なぜ“明日やろう”は永遠に終わらないのか ──デイヘイの法則で考える仕事の先送り癖
杉山 晃浩
第1章 「明日やろう」が日常になる職場
「これ、あとでやります」「来週まとめて処理します」
そんな言葉が職場にあふれていませんか。
忙しいから後回しにする。けれど“明日”になっても仕事は減らない。
気づけば締切間際に焦り、質も下がる。
これは能力の問題ではなく、人間の脳のクセです。
心理学的には「今の不快を避け、未来の自分に任せる」防衛反応。
しかも多くの職場では、“とりあえずやってる感”で評価されるため、
このクセが助長されてしまいます。
社労士として現場を見ていても、報連相の遅れ、決裁の遅延、資料提出の後ろ倒しなど、
“明日やろう”の積み重ねが組織のストレスをじわじわ増やしています。
第2章 デイヘイの法則とは?──仕事は時間を食い尽くす
デイヘイの法則は、1955年にイギリスの歴史学者シリル・ノースコート・パーキンソンが提唱したもの。
「仕事は、与えられた時間をすべて使い切るまで膨張する」という観察です。
締切が1週間なら1週間、1日なら1日で、なぜかピッタリ終わる。
つまり、時間に余裕があるほど人はダラダラし、
逆に時間が短いほど集中力が上がるという皮肉な現象。
実務の現場でもよく見ます。
「今週中に」と言うと週末ギリギリ。
「今日中に」と言うと午後には上がってくる。
この“締切マジック”はまさにデイヘイの法則の表れです。
第3章 人が先送りする3つの心理トリガー
先送りには、次のような心理的背景があります。
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完璧主義:完璧に仕上げたいから、今はまだ手をつけない。
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不安回避:やって失敗するのが怖くて、先延ばしする。
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自己過信:後でやっても間に合うと思い込む。
特に若手社員に多いのが③。
“未来の自分”を過大評価し、「今やらなくても大丈夫」と考えてしまう。
しかし未来の自分も、今と同じように忙しい。
その結果、タスクは雪だるまのように膨らみます。
第4章 先送りが生む「見えない損失」
先送りは単に納期を遅らせるだけではありません。
・判断が遅れ、意思決定コストが上がる
・他部署が待たされ、生産性が連鎖的に落ちる
・顧客対応が後手に回り、信頼が失われる
つまり、時間の遅れが信頼の遅れになるのです。
特に「忙しい」が口ぐせの職場ほど、先送りの温床になっています。
ある製造業の会社では、上司の承認が1日遅れるたびに生産が1ロット止まり、
年間に換算すると数百万円の機会損失になっていました。
本人には“1日の遅れ”でも、組織全体では“数百日の遅れ”を生んでいるのです。
第5章 デイヘイの法則を逆手に取る「締切再設計」
デイヘイの法則を克服するには、発想を逆転させること。
「時間があるから仕事が伸びる」なら、時間を短く設定すればいい。
・締切を1日短くする
・中間報告を増やす
・タスクを30分単位で区切る
こうした“締切再設計”が、行動を生みます。
また、「終わらせる時間」より「始める時間」を明確にすることも効果的です。
“いつやるか”が決まっていないタスクは、永遠に始まりません。
第6章 社労士が見た「先送り文化」の職場
「みんな頑張っているのに成果が出ない」会社には、共通点があります。
それは、忙しい=頑張っているという価値観。
この思考では、時間の使い方を疑うことができません。
どれだけ効率が悪くても「努力」でカバーしようとしてしまう。
それが残業文化、報連相遅延、判断の後回しを生みます。
杉山事務所が関与したある企業では、
タスクの分解と責任の明確化を行っただけで、
報告の遅延が3割減り、残業が25%削減されました。
つまり、仕組みを変えれば「やる気」も変わるのです。
第7章 先送りを防ぐ“チームリズム”をつくる
個人の努力では限界があります。
先送りをなくすには、職場全体で行動リズムを共有することが重要です。
・朝礼で「今日やること」を口に出す
・進捗を可視化するボードやアプリを使う
・「報告が早い人を褒める」文化をつくる
これらはどれも小さなことですが、“やる”が連鎖する職場をつくります。
人は他人の行動を見て動く生き物。
つまり、「動く人を見せる」だけでも、先送り文化は薄まります。
第8章 今日の行動が未来を変える
「明日やろう」と思った仕事は、今日やらなければ永遠に終わりません。
未来の自分は、今より忙しいのです。
デイヘイの法則は、“怠け”の理論ではなく“人間理解”の理論。
これを知ることで、私たちは時間を支配される側から、支配する側に変わることができます。
第9章 社労士ができる支援──“行動を生む制度設計”
杉山事務所では、時間管理や報連相改善を軸とした組織改善を支援しています。
・職務分担表の見直し
・評価制度との連動
・ES調査による行動の見える化
「やらない社員」ではなく、「やれる仕組み」をつくる。
これが、先送りのない会社をつくる第一歩です。
結び
“明日やろう”は、会社の未来を削る言葉。
今日の5分が、明日の信頼をつくります。
デイヘイの法則を理解すれば、
「時間がない会社」から「時間を活かす会社」へ。
行動を変えたい経営者へ──杉山事務所は、その一歩を伴走します。