「言っても動かない社員」が変わる仕組み──ナッジ理論の実践法
杉山 晃浩
第1章 「言っても動かない社員」は本当にやる気がないのか?
「何度言っても報告が遅い」「言われたことしかやらない」――。
そんな社員に悩む経営者や管理職は少なくありません。
しかし、私たちが現場を見ていて気づくのは、
“やる気がない”わけではなく、行動のきっかけが設計されていないということです。
多くの職場では、指示や注意を繰り返しても状況が変わらない。
それは、社員が「行動を起こす構造」に支援がないからです。
人は感情で動き、習慣で続けます。
つまり、行動をデザインする仕組みがなければ、どんなに優秀な人も動き続けられないのです。
第2章 ナッジ理論とは──“そっと背中を押す”行動デザイン
ナッジ(Nudge)とは、英語で“ひじで軽くつつく”という意味。
アメリカの経済学者リチャード・セイラー博士が提唱した理論で、
「人が自然と望ましい行動を選ぶように環境を整える」考え方です。
たとえば、社員食堂で「健康メニュー」を一番目立つ位置に置く。
あるいは、廊下の電気スイッチの近くに「節電ありがとう」の小さな文字を添える。
強制でも罰でもなく、“つい選びたくなる”仕掛け。
これがナッジ理論の本質です。
職場で言えば、
「報告が遅い社員を叱る」のではなく、
「報告しやすい仕組み」を先に用意してあげる。
そうすれば行動は自然に変わります。
第3章 ナッジがうまく機能する3つの原則
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選択の自由を奪わない
人は自由を制限されると反発します。
「やれ」ではなく「選びやすくする」設計が鍵です。 -
気づきを可視化する
“気づかない”から動けない。
チェックリスト、リマインド、進捗表示など「行動のサイン」を見せましょう。 -
社会的証明を使う
「他の人もやっている」とわかると、行動は一気に加速します。
チーム内の好事例を見える形で共有するだけでも、ナッジが働きます。
第4章 職場で使えるナッジの実践例
① 報連相を早くさせたいとき
「報告が早い人のコメント」を社内掲示板で共有。
“早い=評価される”という空気が生まれると、行動が変わります。
② ミスを減らしたいとき
チェックリストの最後に「自分で確認したら〇をつける」項目を入れるだけで、
“完了感”がナッジになります。
③ 掃除・整理整頓を習慣化したいとき
「整理前/整理後」の写真を貼っておく。
人は“前より良くなった”状態を見ると、その行動を維持したくなります。
④ 会議の出席率を上げたいとき
メール案内に「〇〇さんも参加予定」と添える。
“みんなやってる”という社会的証明が、参加のハードルを下げます。
どれも小さな工夫ですが、行動変容の引き金になります。
第5章 「制度」ではなく「仕組み」で動かす
ナッジは“命令”ではなく“環境設計”。
制度の導入やルールづくりの前に、
「自然に行動が起こる環境」をつくることが重要です。
たとえば、評価制度で「提出が遅い人を減点する」と定めても、
実際には行動は変わりません。
それよりも、提出期限を可視化するボードを置いたり、
締切の前日に自動リマインドを送るほうがよほど効果的です。
つまり、行動を変えるのは“意識改革”ではなく“環境改革”なのです。
第6章 社労士がナッジを使う理由
オフィススギヤマグループでは、
このナッジ理論を「行動を生む仕組みづくり」に応用しています。
たとえば、
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就業ルールを“読ませる”のではなく“見える”ように設計
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報連相を“指導”するのではなく“誘発”する仕組み
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安全衛生やハラスメント対策を“啓発”ではなく“気づかせる”導線に変換
私たちは制度設計のプロであると同時に、
人が“どうすれば自然に動くか”を知る実践者です。
ナッジ理論を活用すれば、
経営者は社員を叱らずに、社員は上司を恐れずに、
組織全体が“自律的に回る”状態を実現できます。
第7章 行動が変わると、組織が変わる
ナッジ理論は「心理操作」ではありません。
社員をコントロールするためではなく、
社員が気持ちよく行動できる場を整えるための知恵です。
経営者が変われば、仕組みが変わる。
仕組みが変われば、社員が変わる。
社員が変われば、会社が変わります。
オフィススギヤマグループは、
その“第一歩をデザインする”専門家です。
第8章 まとめ──「動かない社員」を責める前に、環境を見直そう
「うちの社員は言っても動かない」
その嘆きの裏には、“仕組みが動かしていない”現実があります。
行動を促すのは、言葉ではなく設計。
ナッジ理論は、まさにその設計図を描くための道具です。
社員のやる気を信じながらも、
行動を支える仕組みを整える。
それが、働く人も経営者も幸せにする第一歩です。
🔹 オフィススギヤマグループは、「人が動く仕組みづくり」を支援します。
採用・定着・育成・制度運用まで、
心理法則を踏まえた“行動する職場づくり”をご提案しています。