退職金制度にも“時代遅れ”がある 中退共から企業型DCへ見直す企業が増えた理由

杉山 晃浩

第1章|退職金制度は「一度入れたら終わり」ではない

多くの中小企業では、退職金制度が
「昔からこうしているから」
「特に問題が起きていないから」
という理由で、そのまま使われ続けています。

中小企業退職金共済(中退共)も、まさにその代表例です。
導入しやすく、制度としても安心感がある。
長年にわたって中小企業の退職金を支えてきた制度です。

ただし、社労士の立場から見ると、
退職金制度は「一度決めたら一生そのまま」という性質のものではありません。

なぜなら、
退職金制度は“時代の前提”に強く影響される制度だからです。


第2章|国が進める「預貯金から投資へ」という大きな流れ

ここ数年、国の政策は一貫しています。
キーワードは、「貯める」から「育てる」へです。

  • NISAの拡充

  • iDeCoの制度改正

  • 金融教育の推進

これらはすべて、
「預貯金だけでは将来の生活を支えきれない」
という前提に立っています。

背景には、

  • インフレの進行

  • 超低金利の長期化

  • 年金制度への不安

があります。

預金に置いておくだけでは、
お金の“額”は減らなくても、
価値は目減りしていく時代になりました。


第3章|中退共は悪い制度ではない

― ただし「前提」が変わってきている

ここで誤解してほしくないのは、
中退共は決して悪い制度ではないという点です。

中退共は、

  • 元本確保が前提

  • 会社にとって分かりやすい

  • 社員にも説明しやすい

という強みがあります。

特に、
デフレが長く続いた時代には、
「減らない退職金」は大きな価値でした。

しかし、今はどうでしょうか。

物価は上がり、
生活コストは増え、
お金に求められる役割が変わっています。


第4章|インフレ時代に見えてきた中退共の限界

インフレ時代の問題点は、
「減る・減らない」ではありません。

「増えない」こと自体がリスクになる点です。

中退共で積み立てた退職金は、
名目上は減っていなくても、
実質的な価値は下がっている可能性があります。

社員の立場から見ると、

  • 会社は退職金を用意してくれている

  • でも、将来の生活が楽になるイメージが持てない

という感覚が生まれます。

この“体感のズレ”が、
近年の不安の正体です。


第5章|企業型DCが注目される理由

― 退職金を「守る」から「育てる」へ

こうした背景の中で、
企業型DC(確定拠出年金)に注目が集まっています。

企業型DCは、
退職金を「貯めるもの」ではなく、
「育てるもの」として考える制度です。

  • 長期

  • 分散

  • 積立

という投資の基本を前提に、
インフレに対応できる設計になっています。

特に若い社員にとっては、
時間を味方につけられる点が大きな強みです。


第6章|なぜ「中退共を解約してまで」DCへ移るのか

最近は、
中退共とDCを併用するのではなく、
あえて中退共を解約し、企業型DCへ切り替える
という企業も増えています。

理由は明確です。

  • 掛金を柔軟に設計できる

  • 人材確保・定着に使いやすい

  • 社員の金融リテラシー向上につながる

中退共は「一律・固定」が前提ですが、
企業型DCは「設計」が可能です。

この違いが、
経営戦略として評価されるようになってきました。


第7章|企業型DCにも向き・不向きがある

― 全社一律に勧められない理由

ただし、
企業型DCは万能ではありません。

  • 社員数

  • 年齢構成

  • 経営方針

によって、向き・不向きがあります。

無理に導入すると、

  • 社員の理解が追いつかない

  • 制度が形骸化する

  • 不信感を生む

といった問題も起きます。

だからこそ、
制度ありきではなく、会社ありきの判断が必要です。


第8章|まとめ|退職金制度は「会社の未来」を映す鏡

中退共か、企業型DCか。
本質は制度の優劣ではありません。

重要なのは、
「今の時代に合っているか」
そして、
「社員の将来にどう向き合うか」です。

退職金制度は、
会社の価値観を映す鏡です。

見直すかどうかを考えること自体が、
すでに立派な経営判断と言えるでしょう。

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