知らないと違反になる? フリーランス新法で発注企業が気をつけるべきこと
杉山 晃浩
第1章|なぜ今「フリーランス新法」が問題になっているのか
近年、フリーランスという働き方は急速に広がりました。
エンジニア、デザイナー、ライター、講師、コンサルタントなど、業務委託という形で個人に仕事を依頼する企業は、もはや珍しくありません。
一方で、フリーランスとの取引を巡って、次のようなトラブルが全国で多発していました。
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契約内容が曖昧なまま仕事をさせられる
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報酬の支払いが何か月も先送りされる
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一方的に条件を変更される
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事実上、社員と同じように扱われている
これまでフリーランスは「労働者」ではないため、労働基準法などの保護を受けられませんでした。その結果、立場の弱さを背景に不利益を被りやすい構造が放置されてきたのです。
こうした状況を是正するために制定されたのが、いわゆるフリーランス新法です。
この法律は、フリーランスを「労働者にする」ものではありません。しかし、発注する企業側に最低限守るべきルールを課す点で、これまでとは明確に一線を画しています。
第2章|フリーランス新法の対象は誰か(意外と広い)
フリーランス新法の正式名称は
「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律」
です。
ポイントは、対象が非常に限定されていないという点です。
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個人事業主として業務を受託している
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法人ではなく「個人」である
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雇用契約ではなく、業務委託契約である
このようなケースは、原則としてフリーランス新法の対象になります。
「うちは業務委託だから関係ない」
「外注先だから労務管理は不要」
そう考えている企業ほど、実は要注意です。
なお、実態として労働者性が強い場合(指揮命令、拘束時間、代替性の欠如など)は、フリーランス新法ではなく、労働基準法などが適用される可能性があります。
つまり、どちらにしても企業側のリスクがゼロになることはありません。
第3章|発注企業に新たに課された主な義務とは
3-1 契約条件を「明示」する義務
フリーランス新法で最も基本となるのが、契約条件の明示義務です。
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業務内容
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報酬額
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支払期日
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契約期間
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成果物の取扱い
これらを、書面または電子データで明確に示す必要があります。
「いつも口頭で説明している」
「LINEやチャットでやり取りしている」
こうした対応は、トラブル時に企業側が不利になります。
3-2 報酬支払いの期限ルール(60日以内)
報酬の支払いについても、明確なルールが設けられました。
原則として、
成果物の受領日から60日以内に支払う必要があります。
これまでのように
「月末締め翌々月払い」
「資金繰り次第で支払う」
といった運用は、見直しが必要になる可能性があります。
3-3 募集・条件提示の正確性
フリーランスを募集する際、
実態と異なる条件を提示することは禁止されます。
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実際より高い報酬を強調する
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業務内容を軽く見せる
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制約条件を後出しする
これらは、悪意がなくても問題になる可能性があります。
第4章|やってはいけないNG行為(知らずにやりがち)
フリーランス新法で特に注意すべきなのが、「知らずにやってしまう違反」です。
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一方的な報酬減額
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追加業務の無償要求
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納品後の過剰な修正指示
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契約更新を突然打ち切る
企業側としては「普通の取引」のつもりでも、フリーランス側から見れば不利益になるケースは少なくありません。
この法律では、立場の強い側の行為が厳しくチェックされることを意識しておく必要があります。
第5章|実は重い「ハラスメント・就業環境」への配慮義務
フリーランス新法の特徴の一つが、ハラスメント対策です。
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パワーハラスメント
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セクシュアルハラスメント
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妊娠・出産・育児に関する不利益取扱い
これらについて、フリーランスも保護対象になります。
「社員ではないから関係ない」
という考えは、もはや通用しません。
さらに重要なのは、相談体制の整備です。
フリーランスが安心して相談できる窓口がない場合、トラブルは一気に外部化します。
第6章|違反するとどうなる?行政対応と企業リスク
フリーランス新法に違反した場合、行政による以下の対応が想定されています。
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指導・助言
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勧告
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命令
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企業名の公表
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罰金(命令違反の場合)
特に注意すべきなのは、フリーランス本人からの申出制度が用意されている点です。
小さな不満が、ある日突然「行政対応」になる可能性もあります。
第7章|発注企業が今すぐ見直すべき実務チェック
この法律を受けて、発注企業が見直すべきポイントは明確です。
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業務委託契約書は整備されているか
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支払サイトは適正か
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募集文言に誤解はないか
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ハラスメント相談の仕組みはあるか
完璧である必要はありません。
ただし「何もしていない」状態は、最も危険です。
第8章|「知らなかった」では済まされない時代へ
フリーランス新法は、企業を縛るための法律ではありません。
目的は、取引の透明性を高め、トラブルを未然に防ぐことです。
しかし同時に、
「知らなかった」
「今までこうしてきた」
という言い訳が通用しない時代に入ったことも意味します。
業務委託を使う企業こそ、
制度を理解し、仕組みでリスクを下げる
ことが求められています。
少しでも不安がある場合は、専門家に相談しながら整備することが、結果的に最もコストを抑える選択になります。