休職代行という新たなリスクに企業はどう向き合うべきか
杉山 晃浩
第1章 “休職代行”とは何か?その実態と急増の背景
近年、「退職代行」サービスと並び、「休職代行」なる新たなサービスが登場し、企業の現場をざわつかせています。これは、心身の不調などを理由に本人が直接職場に連絡せず、代行業者を通じて「本日から休職します」と企業へ通知する仕組みです。
表面的には“本人が言いづらいことを代弁する支援”のように見えますが、裏を返せば、企業と従業員の信頼関係が完全に断たれている状況です。
背景には以下のような事情があります:
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メンタル不調が深刻化する前に対処できなかった
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上司との人間関係の悪化
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労働環境の過酷さ
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SNSでの「逃げ道」情報の氾濫
このような土壌のもと、“休職代行”が当たり前になっていく危険性があるのです。
第2章 企業側に生じるリスク──「無断欠勤」?「正当な休職」?
休職代行を利用された場合、企業にとって最初に直面するのは「これって無断欠勤? それとも正当な休職なのか?」という判断です。
法的には、以下の点が焦点になります:
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休職はあくまで会社の制度。制度適用には会社の承認が必要
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医師の診断書がない状態では「休職開始」とみなす根拠が乏しい
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一方的な欠勤通知だけで「正当な休職」と認めてしまうと、就業規則の統制が効かなくなる
これを曖昧なまま放置すると、次のようなリスクが生じます:
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他の従業員への悪影響(ルール違反の黙認)
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無断欠勤として懲戒処分した場合の労使紛争化
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本人不在でも「休職中」と扱った場合の給与・保険料処理ミス
企業が冷静かつ確実に対応するには、あらかじめ「休職制度の正しい運用」を徹底する必要があります。
第3章 企業が備えるべき対応策5つ
休職代行という“第三者介入”を想定し、企業は以下のような対策を講じておくべきです。
① 休職発動条件の明記
就業規則や休職規程において、「会社が診断書を確認のうえ、休職の可否を判断する」と明示しておきましょう。社員が勝手に「休職に入った」と宣言することを防げます。
② 休職申出の様式整備
口頭やメールではなく、所定の様式での申出+診断書添付を義務づけることが望ましいです。代行業者が乱用できないような制度設計が肝心です。
③ 医師の診断書の精査
「〇月〇日から当面の間、就労は困難」といった記載の真意や妥当性を産業医等に確認する仕組みをつくりましょう。必要に応じて主治医と面談調整も。
④ 復職の明確な条件提示
「通常勤務が可能な状態に回復したと医師が判断し、かつ会社も認めた場合に限る」と、労使の双方判断で決定する旨を明文化しましょう。
⑤ メンタルヘルス不調者との接点確保
本人との接触が困難な場合でも、法的に連絡の試みは継続すべきです。EAPや外部相談窓口を活用して、孤立させない工夫も有効です。
第4章 “言いづらさ”を防ぐ職場文化の醸成
休職代行が選ばれる背景には、「直接言えない」「言っても無駄」という職場風土があります。これは制度では解決できません。
経営者・管理職が日常的に以下のような姿勢を持つことで、職場の風通しを改善できます:
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傾聴とフィードバックの習慣化
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1on1ミーティングで早期の違和感キャッチ
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管理職研修による感情労働力の底上げ
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組織サーベイによる定期的な職場環境チェック
労務トラブルは予防こそが最大のコスト削減です。
第5章 まとめ──「制度と信頼」両輪で備える企業へ
休職代行という新たなトレンドは、企業にとって制度の不備と信頼関係の欠如を突かれるリスクです。これを「想定外」で済ませず、あらかじめ想定内にしておく姿勢が、今後ますます重要になります。
制度設計の見直しと現場の信頼づくりを両輪に、メンタルヘルス問題への備えを強化していきましょう。
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