やめられないのは努力がもったいないから──コンコルド効果でわかる“変化を拒む職場の正体”
杉山 晃浩
第1章 「ここまでやったのに…」が口ぐせの会社
「せっかくここまでやったのに」「今さら変えられない」──この言葉、あなたの会社でも聞こえてきませんか?
勤怠システムを導入したけれど誰も活用しない、評価制度を作ったけれど運用が形骸化している…。
経営者としては「もう少し頑張ればうまくいくかもしれない」と信じたい気持ちが働きます。
けれど、その“もう少し”を重ねた先に、組織の疲弊や無駄なコストが待っていることも少なくありません。
これは怠慢ではなく、「努力を無駄にしたくない」という人間の自然な心理反応。
つまり、コンコルド効果が静かに職場の意思決定を縛っているのです。
第2章 コンコルド効果とは──合理的な人ほどハマる心理の罠
「コンコルド効果」とは、すでに多くのコスト(お金・時間・労力)をかけてしまったことで、
損だと分かっていても撤退できなくなる心理現象を指します。
語源は、イギリスとフランスが共同開発した超音速旅客機「コンコルド」。
採算が取れないと分かっても、巨額投資をしてしまった手前、誰も「やめよう」と言えず、
最終的には経営破綻を招いた――まさに合理性を失った人間の心理を象徴しています。
この心理は、経営現場でもそっくりそのまま再現されます。
「これまで育てた人事制度を捨てられない」「導入したツールを変えられない」など、
“やめない選択”を繰り返すうちに、変化を拒む文化が出来上がっていくのです。
第3章 職場で起きている“やめられない”の正体
では、実際の現場ではどのような形で現れるのでしょうか。
● 例①:古い評価制度を変えられない
「公平性」を保つために、全員横並びの評価が続く。
結果、優秀な社員は報われず、平均的な人だけが残る。
経営者も「今さら変えたら混乱する」と、問題を先送り。
● 例②:使われないDXツールを捨てられない
数百万円を投資して導入したシステム。
「使いこなせていない」ことを認めるのが怖くて、放置されたまま更新契約だけが続く。
● 例③:成果が出ない研修を続けてしまう
「今さらやめたら、今までの努力が無駄になる」――そんな声が上層部から上がる。
その一方で、若手社員は冷めた目でその様子を見ている。
どの例にも共通するのは、「変化しないことが安全」という誤解です。
しかし、実際には“変わらないこと”こそが最大のリスク。
社労士として多くの企業を見てきた立場から断言できますが、
経営判断を止めるのは、経営理論ではなく“情”です。
第4章 「続ける勇気」より「やめる決断」が企業を強くする
経営の世界では、「挑戦し続ける企業が強い」と言われます。
けれど、実際に強い会社を観察してみると、共通しているのは「やめる勇気」を持っていることです。
成長企業は、あらかじめ「撤退ライン」を明確に決めています。
失敗を恐れず、小さく始めて、合わなければ即やめる。
だからこそリソースをムダにせず、次のチャレンジにエネルギーを使えるのです。
一方、“続けることが目的化”している会社では、社員が疲弊し、現場の士気が下がります。
経営者が変化を恐れていると、社員も「どうせ変わらない」と諦めムードに。
そうなる前に、「やめる判断」こそが最強の戦略であると気づく必要があります。
第5章 コンコルド効果を超えるための3つの仕組みづくり
① データで判断する文化をつくる
「感覚」ではなく「数値」で判断する。
例えば、ツールの使用率、面談の満足度、制度運用の参加率など、
“今どれだけ効果が出ているか”を見える化する仕組みを導入する。
② 小さな実験を繰り返す
一気に変えるのではなく、試行錯誤を「プロジェクト単位」で行う。
撤退が前提なら心理的負担も軽く、「やめる=失敗」ではなく「改善」として扱える。
③ 第三者の視点を入れる
外部の専門家(社労士やDXコンサル)を定期的に関与させ、
冷静に「続ける/やめる」を判断できる場を設ける。
社内では言いにくい「やめ時」を、外部が代弁できるのが強みです。
第6章 社労士ができる支援──「やめる仕組み」も経営の力に
社労士の仕事は、単に制度を作ることではありません。
むしろ、“制度を動かし続ける仕組み”を整えることこそ本質です。
オフィススギヤマグループでは、
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DX化を進める企業における「制度・文化・意識の変革」支援
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現状維持バイアスやコンコルド効果を可視化するワークショップ
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「やめ時」を見える化した人事制度再設計コンサルティング
などを通じて、変化に強い組織づくりを支援しています。
「制度を導入して終わり」ではなく、「続ける仕組み」「やめる勇気」を両立させることが、
これからの人事・労務マネジメントに求められる力です。
まとめ 努力を無駄にしない一番の方法は、“やめ時”を決めること
努力を無駄にしたくない――その気持ちは、誰しも同じです。
けれど、「続ける努力」だけが正しいとは限りません。
時には「やめる判断」こそが、未来の努力を救うこともあります。
「今のままで本当にいいのか?」
そう問い直す勇気を持った経営者だけが、次の成長をつかみ取ります。
もしあなたの会社が「変えたいのに変われない」と感じているなら、
私たちはその“やめる勇気”を支える仕組みづくりからお手伝いできます。