「人を大切にしているつもり」の会社ほど、人本経営から遠ざかる理由

杉山 晃浩

第1章|「うちは人を大切にしている」と言える会社ほど、立ち止まってほしい

「うちは、人を大切にしている会社です」
この言葉を口にする経営者は少なくありません。そして、その多くは本気でそう思っています。

社員に声をかけている。
無理な残業はさせていない。
給料も、地域水準から見れば悪くない。

決して、社員を軽視しているわけではない。
むしろ「人を大切にしたい」という思いを持って経営している社長の方が圧倒的に多いのが現実です。

それでも――
人が定着しない。
若手が育たない。
ある日突然、退職を告げられる。

この矛盾に、心当たりはないでしょうか。

問題は、「人を大切にしているかどうか」ではありません。
その“つもり”が、社員にも同じ意味で伝わっているかどうかです。


第2章|「人を大切にする」と「人本経営」は似て非なるもの

「人を大切にする経営」と「人本経営」。
言葉は似ていますが、意味は大きく異なります。

人を大切にする、とは多くの場合、
・気遣い
・配慮
・思いやり
といった“姿勢”の話です。

一方、人本経営とは、
人を軸にして経営を設計することを意味します。

つまり、感情や善意ではなく、
・判断基準
・ルール
・仕組み
として「人をどう扱うか」を決めているかどうか、という違いです。

善意は、人によってブレます。
忙しさや感情によって、対応も変わります。

しかし経営は、再現性がなければ続きません。
この違いを理解していないと、「大切にしているつもり」でも、人本経営からは遠ざかってしまいます。


第3章|「つもり経営」が生まれる3つの典型パターン

パターン①|社長の基準が、社員に共有されていない

社長の中では「こういう時は配慮している」「ここは我慢してもらっている」という基準があっても、それが言語化されていないケースは非常に多く見られます。

社員からすれば、
「なぜ今回はOKで、今回はダメなのか」
「誰に聞けばいいのか分からない」
という状態です。

結果として、「人を大切にしている」は社長の中だけの話になります。


パターン②|不満が表に出ていないことを、良い状態だと思っている

「社員から不満は出ていません」
これは、一見すると良い状態に聞こえます。

しかし実務の現場では、
不満が出ない=満足しているとは限りません。

多くの場合、
「言っても変わらない」
「波風を立てたくない」
という諦めの結果、沈黙しているだけです。

この沈黙こそ、人本経営から遠ざかる大きなサインです。


パターン③|過去の成功体験に、無意識に縛られている

「昔はこれでうまくいっていた」
「自分の若い頃は、もっと大変だった」

こうした経験は、経営者にとって大切な財産です。
しかし、時代や価値観が変わった今、それをそのまま当てはめるとズレが生じます。

“人を大切にしているつもり”は、過去基準のまま更新されていないケースも多いのです。


第4章|社員は「大切にされているか」をこう見ています

社員は、社長の気持ちを直接測ることはできません。
代わりに、日々の「体験」から判断します。

たとえば、

  • 判断基準が一貫しているか

  • 相談したとき、きちんと向き合ってもらえるか

  • 将来の話をしてもらえるか

  • 声を上げた結果、何かが変わったか

これらはすべて、制度以前の問題です。

社員は、
「人を大切にしているか」ではなく、「大切にされていると感じられるか」
で会社を評価しています。


第5章|「つもり」が人本経営を遠ざける本当の理由

「うちは大丈夫だろう」
「そこまで問題はない」

この感覚こそが、人本経営を遠ざけます。

やっている“つもり”になると、
・確認をしなくなる
・社員の声を集めなくなる
・ズレに気づけなくなる

結果として、問題は見えないまま蓄積し、
ある日「退職」という形で一気に表に出ます。

最も危険なのは、
悪意のない放置です。


第6章|人本経営に近い会社は、ここが違います

人本経営に近い会社は、特別な制度を持っているわけではありません。

共通しているのは、
・「本当に伝わっているか?」を確認している
・社員の声を定期的に集めている
・社長自身が思い込みを疑っている

つまり、「人を大切にしているかどうか」を
自分で決めつけていないのです。

この姿勢が、人本経営を支えています。


第7章|人本経営は、制度を入れる前にやることがある

ここでよくある誤解があります。
「では、人本経営のために何か制度を入れよう」という発想です。

しかし、制度はあくまで手段です。
現状が分からないまま制度を作っても、逆効果になることがあります。

まず必要なのは、
・社長の認識
・社員の実感
このズレを知ることです。

アンケート、面談、第三者の視点。
方法はいくつもあります。


終章|人を大切にしたいなら、「確認する会社」になろう

人を大切にしたい、という思い自体は間違っていません。
むしろ、その思いがあるからこそ、人本経営に近づけます。

ただし、「つもり」のままでは伝わりません。
確認し、見直し、アップデートし続けることが必要です。

人本経営とは、
人を大切にしたい気持ちを、経営として形にし続けることです。

「人を大切にしているつもり」から、
「人を大切にしていると伝わる会社」へ。

その一歩は、思っているより小さなところから始まります。

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