出張旅費「日当」の課題を整理する 税務・労務・インボイスの交差点

杉山 晃浩

なぜ「日当」は、こんなにも揉めるのか

出張旅費の中でも、「日当」ほど判断が分かれるものはありません。

  • 昔から支給している

  • 税理士から「問題ない」と言われた

  • インボイス制度には特例がある

こうした理由から、多くの中小企業では
「深く考えずに使われている制度」になっています。

しかし実務の現場では、
日当はしばしば 税務・労務・インボイスの交差点 で問題を起こします。

経営者に悪意はありません。
むしろ「社員の負担を考えて」「現場を回すために」
そうした善意から生まれているケースがほとんどです。

それでも、
日当は放置すると、静かに爆発する制度でもあります。


日当は経費なのか、給与なのか

日当は一般的に「出張旅費の一部」として扱われます。
交通費や宿泊費と同じく、出張に伴う負担を補填するためのお金です。

ただし、ここが重要なポイントです。

日当は

  • 実費精算ではない

  • 金額が固定されやすい

という性質を持っています。

そのため、
出張に伴う必要経費なのか
実質的な賃金なのか
その境界線が非常に曖昧になります。

「非課税で処理しているから大丈夫」
「経費で落としているから問題ない」

そう考えている会社ほど、
後から“給与扱い”と判断されるリスクを抱えています。


税務の視点で見る「日当」の課題

税務署が日当を見るとき、
実は金額の大小だけを見ているわけではありません。

見られているのは、整合性です。

  • 出張の距離・時間・内容に合っているか

  • 日当の金額が合理的か

  • 支給ルールが一貫しているか

例えば、

  • 片道30分の移動でも日当5,000円

  • 月に何度も出張しているのに毎回同額

  • 出張内容を説明できない

こうしたケースでは、
「本当に出張旅費なのか?」
という疑問を持たれます。

インボイス制度には
出張旅費等特例がありますが、
これはあくまで 仕入税額控除の話 です。

日当そのものが
「出張に通常必要なもの」と認められなければ、
特例以前の問題になります。


労務の視点で見ると、もっと怖い

社労士として現場で感じるのは、
税務よりも労務の方が後で痛くなる という現実です。

日当が次のような形になっている場合、
労務上はかなり危険です。

  • 毎月ほぼ固定額で支給されている

  • 出張の有無にかかわらず支給されている

  • 実質的に賃金の補填になっている

この場合、
日当は 「賃金」 と判断される可能性があります。

そうなると、

  • 社会保険の算定対象

  • 未加入・不足分の遡及

  • 労基署からの是正指導

といった問題に発展します。

さらに厄介なのが、社員との関係です。

「経費だと思っていたのに給与扱い?」
「手取りが減るのは納得できない」

こうした不満が、
労務トラブルの火種になることも珍しくありません。


インボイス制度が日当問題をややこしくした

インボイス制度の導入で、
日当問題はさらに複雑になりました。

「出張旅費はインボイス不要」
「帳簿保存だけでいい」

この情報だけが一人歩きし、
“何でもOK”という誤解が広がっています。

しかし繰り返しますが、
出張旅費等特例は
インボイスの保存義務を緩和する制度です。

日当が

  • 出張旅費として妥当か

  • 給与に該当しないか

この判断まで免除してくれる制度ではありません。

インボイス特例を理由に
日当の設計を考えなくなることが、
最も危険なパターンです。


なぜ「専門家任せ」は危ないのか

日当問題が難しい理由は、
一人の専門家では完結しないからです。

  • 税理士は税務の視点

  • 社労士は賃金・労務の視点

それぞれ正しいことを言っています。
しかし、会社の実務はその中間にあります。

「税務はOKだけど、労務はNG」
「労務は問題ないけど、税務で否認」

こうしたズレは、現場では頻繁に起きています。

最終的に責任を負うのは、
経営者自身です。

だからこそ、
全体を俯瞰して判断する視点が欠かせません。


日当問題を整理する3つの視点

① 出張の実態を説明できるか

  • どこへ

  • 何のために

  • どんな負担があるのか

これを第三者に説明できますか?

② 金額に合理性があるか

  • 距離や時間に見合っているか

  • 業界水準と比べて極端ではないか

③ 社内外に説明できるか

  • 社員に説明できる

  • 税務署・労基署にも説明できる

この3点が揃っていれば、
日当は「危ない制度」ではなくなります。


楽になる会社と、詰む会社の分かれ目

日当で楽になる会社には共通点があります。

  • 日当を“設計”している

  • ルールを言語化している

  • 税務と労務を分けて考えていない

一方、詰む会社の共通点は明確です。

  • 昔からこうしている

  • みんなやっている

  • 今まで問題なかった

日当は、
問題が起きてからでは遅い制度です。


社労士として伝えたいこと

日当は、
節税テクニックではありません。

経営のための仕組みであり、
社員との信頼を守るための装置です。

インボイス制度をきっかけに、
今こそ一度、日当と出張旅費を
整理・棚卸しすることをおすすめします。

  • この運用は本当に大丈夫か

  • 説明できる形になっているか

そうした確認が、
将来のトラブルを防ぎます。

制度は、知っている会社から楽になります。

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