社労士が実務目線で解説 インボイス制度「出張旅費等特例」で中小企業が本当に楽になる理由
杉山 晃浩
インボイス制度が始まって以降、
中小企業の経営者や総務・経理担当者から、こんな声をよく聞くようになりました。
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「領収書の管理が地獄になった」
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「社員の立替精算がインボイス対応できていない」
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「現場にこれ以上の負担をかけたくない」
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「結局、何が正解なのか分からない」
特に出張や外回りが多い会社ほど、
インボイス制度による“実務疲れ”は深刻です。
しかし実は、
インボイス制度には、中小企業の実務を確実に軽くする特例があります。
それが――
「出張旅費等特例」です。
この特例を正しく理解し、正しく使えば、
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領収書がなくても
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インボイスがなくても
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帳簿保存だけで
仕入税額控除ができるケースが存在します。
本記事では、
社労士として多くの現場を見てきた立場から、
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出張旅費等特例とは何か
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どんな会社が使うと本当に楽になるのか
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逆に、どこに注意しないと危ないのか
を、できるだけ分かりやすく、実務目線で解説します。
そもそも「出張旅費等特例」とは何か?
インボイス制度では原則として、
仕入税額控除を受けるためには、
インボイス(適格請求書)の保存が必要
とされています。
ところが、出張旅費については例外があります。
出張旅費等特例のポイント
従業員に支給する、以下のようなものが対象です。
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出張時の交通費
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宿泊費
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日当
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出張先で通常必要となる雑費
これらのうち、
「その旅行に通常必要であると認められる部分」については、
👉 インボイスの保存がなくても
👉 帳簿のみの保存で仕入税額控除が可能
とされています。
ここが、多くの中小企業にとって非常に大きな救いになります。
社内規程がなくても使える?実務上の大きな誤解
経営者の方からよくある質問がこれです。
「うちは旅費規程がないから、使えませんよね?」
結論から言うと、
社内規程がなくても使えます。
出張旅費等特例は、
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社内規程の有無
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概算払いか、実費精算か
どちらも問われません。
重要なのはただ一つ。
👉 その金額が「通常必要であると認められる範囲かどうか」
です。
この判断基準は、
所得税の考え方(非課税となる旅費の範囲)に準じて行われます。
どんな会社がこの特例を使うと「本当に楽」になるのか
① 出張・外出が多い会社
例えば、
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営業職が多い会社
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建設・設備・保守点検業
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介護・医療・福祉の巡回型業務
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現場と事務所を行き来する業態
こうした会社では、
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少額の交通費
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立替払い
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現場ごとの支出
が日常的に発生します。
そのすべてにインボイスを求めるのは、
現実的ではありません。
出張旅費等特例を理解していれば、
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「全部インボイスが必要」と思い込む必要はない
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実務を止めずに、税務も守れる
という状態を作ることができます。
② 経理担当者が少ない(またはいない)会社
中小企業では、
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経理担当が1人
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社長や配偶者が経理を兼務
というケースも珍しくありません。
インボイス対応を真面目にやろうとすると、
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領収書のチェック
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登録番号の確認
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保存方法の管理
で、完全に手が回らなくなります。
出張旅費等特例を使えば、
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帳簿に正しく記載する
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金額の妥当性を確認する
この2点に集中でき、
管理コストを大幅に下げることができます。
③ 社員とのやり取りでストレスを感じている会社
「領収書がないと精算できない」
「インボイスじゃないからダメ」
こうしたやり取りは、
社員との無用な摩擦を生みがちです。
特例を正しく理解していれば、
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「これは特例で処理できる」
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「ここから先は給与扱いになる」
と、会社としての基準を説明できるようになります。
これは、労務トラブル防止の観点でも非常に重要です。
ここを間違えると危ない|出張旅費等特例の注意点
便利な特例ですが、
何でもOKというわけではありません。
注意点①「通常必要な範囲」を超えると給与扱い
出張に必要な範囲を超えた金額は、
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出張旅費ではなく
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給与として扱われます
その場合、
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仕入税額控除は不可
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所得税・社会保険の対象
となります。
「日当を多めに出しているつもりが、
実は給与だった」
というケースは、実務では少なくありません。
注意点② 高額・不自然な支給は否認リスクが高い
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出張距離に対して不自然に高い日当
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毎回ほぼ同額で固定されている雑費
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実態のない出張
これらは、税務調査で真っ先に見られます。
「特例があるから大丈夫」という油断は禁物です。
注意点③ 労務と税務を切り離して考えない
ここが、社労士として特に強調したいポイントです。
出張旅費は、
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税務の問題であると同時に
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給与・賃金の問題でもあります。
税理士任せにしていると、
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社会保険の扱い
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労基署対応
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就業規則との整合性
が抜け落ちることがあります。
「楽になる会社」と「後で苦しくなる会社」の分かれ目
出張旅費等特例は、
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正しく理解して
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実務に合った形で運用すれば
確実に中小企業を楽にします。
一方で、
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何となく使う
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都合のいい解釈をする
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根拠を整理しない
こうした使い方をすると、
後から税務・労務の両面で苦しくなる可能性があります。
社労士として伝えたいこと
インボイス制度は、
「全部を完璧にやる」制度ではありません。
使える特例を使い、
無理のない運用を設計することが、
中小企業経営では何より重要です。
出張旅費等特例は、
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実務を止めないための制度
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中小企業の現場を守るための制度
です。
もし、
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自社の運用が正しいのか不安
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給与扱いとの境界線が分からない
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旅費規程を整備すべきか迷っている
そう感じたら、
税務と労務の両方を理解している専門家に一度確認することをおすすめします。
制度は、
知っている会社から、確実に楽になります。