「褒めたのに、やる気が下がった!?」──アンダーマイニング効果が教える“危険な褒め方”
杉山 晃浩
第1章 「最近、褒めても反応が薄い…」──その原因、実は“褒めすぎ”かもしれない
「最近の若手は、褒めて伸ばせと言われるけど…正直、もう褒めるネタがない」
管理職からこんな声をよく聞きます。
かつての上司は「叱って伸ばす」タイプが主流でしたが、
いまは「褒めて伸ばす」が人材育成の王道とされています。
ところが実際の現場では、褒めても褒めても成果が上がらない、
むしろ「褒めなきゃ動かない社員」が増えているのが現実です。
頑張ったら褒める、成果を出したらご褒美を渡す。
一見すると、やる気を引き出す王道のように見えますが、
その“褒め方”が実は、社員のやる気を奪っているかもしれません。
その現象を説明する心理学の法則が――
アンダーマイニング効果(Undermining Effect)です。
第2章 アンダーマイニング効果とは──“ご褒美”が内なるやる気を壊す心理
アンダーマイニング効果とは、
外的な報酬(お金・評価・褒め言葉など)が、
もともと内側から湧いていた“やる気”を弱めてしまう心理現象のことです。
有名な心理実験があります。
子どもたちに「自由に絵を描いていいよ」と伝えると、
多くの子が楽しそうに絵を描き始めました。
ところが次の日、「絵を描いたらご褒美をあげるね」と伝えると、
子どもたちは一瞬喜んだものの、次第に絵を描く意欲が落ちていきました。
そしてさらに次の週、
「今日はご褒美なし」と言われた瞬間、誰も絵を描かなくなったのです。
人はもともと「好きだから」「やってみたいから」動いていたはずなのに、
“報酬がもらえるからやる”という外発的動機づけに変わった瞬間、
“やらされ感”が芽生え、内側のエネルギーが消えてしまうのです。
第3章 職場で起こる“アンダーマイニング現象”の典型パターン
この効果は、子どもだけではなく社会人にも起こります。
特に「評価」「ボーナス」「承認」を重視する企業では、
日常の中にこの“やる気の逆転現象”が潜んでいます。
① 「いつも頑張ってるね!」を連発する上司
褒める基準があいまいだと、
社員は「上司の機嫌が良い時に褒められる」と感じ始めます。
やがて、「褒められるために行動する」という目的のすり替えが起き、
主体性が失われます。
② インセンティブ制度を導入したのに成果が落ちる
売上に応じてボーナスを出す仕組みは、一時的には効果があります。
しかし、報酬が当たり前になると「もらえなければ不満」になり、
やる気どころか不信感を生み出します。
③ 褒めないと動かない部下の増加
「頑張ってますね」と声をかけないと行動しなくなる社員。
これはすでに“褒め依存”状態です。
他者の評価が行動の条件になってしまうと、
自己評価や内省力が育たず、キャリアの伸びしろが止まります。
④ 「頑張りすぎ社員」の燃え尽き
「期待している」と言われ続けると、
最初は誇らしくても、やがて“期待に応えなきゃ”というプレッシャーに変わります。
結果、モチベーションどころかメンタル不調を招くこともあります。
第4章 褒め方のコツ──“評価”ではなく“共感”で伝える
では、どうすればよいのでしょうか。
結論から言えば、褒めるのではなく「認める」「共感する」です。
たとえば、
「よくやったね!」よりも、
「ここを工夫したんだね」「前回よりも早くできたね」の方が効果的。
結果ではなく、プロセスを認めることが内発的動機を保ちます。
さらに大切なのは、「理解している」サインを出すこと。
「大変な作業だったね」「根気がいる仕事だったね」など、
努力の“過程”に寄り添う言葉は、社員の誇りを育てます。
また、「ありがとう」「助かった」という感謝ベースの言葉は、
上司と部下の関係を“評価”ではなく“信頼”に変えます。
褒める頻度よりも大切なのは、なぜその言葉をかけるのかという意図。
そこに「承認欲求を満たすため」ではなく、
「成長を支えたい」という本音があれば、社員の心に届きます。
第5章 社労士ができる支援──“褒める文化”から“育つ仕組み”へ
社労士の役割は、単なる制度の整備にとどまりません。
“人の心の仕組み”を踏まえたマネジメントを設計することが求められます。
たとえば、
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評価制度に「成長プロセス評価」を組み込む
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面談研修で「観察→共感→言語化」の3ステップを習得させる
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チーム単位での貢献を可視化し、“個人競争型”から脱却
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モチベーションサーベイ(ESチェック)でやる気の源泉を分析
「褒める仕組み」ではなく、
“成長を見守る仕組み”を作るのが本質的な支援です。
社員のやる気は外から与えるものではなく、
会社が“奪わない環境”を整えることで守られます。
第6章 「やる気を引き出す」のではなく、「やる気を守る」マネジメントへ
社員は、入社した瞬間から“やる気”を持っています。
それを奪っているのは、本人の怠け心ではなく、
周囲の「こうあるべき」「褒めてあげよう」という善意かもしれません。
やる気とは、コントロールするものではなく、尊重するもの。
経営者がやるべきは、「どう褒めるか」ではなく、
「何を信じて任せるか」です。
あなたの職場をもっと活性化させてみましょう!先ずは見える化から…
「頑張ってる社員ほど、最近元気がない」
「評価してるのに、なぜか定着しない」それは“やる気の構造”が崩れているサインかもしれません。
オフィススギヤマでは、
モチベーションを“奪わない”人事制度と育成設計を支援しています。褒めて伸ばすから、信じて育てるへ。
経営者の覚悟ある一歩を、私たちが全力で支えます。