているケースは非常に危険です。
管理職には**「指示の出し方」「残業承認フロー」**を徹底し、労働時間管理の責任を共有させる必要があります。

(4)36協定と就業規則の整備

そもそも36協定の上限時間を超える残業が常態化していないか。
就業規則に**「残業の定義」「承認ルール」「記録方法」**が明確に定義されているか。
これらを見直し、トラブルを未然に防ぎましょう。


6. オフィススギヤマができること

オフィススギヤマでは、

  • 労働時間管理の仕組み設計

  • 勤怠システム導入の支援

  • 就業規則・36協定の見直し

  • 管理職向け労務教育
    など、残業代トラブルを未然に防ぐための総合支援を行っています。

今回の裁判例を“他山の石”にし、トラブルが発生する前に仕組みを整えることが重要です。
「LINEやメールが証拠にならない環境を整える」「客観的に労働時間を把握する」――これを経営者と一緒に考え、実行に移すお手伝いをしています。


7. まとめ──「証拠に負けない企業」を作るために

  • 残業代トラブルは「証拠の有無」で勝敗が決まる

  • 日常の連絡ツールが証拠になる時代、経営者には“証拠管理”の意識が求められる

  • 就業規則や勤怠管理の整備は「労務トラブル保険」だと考えるべき

もし、

  • 「うちの残業管理、これで大丈夫?」

  • 「LINEやメールでの業務連絡をどう扱うべきか」

と少しでも不安を感じたら、オフィススギヤマと一緒に仕組みを見直しませんか?
経営者と従業員、双方にとって納得できる“健全な労働時間管理”を作りましょう。

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