「求人票と話が違う」と言われる会社――採用条件を変更するときの正しい伝え方
杉山 晃浩
「求人票では土日休みと書いてあったのに、入社したら土曜日も出勤でした」
「月給25万円だと思って応募したのに、提示された基本給は20万円でした」
「事務職として採用されたはずが、実際には営業の仕事も命じられました」
このような採用トラブルが起きたとき、会社側はよく、
「面接で説明したはずです」
「求人票はあくまで目安です」
「細かい条件は、入社後に決めるつもりでした」
と説明します。
一方、採用された人は、
「そんな話は聞いていません」
「求人票を信じて応募しました」
「この条件だと分かっていたら、前の会社を辞めませんでした」
と主張します。
双方がうそをついているとは限りません。
会社は本当に説明したつもりで、応募者も本当に聞いていない可能性があります。
問題は、求人票、採用サイト、面接時の説明、内定通知、労働条件通知書、実際の給与・勤怠設定が、ひとつの流れとして管理されていないことです。
採用担当者、面接官、総務、給与計算担当者が、それぞれ違う条件を見ていたら、入社する人へ正しい説明はできません。
求人票は「人を集めるための広告」だけではない
経営者の中には、求人票を商品やサービスの広告と同じように考えている人がいます。
少し魅力的に見せた方が応募が増える。
細かな条件は面接のときに説明すればよい。
入社後のことは、その人の能力を見てから決めればよい。
しかし、求職者は求人票を見て、自分の生活が成り立つかどうかを判断します。
- 給料はいくらか
- 休日は何日あるか
- 残業はどのくらいあるか
- 転勤はあるか
- どこで働くのか
- どのような仕事をするのか
- 社会保険に加入できるか
これらは、応募する会社を選ぶための重要な判断材料です。
職業安定法では、会社が労働者を募集する際、仕事内容、契約期間、就業場所、労働時間、休日、賃金、社会保険の適用などの労働条件を明示することが求められています。
応募者の関心を引くためなら、実際とは違う条件を書いてよいわけではありません。
求人票は、採用が決まる前の書類です。
そのため、求人票に書かれた内容が、どのような場合でも自動的に労働契約の内容になるわけではありません。
しかし、
「求人票だから、後で自由に変更できる」
という意味でもありません。
求人票と違う条件で採用することは、すべて違法なのか
採用の途中で条件が変わること自体はあります。
例えば、経理職を募集していたところ、応募者の経験や希望を確認した結果、人事総務の仕事を提案する場合があります。
本人が転勤を希望しないため、総合職ではなく地域限定職として採用し、給与体系が変わることもあるでしょう。
週5日勤務の求人に応募した人から、
「家庭の事情で週4日にできませんか」
と相談され、勤務日数と給与を変更することもあります。
このような変更まで、すべて禁止されているわけではありません。
大切なのは、変更後の条件を応募者に分かるように明示し、その条件を受け入れるかどうかを考える時間を確保することです。
厚生労働省は、募集時に明示した労働条件を変更、追加、削除する場合、求職者に変更内容を明示しなければならないと案内しています。
変更理由について質問された場合には、適切に説明することも求められます。
つまり問題になるのは、
条件を変更したことそのものではなく、変更した事実を曖昧にしたまま採用を進めること
なのです。
「面接で説明しました」は、なぜ危ないのか
採用トラブルが起きた会社から話を聞くと、
「面接では、土曜日も出勤があると伝えました」
「残業が多い時期もあると話しました」
「最初からこの給与額で説明しています」
という回答が返ってくることがあります。
ところが、面接の記録を確認すると、誰が、いつ、どのような言葉で説明したのかが残っていません。
面接官本人も、
「たぶん話したと思います」
という程度しか覚えていないことがあります。
さらに困るのが、面接官の説明内容が会社の正式な条件と違うケースです。
例えば、面接官が応募者へ、
「ほとんど残業はありません」
「土曜日は基本的に休みです」
「入社半年後には正社員になれます」
と話したものの、会社としてはそのような条件を約束していなかった場合です。
面接官に悪気はなくても、応募者は会社の正式な説明だと受け取ります。
面接担当者に採用条件を正しく共有せず、自由に説明させている会社では、求人票と労働条件通知書が正しくてもトラブルを防げません。
面接前には、少なくとも次の事項を面接官へ共有しておく必要があります。
- 今回募集する雇用形態
- 仕事内容と配属予定
- 勤務地と転勤の可能性
- 勤務時間、休憩、休日
- 時間外労働の有無と実態
- 基本給と各種手当
- 固定残業代の有無
- 試用期間中の条件
- 面接官が回答してよい内容
- その場で回答せず、確認すべき内容
条件が決まっていないこと自体が、直ちに問題になるわけではありません。
決まっていないのであれば、
