社長の遺言は更新が必要です ― 事業と家族は変化する ―
杉山 晃浩
第1章|「遺言は一度作れば安心」という誤解
「遺言は一度作れば、それで安心」
多くの社長が、遺言を作成した直後にこう感じます。
実際、遺言を作ること自体は簡単ではありません。
時間を取り、専門家と相談し、ようやく完成した遺言ですから、
「これで相続対策は終わった」と思いたくなるのも無理はありません。
しかし、冷静に考えてみると、
遺言を作った日を境に、事業も家族も止まることはありません。
会社は成長し、縮小し、形を変えます。
家族も、年齢を重ね、立場が変わり、関係性も変化します。
遺言だけが、その時点のまま固定されてしまう。
ここに、相続トラブルの芽があります。
第2章|社長の遺言が“古くなる”典型的なタイミング
実務の現場では、次のようなタイミングで
「遺言が現状と合っていない」ケースが多く見られます。
事業の変化
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会社規模が大きくなった
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事業内容が変わった
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株式の持ち分が変動した
特に株式は、遺言作成時と比べて
価値や構成が大きく変わりやすい財産です。
家族構成の変化
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子どもが独立した
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結婚・離婚があった
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孫が生まれた
家族関係の変化は、
「誰に何を残したいか」という気持ちにも影響します。
健康状態の変化
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判断力が落ちてきた
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将来に不安を感じるようになった
この段階で遺言を見直そうとしても、
すでに修正が難しくなっているケースもあります。
第3章|遺言が現状と合っていないと、何が起きるのか
「少し古いだけだから、大きな問題にはならない」
そう思われがちですが、実際には次のような問題が起こります。
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遺言に書かれた財産がすでに存在しない
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指定された受遺者が亡くなっている
-
会社や株式の分け方が現実的でない
結果として、
遺言どおりに執行できない、
あるいは
遺言があるのに相続人同士で協議が必要になる
という事態に陥ります。
これは、社長が本来望んでいた相続の形ではないはずです。
第4章|遺言は「上書きできる」ことを知らない社長が多い
意外と知られていないのが、
遺言は何度でも作り直せるという点です。
法律上、新しい遺言があれば、
原則として新しい遺言が優先されます。
公正証書遺言であっても、
内容を見直し、作り直すことは珍しいことではありません。
「一度作ったから、もう触らない方がいい」
という考え方こそが、実はリスクになります。
第5章|更新すべきかどうかの判断基準
遺言を見直すべきかどうかは、
次の視点で考えると整理しやすくなります。
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作成から何年経っているか
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財産や会社の状況は変わっていないか
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家族構成に変化はなかったか
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今この瞬間に相続が起きたら、困る人はいないか
一つでも「気になる点」があれば、
見直しの検討対象です。
第6章|遺言更新を“自分任せ”にすると起きやすい失敗
社長は日々忙しく、
遺言の見直しはどうしても後回しになりがちです。
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忙しくて連絡しなかった
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判断を先送りにした
-
誰にも相談していなかった
その結果、
「気づいたときには修正できない」
「相続後に家族が困る」
という事態が起こります。
これは、社長本人の問題というより、
仕組みがなかったことが原因です。
第7章|専門家が関与し続ける遺言という考え方
遺言は、
「作ること」よりも
「適切な状態を保ち続けること」が重要です。
そのためには、
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状況が変わったときに相談できる
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定期的に確認する機会がある
-
自分では気づかない変化を指摘してもらえる
こうした仕組みが必要になります。
遺言を、
一度きりの書類ではなく、運用するもの
として捉えることが大切です。
第8章|杉山総合法務が行っている遺言の運用サポート
杉山総合法務では、
遺言を「作って終わり」にしないために、
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遺言をお預かりする
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状況が変わった際には連絡をいただく
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上書き・見直しの相談に応じる
という運用を行っています。
社長自身がすべてを覚えておく必要はありません。
変化があったときに相談できる窓口があることが、
結果的に家族と事業を守ることにつながります。
第9章|まとめ|遺言は“更新できる経営判断”のひとつ
事業計画を見直すように、
組織体制を変えるように、
遺言もまた、状況に応じて更新していくものです。
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遺言は完成品ではない
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変化を前提にしてこそ意味がある
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更新できる状態を保つことが、最大の安心
社長だからこそ、
相続対策も「仕組み」で考えることが重要です。
遺言を更新できる状態にしておくこと。
それが、家族と事業を守る、最後の経営判断と言えるでしょう。