1件の労災の裏に300のヒヤリ──ハインリッヒの法則が教える“予防型経営”の考え方

杉山 晃浩

第1章 「事故が起きてからでは遅い」──経営者が見落とす“労災の構造”

「事故が起きてしまってからでは遅い」。
誰もが頭では理解していても、実際の現場では「ヒヤリとしたけど大事には至らなかった」「次から気をつけよう」で終わってしまうことが多いのではないでしょうか。

ところが、こうした“ヒヤリ”を軽視する職場ほど、重大事故のリスクが高いのです。
実際に多くの労災調査では、「以前にも似たようなヒヤリがあった」との証言が残っています。

労災は“偶然”ではなく、“必然の結果”。
小さな危険の積み重ねが、いずれ大きな悲劇を引き起こします。
経営者が“重大事故”だけに目を向けてしまうと、その前兆を見逃す構造ができあがってしまうのです。


第2章 ハインリッヒの法則とは──“1:29:300”が語るリスクの法則

アメリカの安全技師ハーバート・ハインリッヒが提唱した「ハインリッヒの法則」では、
労災事故の発生構造をこのように示しています。

1件の重大事故の裏には、29件の軽微な事故と、300件のヒヤリハットが存在する。

この“1:29:300”という比率は、事故が単発で起きるのではなく、
日常の小さなミス・怠慢・ヒヤリの積み重ねの延長線上にあることを意味しています。

つまり、「ヒヤリ」を放置すれば、いずれ「労災」になる。
逆に言えば、日々のヒヤリを減らす仕組みを作れば、重大事故は必ず防げるのです。


第3章 現場で起きている“ハインリッヒ構造”のリアル

① 介護現場:転倒事故の連鎖

「少しつまずいた」「車いすのブレーキをかけ忘れた」――。
こうしたヒヤリが繰り返されても記録に残らず、ついに利用者の転倒事故が発生。
原因は、忙しさと“慣れ”。
「今までも大丈夫だった」という油断が積み重なっていました。

② 製造業:指詰め・巻き込み事故の裏側

「軍手が少し破れていた」「ガードを外して掃除した」――。
ほんの小さな違反が、やがて大事故を招きます。
現場の声を聞くと、「ルールは知っているけど、作業が早くなるから」という答え。
ルールが現場に根付いていないことこそ、最大のリスクです。

③ 医療・クリニック:忙しさの中の“安全置き去り”

「手袋が足りない」「廊下に荷物を一時置き」――。
忙しさを理由にした一時的な判断が、感染事故や転倒を引き起こします。
小規模事業所では、安全管理が“個人任せ”になりがちです。


第4章 「ヒヤリハット報告」が形だけになっていませんか?

多くの企業で、ヒヤリハット報告書の様式だけは整っています。
しかし実際には、報告件数がゼロの月が続いていることも珍しくありません。

報告が出ない理由は、「面倒」「怒られそう」「報告しても意味がない」。
つまり、“報告の文化”が根づいていないのです。

ヒヤリ報告の目的は“犯人探し”ではありません。
「次に同じことを起こさない」ための知恵の共有です。

報告を責める文化ではなく、**「気づきを歓迎する文化」**に変えること。
経営者が「ありがとう、報告してくれて助かった」と伝えるだけで、
現場の空気は一変します。


第5章 予防型経営への転換──“安全”を仕組みに変える3つのステップ

① 小さな異変を拾う仕組みを作る

ヒヤリ・不具合・ミスの芽を“情報資産”として残す。
朝礼・チャット・日報など、日常の中で共有できるルートを整える。
重要なのは、特別な会議ではなく日常業務に溶け込む仕組みにすることです。

② 責任の所在を“人”から“プロセス”へ

「誰が悪いか」ではなく「なぜ起きたのか」を追う。
一人の失敗を叱るより、同じ失敗が起きない流れを作る。
仕組みで人を守るという考え方が、経営リスクを最小化します。

③ 安全を「教育」ではなく「文化」にする

年に一度の講習ではなく、日常の会話・朝礼・面談の中で意識を伝える。
社長や管理職が「安全第一」を口だけでなく行動で示す。
その積み重ねが、“安全は当たり前”という文化を育てます。


第6章 社労士ができる支援──“事故を防ぐ仕組み”づくりの伴走者

労災防止は現場任せではなく、経営の責任領域です。
社労士として私たちは、次のような支援を行っています。

  • リスクアセスメントや安全衛生体制の設計支援

  • 労災発生後の再発防止策の策定・報告書作成支援

  • ヒヤリハット報告制度の運用改善

  • 労務リスク診断や安全衛生規程の整備

  • 助成金(職場環境改善・安全対策関連)の申請サポート

  • 安全大会や社内講話の実施(ヒューマンエラー・組織心理・予防策をテーマに講演可能)

労災ゼロはスローガンではなく、仕組みで実現するマネジメントです。


第7章 “ヒヤリ”を放置しない会社が、未来を守る

事故をなくすために最も大切なのは、ヒヤリを放置しない勇気です。
小さな違和感に耳を傾ける姿勢こそ、会社の安全文化の根っこになります。

「うちは事故がないから大丈夫」と言う会社ほど、実は危険です。
“ヒヤリ”の報告が多い会社ほど、安全への意識が高く、社員同士の信頼も厚いのです。

ハインリッヒの法則が教えてくれるのは――
事故は偶然ではなく、仕組みの結果
そして、安全もまた、仕組みの結果であるということ。


【CTA】

「ヒヤリはあったけど、今回も大丈夫だった」
その言葉を、次に聞かないために。

オフィススギヤマでは、
安全衛生体制の構築、ヒヤリハット制度の運用設計、
労災防止講話や安全大会での講演など、
“予防型経営”を支える仕組みづくりを行っています。

小さな気づきを、会社の未来につなげましょう。

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