チームの人数を増やす前に考えるべきこと──リンゲルマン効果が教える“経営の盲点”

杉山 晃浩

第1章 「人を増やしたのに成果が上がらない」──その違和感に気づいていますか?

「もう人を増やすしかない」
「人手さえ確保できれば回るのに」

中小企業の経営会議で、最も多く聞かれる言葉の一つです。
確かに、人手不足が続く中では“採用”が最大の関心事になります。
しかし実際には、採用を進めたのに「なぜか忙しさが減らない」「成果が上がらない」と感じる社長が少なくありません。

新人を入れたのに、ベテランの残業が減らない。
スタッフを増やしたのに、ミスや連絡漏れが増える。
このような現象の背景にあるのが――リンゲルマン効果です。


第2章 リンゲルマン効果とは──“人数が増えると努力が薄まる”心理

リンゲルマン効果とは、チームの人数が増えるほど、個々の努力や成果が低下するという心理現象です。
社会心理学者マクシミリアン・リンゲルマンが行った綱引き実験では、
1人で引っ張るときの力を100とすると、2人では93、3人では85、8人ではたった49にまで下がりました。

つまり、「人数が増えるほど、1人あたりのパフォーマンスは下がる」という結果です。
原因はシンプルです。
「自分がやらなくても誰かがやるだろう」という安心感が、無意識に努力を分散させるのです。

この現象は、綱引きだけでなく、オフィス・介護現場・クリニック・工場――あらゆる職場で起こります。
「チームの人数=生産性」とは限らないのです。


第3章 中小企業でリンゲルマン効果が起こる3つの場面

① 役割が曖昧な職場

「〇〇さん、これお願い」と都度指示が出る。
しかし、全員が同じ業務を“なんとなく分担”しているだけで、責任の所在が明確でない。
結果、誰も主体的に動けず、“やってるつもりチーム”が出来上がります。

② 報連相が機能しないチーム

「言った・言わない」「聞いてない」が頻発。
情報共有が人任せになると、伝達ミスや重複作業が発生します。
結局、誰も全体を把握できず、仕事が属人化。
「チームで動いているようで、実はバラバラ」という状態になります。

③ 数合わせの採用

「人が足りない」と焦って採用しても、教育体制や受け入れ準備が整っていない。
結果、既存社員が新人のフォローに追われ、生産性は逆に下がります。
採用を急いだ結果、“人手不足”から“仕組み不足”へと課題がすり替わるのです。


第4章 人を増やす前に整えるべき“3つの環境”

では、どうすればこのリンゲルマン効果を防げるのでしょうか。
答えはシンプルです。
人を増やす前に、仕組みを整えること。

① 役割の見える化

誰がどの仕事を担当し、どの範囲に責任を持つのか。
「業務分担表」や「責任マップ」を作るだけで、チームの動きが驚くほどスムーズになります。
特に小規模組織では、“全員で対応”が最も効率を下げる落とし穴です。

② 情報共有の仕組み化

人数が増えるほど、情報共有は偶然に頼れません。
紙・口頭・メールが混在するとミスの温床になります。
クラウドツールや朝礼、週報など、「伝える」ではなく「共有される」仕組みを作ることが重要です。

③ 評価と承認の仕組み

努力しても気づかれない、結果を出しても評価されない――
こうした状態では、社員のやる気が下がります。
評価は“結果”だけでなく、“プロセス”を可視化することで、貢献意欲を維持できます。
それがチーム全体のモチベーションを守る「土台」となります。


第5章 採用を「ゴール」ではなく「スタート」にするために

採用は目的ではなく、組織を強くするための手段です。
採用活動だけを頑張っても、職場の受け皿が整っていなければ、すぐに定着しません。

仕事の進め方・教育・評価・フォロー――。
それらが仕組み化されていれば、新人が入ってもスムーズに機能します。
逆に、それがない職場は、人数が増えるほど混乱します。

「採用前の仕組み整備」ができている企業ほど、
社員は安心して動き、離職率も下がります。
経営者が“人を増やす”より先に考えるべきは、“人が育つ環境”をどう作るかなのです。


第6章 社労士ができる支援──採用前の「仕組み整備」で人が定着する会社へ

社労士の仕事は、就業規則や労務管理だけではありません。
「人の仕組みを整えることで、組織のパフォーマンスを上げる」――これも重要な使命です。

  • 採用前の課題整理(役割・情報・評価の現状分析)

  • 組織図や業務フローの明文化

  • 面談設計・キャリアパス構築による育成支援

  • モチベーションサーベイ(ESチェック)による職場診断

採用を“イベント”ではなく、“仕組みづくりの一環”として設計する。
それが、私たち社労士ができる最も実践的な支援です。


第7章 経営の盲点は、“人手不足”ではなく“仕組み不足”

社員の数を増やすことは、あくまで手段。
会社を強くするのは、仕組み・信頼・共通言語の3つです。

チームの力を発揮させるのは「人数」ではなく「明確さ」。
経営者が整えるべきは、“誰が何を、どうやって、どこまでやるか”。
それが明確な会社には、自然と責任感が生まれます。

リンゲルマン効果が教えてくれるのは、
「人を信じるだけでは、組織は回らない」という現実。
信頼と仕組みは、常にセットで存在します。


事前準備が大切!せっかく採用しても残念な結果にならないように…

「人を増やしても、なぜか成果が上がらない」
それは、人が足りないのではなく、仕組みが整っていないのかもしれません。

オフィススギヤマでは、
採用前の職場環境整備・業務可視化・人材定着の仕組みづくりを通じて、
“人が辞めない会社”を共にデザインしています。

採用の前に、整える。
それが、強い組織の第一歩です。

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