「この点は現時点では確定していません。確認のうえ、○日までに文書で回答します」
と伝えればよいのです。
その場で良く見せようとして、曖昧な約束をする方が危険です。
条件変更は「変更後」だけを見せてはいけない
採用途中で条件を変更する場合、変更後の労働条件通知書だけを渡して、
「こちらが正式な条件です」
と説明する会社があります。
しかし、応募者は最初の条件を前提に応募しています。
変更後の書類だけを見せられても、何が変わったのか分からない可能性があります。
例えば、当初の求人条件が次の内容だったとします。
- 月給25万円
- 土日祝日休み
- 転勤なし
- 事務職
その後、会社が提示した条件が次の内容になったとします。
- 月給22万円
- 月1回土曜日出勤
- 近隣営業所への異動あり
- 事務および顧客対応
会社としては、変更後の条件を文書で渡したので、きちんと明示したつもりかもしれません。
しかし、応募者にとっては、給与、休日、勤務地、仕事内容という重要な条件が変わっています。
この場合は、変更後の条件だけでなく、
- 何が変わったのか
- なぜ変わったのか
- いつから変更後の条件になるのか
- 変更後の条件を受け入れるかどうか
を確認できるようにする必要があります。
実務上は、変更前と変更後を比較できる書面を作成する方法が分かりやすいでしょう。
| 項目 | 募集時の条件 | 変更後の条件 |
|---|---|---|
| 月給 | 25万円 | 22万円 |
| 休日 | 土日祝日 | 月1回土曜日出勤 |
| 勤務地 | 本社・転勤なし | 本社および近隣営業所 |
| 仕事内容 | 一般事務 | 一般事務および顧客対応 |
このように示せば、応募者は変更内容を理解したうえで、入社するかどうかを判断できます。
厚生労働省も、変更内容を認識したうえで労働契約を締結するか考える時間を確保できるよう、条件が確定した後、可能な限り速やかに変更明示する必要があるとしています。
入社式や初出勤日に初めて変更を伝えるのは、適切な方法とはいえません。
すでに前職を退職し、ほかの内定を辞退し、引っ越しまで済ませていたら、本人が自由に判断できる状況ではないからです。
署名をもらえば、変更に合意したことになるのか
会社が変更後の労働条件通知書や雇用契約書へ署名をもらい、
「本人が署名したのだから問題ない」
と考えるケースもあります。
もちろん、本人が内容を十分に理解し、自分の意思で条件を受け入れたのであれば、署名は重要な記録になります。
しかし、署名があれば、どのような変更でも必ず有効になるとは限りません。
- 入社当日に初めて変更を伝えた
- 署名しなければ働かせないと言った
- 変更内容を十分に説明していない
- 求人票との違いを示していない
- 質問する時間を与えていない
- 書類の控えを本人へ渡していない
このような状況では、本当に本人の自由な意思による合意だったのかが問題になる可能性があります。
署名は、説明の代わりにはなりません。
会社として必要なのは、
- 変更内容を明確にする
- 変更理由を説明する
- 本人が検討できる時間を設ける
- 質問に回答する
- 本人の意思を確認する
- 変更と説明の記録を残す
という手順です。
求人票と実際の条件が違えば、どちらが優先されるのか
求人票は一般的に、会社が求人を申し込むための情報であり、それだけで直ちに労働契約が成立するわけではありません。
一方で、裁判例では、求人票に記載された条件が労働契約の内容になり得ると判断されたものがあります。
厚生労働省が紹介している裁判例でも、求人票の内容と異なる別の合意があったと認められる特別な事情がない限り、求人票記載の条件が労働契約の内容になるという考え方が示されています。
また、求人票に記載した見込額を、合理的な理由なく大きく下回る金額で決めるべきではないという判断もあります。
したがって、
「最終的な労働条件通知書だけが絶対で、求人票は関係ない」
とは考えない方がよいでしょう。
求人票、面接時の説明、内定通知、労働条件通知書などを総合して、会社と労働者の間で何が合意されたのかが判断される可能性があります。
さらに、明示された労働条件が実際と違う場合、労働基準法第15条により、労働者が直ちに労働契約を解除できる場合があります。
求人条件との食い違いは、単なる採用担当者のミスではありません。
会社の法的リスク、採用力、社会的信用に関わる問題です。
食い違いは、どこで生まれるのか
採用条件の食い違いは、悪意のある会社だけで起きるものではありません。
多くは、次のような小さな管理ミスから始まります。
古い求人票を使っている
最低賃金、基本給、休日数、手当などを変更したのに、以前の求人票がそのまま公開されているケースです。
ハローワークの求人は修正しても、自社採用サイトやほかの求人媒体が古いままということもあります。
採用サイトと求人媒体の内容が違う
採用サイトは制作会社が管理し、求人媒体は採用担当者が更新しているため、同じ職種でも給与や休日が違っているケースです。
