“昔は通った”はもう通らない──研修ビジネスを巡るルール変更の現実
杉山 晃浩
「この研修、実質タダですよ」
「助成金を使えば、会社の持ち出しはほとんどありません」
こうした言葉を、一度は耳にしたことがある経営者も多いのではないでしょうか。
実際、ここ数年は助成金を前提にした“実質無料研修”が数多く出回っていました。
しかし今、その前提が大きく崩れています。
「昔は通ったやり方」が、今は通らない。
それどころか、場合によっては企業側がリスクを負う時代に入っています。
本記事では、研修ビジネスを巡るルールがなぜ変わったのか、
そしてこれから経営者が何を基準に研修を選ぶべきかを、わかりやすく整理します。
なぜ「実質無料研修」が広がったのか
背景には、国の助成金制度があります。
人材育成や賃上げ、生産性向上を目的として、多くの助成金・補助金が整備されてきました。
本来、助成金は
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企業が費用を負担して研修を実施する
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その結果として要件を満たした場合に、後から支給される
という「補助」の仕組みです。
ところが現場では、
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研修費用を業者側が実質的に肩代わり
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助成金で相殺され、企業負担ゼロ
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場合によっては「利益が出る」設計
といったスキームが横行しました。
この時代が長く続いたことで、
「助成金研修=安くてお得」
「通っているから大丈夫」
という誤解が広がってしまったのです。
行政が舵を切った「形式主義」から「実質主義」へ
ここが最も重要なポイントです。
これまでの助成金審査は、
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書類がそろっているか
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形式上の要件を満たしているか
といった形式主義の側面が強いものでした。
しかし現在は、明確に方針が変わっています。
「実際に何が行われていたのか」
「お金はどのように動いていたのか」
という実質主義への転換です。
つまり、
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実態のない研修
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名ばかりの受講
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実質的な自己負担ゼロ
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業者主導の助成金ビジネス
こうしたものは、書類が整っていてもアウトと判断される可能性が高まっています。
「昔は通ったから」
「他社もやっているから」
この発想が、最も危険です。
リスクを負うのは「研修会社」ではない
ここで多くの経営者が誤解しています。
「問題があれば、研修会社が責任を取るのでは?」
そう思っていませんか。
現実は違います。
助成金の申請主体は、あくまで企業です。
不正・不適切と判断された場合、
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返還命令
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加算金
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将来的な助成金利用制限
といったリスクを負うのは、企業側です。
研修会社は
「制度が変わったので」
「判断は御社になります」
と距離を取るケースも少なくありません。
つまり、
甘い言葉を信じた結果、最後に矢面に立つのは経営者なのです。
これからNGになりやすい研修スキームの特徴
今後、特に注意すべきポイントを整理します。
①「実質無料」「持ち出しゼロ」を強調してくる
助成金は補助であり、前提条件ではありません。
これを前面に出す時点で要注意です。
② 研修内容より「助成金額」の説明が長い
本来、主役は研修の中身です。
金額の話ばかり出る場合は赤信号です。
③ 契約書や請求の流れが不透明
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誰にいくら支払うのか
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いつ、どの費用が発生するのか
これを曖昧にする業者は避けるべきです。
④ 「今だけ」「他社もやっている」
この言葉が出たら、一度立ち止まってください。
では、経営者は何を基準に研修を選ぶべきか
答えはシンプルです。
1. 研修の目的が明確か
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何を改善したいのか
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どんな行動変容を期待するのか
ここが説明できない研修は意味がありません。
2. 費用を払う理由が説明できるか
「なぜこの金額なのか」
「会社として納得できる投資か」
助成金がなくても説明できるかが重要です。
3. 説明責任を果たしてくれる専門家がいるか
制度は変わります。
その変化を前提に、リスクも含めて説明する姿勢があるかどうか。
「安い研修」より「安全な研修」という発想へ
これからの時代、研修は
コスト削減の道具ではなく、経営投資です。
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人が育つ
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組織が変わる
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会社が強くなる
この成果に対して、適正な費用を払う。
そのうえで、正しく助成金を活用する。
この順番を間違えないことが、最大のリスク対策になります。
まとめ:経営者が持つべき新しい視点
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「昔は通った」は、もう通らない
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助成金前提の研修はリスクになり得る
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最後に責任を負うのは経営者
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研修は価格ではなく“説明責任”で選ぶ
今は、安さよりも安全性と納得感が問われる時代です。
もし今、
「この研修、本当に大丈夫だろうか」
と少しでも感じているなら、それは健全な経営判断です。
研修を入れる前に立ち止まること。
専門家に確認すること。
それ自体が、これからの時代の“正しい経営行動”だと言えるでしょう。