「ストレスがない職場」が危ない ヤーキーズ・ドットソンの法則で読み解く“中間管理職の崩壊”
杉山 晃浩
第1章 ストレスゼロを目指した結果、壊れていく職場
「うちは優しい職場だから」「ストレスが少ない職場を目指している」
──そんな言葉をよく耳にします。
一見すると理想的ですが、実はその“優しさ”が職場を弱くしているケースが少なくありません。
現場の空気が“波風立てないこと”を最優先にすると、
誰も意見を言わなくなり、
成長や改善のための議論も避けられるようになります。
特に問題が深刻なのは中間管理職層です。
上からの「業績・数値プレッシャー」、
下からの「感情・ケア要請」の板挟みで、
心の中では“どちらの期待にも応えられない”と苦しんでいます。
この「誰にも言えないストレス」が、
静かに中間層を蝕み、
やがて組織の中心が崩壊していくのです。
第2章 ヤーキーズ・ドットソンの法則──“適度なストレス”が最高の結果を生む
1908年、アメリカの心理学者ヤーキーズとドットソンは、
ストレス(覚醒水準)とパフォーマンスの関係を調べ、
次のような法則を導き出しました。
ストレスが低すぎても高すぎても成果は出ない。
適度なストレス状態が、最も高いパフォーマンスを生む。
グラフにすると山型になります。
左端は「退屈ゾーン」──刺激が少なく、やる気も集中力も低下。
右端は「過負荷ゾーン」──プレッシャーで判断力が落ち、燃え尽き状態に。
そして中央の“ちょうどいい緊張”が、最も成果を出す領域です。
ところが現代の職場では、このバランスが崩れています。
ストレスゼロを目指して左側に偏る会社と、
成果プレッシャーで右端に突き抜ける会社。
どちらも、組織の力を長期的に奪っていきます。
第3章 中間管理職の現実──「過剰ストレス」と「孤立」の二重苦
社労士として多くの組織を見ていると、
中間管理職のメンタルリスクが突出して高いのが分かります。
彼らは毎日こうした葛藤の中にいます。
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部下の成長を支援したいが、成果も出さなければならない。
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上司からは「数字を追え」、部下からは「話を聞いてくれ」。
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相談されても、会社の決定には逆らえない。
どちらに寄っても批判され、
「結局、誰のために頑張っているのか」が見えなくなる。
この状態こそが、心の限界を超えた過覚醒状態です。
さらに、管理職は弱音を吐けない立場です。
「上司がそんなことを言うな」と言われることを恐れ、
感情を押し殺し続けます。
その結果、表面は冷静でも、
内側では自己否定と疲弊が進行している――。
中間層の崩壊は、静かに進み、気づいたときには遅いのです。
第4章 ストレスの「質」を変える──無意味な負荷から意味ある緊張へ
ストレスを完全に取り除くことは不可能です。
重要なのは「ストレスをどう扱うか」。
つまり、ストレスの“質”を変えることです。
無意味なストレスとは:
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曖昧な指示やルールの不一致
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感情的な要求
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達成しても評価されないタスク
これらは“努力が報われないストレス”で、心を削ります。
一方、“意味のあるストレス”とは:
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明確な目的と役割
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適切な裁量
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フィードバックによる成長実感
このストレスは“挑戦への刺激”となり、活力を生みます。
企業としてできるのは、
「無意味なストレスを減らし、意味あるストレスを増やす」環境づくりです。
第5章 パフォーマンスを最大化する“中間層マネジメント改革”
経営者がまず守るべきは、中間層のコンディションです。
彼らが健全でなければ、部下も成果も守れません。
ではどう守るのか?
それは、制度ではなく関係性の設計から始まります。
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1on1の仕組み化:報告会ではなく、心の棚卸しの場に。
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管理職研修:傾聴力・感情マネジメント・部下支援スキルを育てる。
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目標設定制度(MBO)の見直し:数値だけでなく“成長プロセス”を評価。
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心理的安全性の可視化:ESチェックやアンケートで定点観測。
これらは“ストレスを消す”のではなく、
“ストレスを使いこなす”ための環境整備です。
健全な緊張感は、職場を強くします。
部下が挑戦できるのは、上司が安心しているときだけなのです。
第6章 社労士ができる支援──ストレスを“構造”から整える
メンタル不調を個人の弱さとして片づける時代は終わりました。
今やそれは経営リスクそのものです。
社労士として支援できることは多岐にわたります。
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ストレスチェック結果の活用サポート
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面談制度・休職復職ルールの整備
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外部相談窓口の設置・運用
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ESチェックによるストレス源の見える化
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健康経営・メンタルケア助成金の活用支援
ストレスをデータとして扱い、
感情ではなく仕組みで予防するのが現代のマネジメントです。
第7章 経営者へのメッセージ──ストレスの火消しではなく、設計を
経営者が「社員を守る」と言うなら、
まず守るべきは“中間層のバランス”です。
ストレスをなくそうとするほど、
人は挑戦をやめ、会社は停滞します。
逆に、意味のあるストレスを設計できる会社は、
社員が成長し、組織が自走していきます。
ストレスを敵にするか、味方にするか。
その分かれ目は、経営者の設計力にあります。
ささっと外注できるものが作ってしまいましょう!
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