社会保険料の視点で考える 住宅手当と借り上げ社宅
杉山 晃浩
「社員の住居支援をしたい」
そう考えたとき、多くの会社がまず思い浮かべるのが住宅手当です。一方で、近年は借り上げ社宅を選択する企業も増えてきました。
どちらも社員にとってはありがたい制度ですが、
社会保険料の視点で見ると、会社負担・本人負担に大きな差が出ることがあります。
本記事では、
「なぜ差が出るのか」
「どこを勘違いしやすいのか」
を、社労士の立場から整理していきます。
第1章 「どちらも住居支援」なのに、なぜ差が出るのか
住宅手当も借り上げ社宅も、目的は同じです。
社員の住居費負担を軽くし、働きやすい環境を整えること。
しかし、実務の現場では次のような声をよく聞きます。
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住宅手当を出したら人件費が想定以上に増えた
-
借り上げ社宅にすると社保料が軽くなると聞いたが、本当なのか
-
何が違うのか、正直よく分からない
この違いの正体は、社会保険における「報酬」の考え方にあります。
第2章 住宅手当の社会保険上の位置づけ
住宅手当は、社会保険上、原則として「報酬」に該当します。
報酬とは、
労働の対価として会社から受ける、金銭やそれに準ずるもの
と定義されています。
住宅手当は、毎月固定的に支給されるケースが多く、
その場合は標準報酬月額にそのまま反映されます。
結果として、
-
健康保険料
-
厚生年金保険料
の算定基礎が上がり、
会社負担・本人負担の双方が増えることになります。
「手当を出しただけなのに、社会保険料まで増えている」
これは決して珍しい話ではありません。
第3章 借り上げ社宅は「現物給与」としてどう扱われるか
一方、借り上げ社宅は、社会保険の世界では「現物給与」として整理されます。
現物給与とは、
現金ではなく、物やサービスの形で受け取る報酬のことです。
代表例としては、
-
社宅
-
食事の支給
-
通勤定期
などがあります。
借り上げ社宅の場合、
社員は「現金」を受け取っているわけではありません。
あくまで、住居という便益を受けているにすぎません。
ここが、住宅手当との決定的な違いです。
第4章 なぜ借り上げ社宅のほうが社保料が軽くなりやすいのか
住宅手当は、支給額の全額が報酬として評価されます。
一方、借り上げ社宅は、
一定の評価方法に基づいて算定された金額が、現物給与として扱われます。
そのため、実務上は、
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実際の家賃額
= -
社会保険上の評価額
とはならないケースが多く、
結果として標準報酬月額に与える影響が小さくなることがあります。
これが、
「借り上げ社宅のほうが住宅手当より社保料が安くなりやすい」
と言われる理由です。
ただし、必ず下がるわけではない点には注意が必要です。
第5章 数字で見る住宅手当と借り上げ社宅の違い
例えば、社員の住居支援として、
月5万円相当の支援をするケースを考えてみましょう。
住宅手当の場合
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住宅手当:5万円
-
そのまま標準報酬月額に反映
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社会保険料(会社・本人とも)増加
借り上げ社宅の場合
-
家賃5万円相当
-
現物給与として評価
-
評価額が抑えられるケースが多い
結果として、
同じ住居支援でも、社会保険料の負担構造が変わることになります。
この差は、
社員が増えるほど、
在籍期間が長くなるほど、
無視できない数字になります。
第6章 「社保料が下がるから導入」は危険な理由
ここで、社労士として強調しておきたい点があります。
それは、
「社保料が下がるから借り上げ社宅にする」
という発想は危険だということです。
理由は3つあります。
1つ目は、制度目的を見失いやすいこと。
2つ目は、税務とのズレが生じやすいこと。
3つ目は、運用を誤ると否認リスクが高まること。
借り上げ社宅は、
正しく設計・運用されてこそ意味を持つ制度です。
第7章 住宅手当と借り上げ社宅、どちらを選ぶべきか
では、どちらを選ぶべきなのでしょうか。
住宅手当が向いている会社
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社宅管理の手間をかけたくない
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社員の居住地がバラバラ
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制度をシンプルにしたい
借り上げ社宅が向いている会社
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採用・定着を重視したい
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若手・転職者が多い
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住居支援を制度として設計したい
大切なのは、
自社の人事戦略に合っているかです。
第8章 社保料だけで判断しないために、専門家ができること
住宅支援制度は、
税務・労務・実務が交差する分野です。
税理士だけ、社労士だけで完結する話ではありません。
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税務上どうなるのか
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社会保険上どう扱われるのか
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実務として回るのか
これらを総合的に見て、初めて「使える制度」になります。
まとめ 住宅支援は「出し方」で結果が変わる
住宅手当と借り上げ社宅。
同じ住居支援でも、現金で出すか、現物で出すかによって、
社会保険料の結果は大きく変わります。
重要なのは、
目先の負担軽減ではなく、
中長期で見た経営判断です。
制度をどう設計し、どう運用するか。
そこにこそ、専門家が関与する価値があります。