「この福利厚生プラン、本当に大丈夫?」 保険だけ入って安心していませんか
杉山 晃浩
はじめに|その「安心」、根拠はありますか?
「これは福利厚生プランですから」
生命保険営業から、こう説明を受けたことがある経営者は少なくありません。
社員の万一に備えられる、会社にもメリットがある、税務上も問題ない――
そう言われると、「それなら安心だ」と思ってしまうのも無理はありません。
しかし、ここで一度立ち止まって考えてみてください。
その“福利厚生”、制度として説明できますか?
保険に入っていることと、
福利厚生が整っていることは、まったく別の話です。
この記事では、
「福利厚生プラン」という言葉の裏に潜む誤解と、
保険だけ入っている会社ほど陥りやすい落とし穴を、
あえて警鐘強めで整理します。
第1章|「福利厚生プラン」という言葉の正体
まず押さえておくべき事実があります。
「福利厚生プラン」という名称の保険商品は、基本的に存在しません。
これは多くの場合、
企業向け生命保険をまとめて呼ぶ営業用の表現です。
-
社員や役員を被保険者にした生命保険
-
死亡や退職時に会社に保険金が入る
-
それを原資に何かしら支給できる
こうした特徴を、
「福利厚生に使えますよ」と説明しているに過ぎません。
問題は、この説明の途中で、
「制度設計」の話がごっそり抜け落ちていることです。
第2章|生命保険と福利厚生制度は、そもそも役割が違う
ここを混同すると、ほぼ確実に失敗します。
生命保険の役割
-
万一に備えた資金の準備
-
会社のキャッシュフロー対策
-
あくまで「お金」の話
福利厚生制度の役割
-
誰を対象に
-
どんな条件で
-
どんな給付をするのか
これをルールとして会社が約束することです。
つまり、
生命保険は「手段」
福利厚生は「制度」
保険に入っただけで福利厚生が整う、という発想自体が誤りです。
第3章|「福利厚生プランがあるから大丈夫」と言っていた会社
ここで、よくある事例を紹介します。
ある中小企業A社の話
A社は、社員20名ほどの会社です。
数年前、保険営業から次のように勧められました。
「社員のためにもなりますし、
死亡時や退職時に使える福利厚生プランです」
社長は、「それなら」と導入を決断。
就業規則や退職金規程は特に見直さず、
“保険に入ったこと”で安心していました。
ところが数年後、
勤続15年の社員が急逝します。
そのとき起きたこと
-
保険金は会社に入った
-
しかし
-
誰に
-
いくら
-
どの名目で
支給するか、何も決まっていない
-
配偶者と親がそれぞれ会社に連絡してきて、
主張は食い違います。
社長はこう言いました。
「福利厚生の保険があると思っていたのに、
どうしてこんなに揉めるんだ…」
答えは明確です。
福利厚生“制度”が存在していなかったのです。
第4章|保険だけ入っている会社に起きやすい3つの問題
① 判断がすべて「その場しのぎ」になる
-
前例がない
-
規程がない
-
根拠がない
結果、社長の感覚や気持ちで判断せざるを得なくなります。
これは、経営リスクです。
② 税務署・専門家から説明を求められる
-
なぜこの金額なのか
-
なぜこの人に支給したのか
-
本当に福利厚生なのか
「保険に入っていたから」という説明は、
何の根拠にもなりません。
③ 社員・遺族との不信感が残る
-
聞いていた話と違う
-
人によって扱いが違う
-
あの会社は対応が冷たい
一度失った信頼は、簡単には戻りません。
第5章|福利厚生に“するために”本来必要なもの
福利厚生に必要なのは、保険ではありません。
ルールです。
最低限、次のような内容が整理されている必要があります。
-
対象者(全社員か、一部か)
-
支給条件(いつ、どんな場合か)
-
支給内容の考え方(定額か、基準か)
-
死亡時・退職時の区分
-
受取人の考え方
これらを、
就業規則や関連規程に落とし込むことで、
初めて「福利厚生制度」と呼べます。
第6章|生命保険は“制度に合わせて”使うもの
順番は、絶対に逆にしてはいけません。
-
制度を決める
-
支給内容を整理する
-
その原資として生命保険を使う
この順番を守らないと、
-
保険金額が合わない
-
税務上の説明ができない
-
制度と実態がズレる
といった問題が必ず起きます。
第7章|なぜ「制度」を見る専門家が必要なのか
税理士は税務の専門家です。
保険営業は保険商品の専門家です。
しかし、
-
福利厚生制度
-
就業規則との整合性
-
社内ルールとしての公平性
これを横断的に見る専門家は、意外と少ない。
福利厚生は人事制度です。
制度である以上、「誰かが設計し、整合性を取る」必要があります。
まとめ|「保険だけ入って安心」は、一番危ない
もう一度、問いかけます。
その福利厚生プラン、本当に大丈夫ですか?
-
制度として説明できますか
-
社員に約束した内容は明確ですか
-
万一のとき、迷わず対応できますか
生命保険は、便利な道具です。
しかし、それは制度の代わりにはなりません。
「保険だけ入って安心」している会社ほど、
実は一番リスクを抱えています。
福利厚生とは、
会社が社員に対して示す“ルールとしての約束”です。
その約束を、
平時にきちんと形にしておくこと。
それが、本当の意味での福利厚生です。