面接官が独自に説明している
応募者に入社してほしいあまり、面接官が会社の承認を得ずに給与、昇給、休日などを約束してしまうことがあります。
内定通知が簡単すぎる
「採用内定とします」としか書かれておらず、具体的な条件が確認できないまま、応募者がほかの会社を辞退してしまいます。
労働条件通知書の様式が古い
求人条件は新しくなっているのに、前年の労働条件通知書をコピーして作成し、古い給与額や勤務時間が残っていることがあります。
給与計算担当者へ条件が伝わっていない
通知書には資格手当や住宅手当が記載されているのに、給与計算システムへ登録されず、初回給与で不足が発生します。
このように、採用条件は一つの書類だけで管理されているわけではありません。
会社の中にある複数の情報が、少しずつズレることで「話が違う」が生まれます。
採用条件は6段階で照合する
採用トラブルを防ぐためには、次の6つを横並びで確認することをおすすめします。
- 求人票
- 自社採用サイト・求人広告
- 面接時の説明
- 内定通知・条件提示書
- 労働条件通知書・雇用契約書
- 給与計算・勤怠管理などの実際の設定
例えば、基本給について確認するなら、
- 求人票にはいくらと書いてあるか
- 採用サイトにはいくらと書いてあるか
- 面接官はいくらと説明したか
- 内定通知にはいくらと書いたか
- 労働条件通知書はいくらになっているか
- 給与計算システムはいくらで登録されているか
を確認します。
同じ作業を、仕事内容、勤務地、勤務時間、休日、固定残業代、各種手当などについても行います。
20項目あれば、6段階で120か所の確認になります。
少し面倒に感じるかもしれません。
しかし、採用後に「話が違う」と言われ、条件の確認、給与の再計算、本人への説明、求人媒体の修正、社内調査を行う方が、はるかに大きな負担になります。
食い違いを見つけたら、すぐに書き換える前に確認する
照合作業で条件の違いを発見した場合、すぐに都合のよい方へ統一してはいけません。
まず、どのような経緯で違いが生まれたのかを確認します。
- 単純な転記ミスなのか
- 古い情報が残っていたのか
- 面接官が独自に説明したのか
- 本人の希望により個別変更したのか
- 会社が採用途中で条件を変更したのか
- すでに本人と別の条件で合意しているのか
すでに労働契約が成立している場合、会社が一方的に条件を不利益に変更することはできません。
正しいと思われる書類へ書き換えれば解決する問題ではないのです。
判断に迷う場合は、本人へ説明する前や書類を作り直す前に、社会保険労務士や弁護士へ相談してください。
慌てて新しい書類へ署名を求めると、問題をさらに複雑にする可能性があります。
無料の「食い違い発見シート」を作成しました
今回、求人票から実際の給与・勤怠設定までを横断して確認できるExcelシートを作成しました。
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このシートでは、次の6つの情報を横並びで比較できます。
- 求人票
- 採用サイト・求人広告
- 面接時の説明
- 内定通知・提示条件
- 労働条件通知書
- 給与・勤怠などの実際の設定
確認するのは、雇用形態、契約期間、仕事内容、勤務地、勤務時間、休日、基本給、各種手当、固定残業代、社会保険など全20項目です。
6つの内容がすべて同じ場合は「一致」、違う場合は「不一致」、入力されていない情報がある場合は「未確認」と自動表示されます。
また、採用条件の食い違いを防ぐための運用チェック15項目も収録しました。
求人票を作っただけ、労働条件通知書を渡しただけでは分からない、会社内部の情報のズレを発見するためにご活用ください。
ただし、このシートは労働条件の適法性や、条件変更の有効性を確定するものではありません。
不一致が見つかった場合は、書類を修正する前に、その経緯と本人との合意内容を確認し、必要に応じて専門家へご相談ください。
▼無料プレゼント「求人票・面接説明・労働条件通知書の食い違い発見シート」を申し込む
応募者が会社へ不信感を持つのは、条件が厳しい会社とは限りません。
最初から厳しい条件でも、正確に説明し、本人が納得して応募しているなら、大きな問題にはなりにくいでしょう。
信用を失うのは、
「最初に聞いていた話と違う」
と感じさせる会社です。
求人票を魅力的に見せる前に、書かれている条件を本当に守れるか。
面接で良い話をする前に、会社として約束できる内容か。
採用を決める前に、すべての書類と設定が一致しているか。
採用力を高める第一歩は、派手な求人広告を作ることではありません。
応募者に伝える条件を、会社の中でひとつにそろえることです。
【参考資料】
- 厚生労働省「求人票や求人広告に記載された条件が、実際の条件と違った場合」
- 厚生労働省「労働者を募集する企業の皆様へ」
- 厚生労働省「募集条件と実際の労働条件が異なる場合・裁判例」
- 厚生労働省「正しい情報で人材を確保せよ!」