社長は遺言を作るべきか? ― 作成が必要な人・不要な人の分かれ道 ―
杉山 晃浩
第1章|「遺言は全員必要」ではない。でも社長は別
相続の話になると、よく聞かれる質問があります。
「遺言って、やっぱり全員作ったほうがいいんですか?」
結論から言えば、遺言は全員に必須というわけではありません。
家族構成や財産内容によっては、遺言がなくても大きな問題が起きないケースもあります。
しかし、この一般論をそのまま社長・経営者に当てはめるのは危険です。
なぜなら、社長の相続は
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家族の問題であると同時に
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会社の問題
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場合によっては社員や取引先を巻き込む問題
になるからです。
このブログでは、「遺言は必要か?」を感覚論ではなく、
立場と状況で整理していきます。
第2章|遺言を「必ず作成すべき人」の特徴
まず、迷う余地なく遺言を作成すべき人から見ていきましょう。
① 自社株・持分を保有している社長
会社の株式や持分は、相続によって分散します。
遺言がなければ、法定相続どおりに分かれ、
「誰が経営判断をするのか分からない会社」になることも珍しくありません。
② 相続人が複数いる人
配偶者と子どもがいる、兄弟姉妹が相続人になる、
こうしたケースでは「誰が何を相続するか」が必ず問題になります。
③ 再婚・前婚の子がいるケース
感情面の配慮が特に重要になるため、
遺言がない状態は争いの火種を残すことになります。
④ 事業用資産と個人資産が混在している人
不動産や借入、連帯保証が絡む場合、
家族だけで整理するのは非常に困難です。
▶ ここに当てはまる社長は、遺言がない=経営リスク
と言っても過言ではありません。
第3章|遺言を「作ったほうが良い人」の特徴
次に、「必須ではないが、作らない理由もない人」です。
① 今は財産が少ないが、今後増える可能性が高い社長
「今はまだ…」と言っている間に、
財産も会社も大きくなっていきます。
遺言は、財産が増えてから考えるものではなく、
増える前に“土台”を作っておくものです。
② 配偶者にすべて任せたいと考えている人
「妻に全部渡せばいい」
そう思っていても、遺言がなければ法定相続が優先されます。
③ 相続人同士の関係が“今は”良好なケース
相続は、関係が良い家族ほど感情がこじれやすい場面でもあります。
④ 自宅が主な財産の人
自宅は分けにくい財産の代表例です。
売るのか、住み続けるのか、誰が引き継ぐのか。
遺言がなければ、家族に判断を委ねることになります。
▶ 「まだ早い」は、作らない理由にはならない
これが、この章の結論です。
第4章|遺言を「今は作成しなくてもよい人」とは
一方で、正直に言えば
今の段階では、遺言を作らなくても大きな問題が起きにくい人もいます。
例えば、
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相続人が1人しかいない
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財産構成が極めてシンプル
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家族構成・財産状況が当面変わらないと合理的に見込める
こうしたケースです。
ただし重要なのは、
「今は不要」と「一生不要」はまったく別だという点です。
結婚、出産、事業拡大、不動産取得。
社長の人生は変化が前提です。
状況が変われば、判断も変わります。
第5章|社長が「自分はどこに当てはまるか」判断する視点
遺言が必要かどうかは、
次の4つの視点で整理すると見えやすくなります。
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家族構成(相続人は誰か)
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財産の種類(分けやすいか、分けにくいか)
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会社との関係性(株式・借入・保証)
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将来の変化(事業・家族の見通し)
このうち、1つでも不安があれば、
「検討対象」から外れることはありません。
第6章|なぜ社長の遺言は「書き方」より「設計」が重要なのか
遺言は、書くだけなら誰でもできます。
しかし、機能する遺言を作るには設計が必要です。
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法定相続と想いのズレ
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会社への影響
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家族が動ける内容か
社長の遺言は、
「法律的に有効」だけでは足りません。
だからこそ、
行政書士が設計段階から関与する公正証書遺言が
経営者には向いています。
第7章|遺言は「相続対策」ではなく「経営判断」
社長の遺言は、
お金をどう分けるかの話ではありません。
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誰に会社を託すのか
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家族をどう守るのか
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混乱を残さないか
これは、最後の経営判断です。
「相続の話は縁起でもない」
そう感じる方ほど、
遺言を“経営の延長”として捉えると、見え方が変わります。
第8章|まとめ|迷ったら「今の状況を整理する」ことから
遺言を作るか、作らないか。
その結論を急ぐ必要はありません。
ただし、
何も考えないまま放置することだけは、最も危険です。
家族、財産、会社。
まずは、今の状況を整理すること。
それが、社長としての第一歩です。