内定辞退を防ぐ最終面談の魔法──ピークエンドの法則で変わる“採用の印象戦略”
杉山 晃浩
第1章 「いい人だったのに、辞退されました」の裏にある心理
採用担当者なら、こんな経験はありませんか。
「最終まで順調だったのに、突然辞退の連絡が入った」
「条件面では負けていないのに、なぜ他社を選んだのか分からない」
面接の評価も良好、社長面談でも笑顔。
にもかかわらず、メール一本で「辞退します」と言われる。
――原因は“条件”ではなく“印象”です。
採用活動とは、いわば「企業と候補者の短期的な恋愛」。
最初の印象が良くても、最後の一瞬で冷めてしまうことがあります。
これは感情の流れで決まる現象であり、心理学で言う「ピークエンドの法則」が深く関係しています。
第2章 ピークエンドの法則とは──人は「一番強い瞬間」と「最後」で判断する
心理学者ダニエル・カーネマンが提唱した「ピークエンドの法則」は、
“人は体験のすべてではなく、ピーク(最も印象的な瞬間)とエンド(終わり)で記憶を判断する”
という法則です。
たとえば、
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長い映画でも「ラスト10分」が良ければ満足度が高い
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旅行の途中が少しハプニングでも「最後の夜の夕食」が楽しければ“いい旅だった”と思える
採用活動もまったく同じです。
候補者は「何を話したか」ではなく、「どう感じたか」で会社の印象を決めます。
最終面談こそが“エンド”の瞬間。
この印象が良ければ、少々条件が劣っていても内定を受け入れてくれるのです。
第3章 採用現場に潜む“終わり方のミス”3選
①事務的に終わらせてしまう
「本日はお時間ありがとうございました」
「また結果をメールでご連絡します」
形式的に終わる最終面談。
この瞬間、候補者の心の熱はスッと冷めていきます。
②条件提示で終わる
せっかくの最終面談が、給与や福利厚生の確認だけになってしまう。
それでは「感情のピーク」をつくれません。
条件で人は動きません。“自分がここに必要とされている”という感情で動くのです。
③上から目線の確認トーク
「うちでやっていけますか?」
「入社の意思は固いですか?」
つい口に出してしまうこの一言。
候補者の立場に立てば、“試されている”と感じてしまいます。
第4章 候補者の“心のピーク”を設計する
最終面談の目的は「採否確認」ではなく、「未来共有」です。
「あなたが加わることで、チームがどう成長できるか」
「あなたが大切にしている価値観が、私たちの理念とどう響き合うか」
こうした会話が生まれると、候補者の中に“ピーク”が生まれます。
人は自分の存在を承認されたとき、感情が動くもの。
その瞬間、他社では得られない“特別な体験”が心に残ります。
社長や上司が「あなたと一緒に働きたい」と伝えるだけで、辞退率は大きく下がります。
企業側が「選ばれる側」ではなく「選ぶ側」になるのは、この一言があってこそです。
第5章 “終わり方”を変えるだけで採用率は上がる
最後の印象は細部に宿ります。
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面接後のフォローメール
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帰り際の一言
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内定通知書を渡すタイミング
これらが「会社の温度」を伝える要素です。
「あなたの活躍を本当に楽しみにしています」
「今日お会いできて良かったです」
その一言が、条件交渉より強い説得力を持つことがあります。
なぜなら、人は“自分を大切にしてくれた会社”を選ぶからです。
ピークエンドの法則を理解している企業は、退室の30秒を大切にします。
この短い時間が、数十万円分の採用コストを救うことになるのです。
第6章 社労士が提案する“印象設計”の採用戦略
採用の成果は「制度」ではなく「体験設計」で決まります。
杉山事務所では、心理理論を応用した採用支援として、以下のような支援を行っています。
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面接官教育研修(印象設計・傾聴・感情表現のトレーニング)
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内定者フォロー設計(ピークエンド理論を活かした内定後接点づくり)
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採用体験マニュアル作成(最初と最後の印象を仕組み化)
“辞退防止”を目的にするのではなく、
「ここで働きたい」と思われる感情体験をデザインすること。
これが、これからの中小企業の採用戦略です。
第7章 最後の一言が未来を変える──採用を“感情設計”にアップデートしよう
採用は、スキルの見極めではなく、人の心を動かす仕事です。
ピークエンドの法則を意識するだけで、面談の空気は変わります。
最後の瞬間に、候補者が「この会社、いいな」と思えるかどうか。
それが、採用の成功を分ける分岐点です。
杉山事務所では、採用定着士として、“記憶に残る採用プロセス”の設計支援を行っています。
「求人票を出しても反応がない」「内定辞退が多い」そんな悩みを抱える企業こそ、
今こそ“感情設計”を経営戦略に取り入れるときです。
面談の最後の30秒を変えるだけで、採用の未来は変わります。
「候補者の心に残る採用体験」を、一緒につくりませんか。