社員の“基準”を変える──アンカリング効果を使った成果創出研修
杉山 晃浩
第1章 評価制度を整えても成果が出ないのはなぜか
「評価制度を変えたのに、社員の行動が変わらない」
そんな声を、ここ数年よく耳にします。制度そのものは理にかなっていても、現場の成果に結びつかない。原因は“制度の精度”ではなく、“社員の基準”にあります。
社員一人ひとりが「どこまでやれば合格か」という判断軸をバラバラに持っていると、同じ職場でも仕事の質に大きな差が生まれます。
たとえば、Aさんにとっての「早い対応」は5分以内、Bさんにとっては翌日返信。これではいくら評価制度を整えても、評価の根拠が安定しません。
組織を動かすのは「制度」ではなく「基準」です。
その“基準”が揃っていない限り、組織はバラバラな方向に進みます。
成果を出す企業の共通点は、社員全員が「何が良い仕事なのか」という共通認識を持っていることです。
第2章 行動を左右する“最初の基準”──アンカリング効果とは
ここで役立つのが「アンカリング効果(Anchoring Effect)」という心理法則です。
これは、最初に提示された数字や情報が、その後の判断の基準(アンカー)になるという人間の心理を指します。
営業の目標を「月50万円」と伝えるのか、「月100万円」と伝えるのかで、社員の努力量は無意識のうちに変化します。
また、上司が初回の面談で「このレベルまでできると一人前だよ」と伝えるか、「最低限ここまではやってもらう」と伝えるかでも、部下の行動意識は大きく変わります。
つまり、人は“最初に触れた基準”を土台にして、物事を判断し行動するのです。
この効果を知らずに「とりあえずやってみて」と指示するのは、社員を羅針盤なしで航海に出すようなものです。
最初の基準を明確に設定し、意識的に“高いアンカー”を打つことが、成果を引き出す最短ルートになります。
第3章 成果を出す社員の共通点──“基準が高い人”は成長し続ける
成果を出す社員に共通するのは、「自分の中に高い基準を持っている」ことです。
それは単なる努力ではなく、“これが普通”という感覚のレベルが違うのです。
たとえば、
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「納期ギリギリ提出」ではなく「1日前提出が当たり前」
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「言われたことをやる」ではなく「+αを添える」
このような小さな差が、時間とともに大きな成果の差になります。
逆に、基準が低い社員は、どれだけスキルを磨いても安定的な成果が出ません。
「ここまでで十分」と思うラインが低ければ、自然と努力も停滞するからです。
だからこそ、管理職がやるべきことは、評価ではなく“基準の提示”です。
「理想の基準」を最初に提示することで、部下の行動は想像以上に変化します。
管理職が発する“最初の一言”が、チーム全体の成果を決めるのです。
第4章 アンカリング効果を活用した“成果創出研修”の仕組み
オフィススギヤマの研修プログラムでは、社員の“基準”を動かすために、このアンカリング効果を実践的に取り入れています。
研修の流れはシンプルですが、効果は絶大です。
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最初に理想の行動基準を“体感”させる
たとえば、「5分以内のレスポンスで信頼を得る」というシミュレーションを実施。
成功体験を先に味わうことで、無意識のうちに“その速さが当たり前”という基準が刻まれる。 -
成功基準を“言語化”する
「なぜできたのか」「どんな感覚だったのか」を共有。
行動を言葉にすることで、再現性が高まる。 -
現場でのフィードバックサイクルを構築する
上司が“理想の基準”を常に再提示し、部下の基準を維持。
このプロセスによって、社員は“できる人の基準”を自分の中に持つようになります。
「自分たちの当たり前」が変われば、成果は自然と伸びていきます。
第5章 人事評価よりも先に“基準”を整える理由
多くの企業が、成果が出ないと「評価制度を変えよう」と考えます。
しかし、社員の基準がバラバラなままでは、どんな制度も公平には機能しません。
「何をもって良い仕事とするか」が曖昧な状態では、評価基準をいくら丁寧に作っても、現場では納得感が得られません。
その結果、「うちの上司は見る目がない」「評価に不満がある」といった声が出て、モチベーションを下げることになります。
まず必要なのは、社員の基準を整えること。
「基準を合わせること」は、すなわち“組織文化を整えること”です。
制度を変える前に文化を変える。これが持続的な成果を生む近道です。
第6章 まとめ──“基準を変える”ことで成果は自然に生まれる
社員の成長を妨げているのは、能力の差ではなく“基準の差”です。
行動のアンカー(基準)を変えれば、社員の思考と行動が変わります。
それが積み重なることで、組織全体の成果が一段上に引き上がります。
オフィススギヤマでは、
心理学と実務教育を融合した“成果創出研修”を通して、
社員一人ひとりが高い基準を持ち、自然と成果を出せる組織づくりを支援しています。
評価を変える前に、意識の基準を変える。
その一歩が、未来の成果をつくります。