会社が儲かっていないのに賞与を約束していませんか?助成金目当ての賞与制度が経営を苦しめる理由
杉山 晃浩
「パート従業員に賞与制度を設けると、助成金を受給できる可能性があります」
そう聞くと、多くの経営者は興味を持つでしょう。
従業員の待遇を改善できて、会社には助成金が入ってくる。採用や定着にも良い影響が期待できる。一見すると、会社にも従業員にもメリットのある話に見えます。
しかし、ここで一度立ち止まって考えてください。
その賞与は、助成金がなくなった後も払い続けられますか?
さらに厳しい質問をします。
会社が赤字になった年でも、その賞与制度を維持できますか?
賞与制度を設けること自体が悪いわけではありません。キャリアアップ助成金を活用することも、決して悪いことではありません。
問題は、助成金を受け取ることが目的になり、本来必要なはずの「制度を維持できるか」という経営判断が後回しになることです。
助成金は一度、賞与の負担はその後も続く
キャリアアップ助成金は、契約社員、パートタイマー、派遣労働者など、いわゆる非正規雇用労働者の正社員化や待遇改善に取り組む事業主を支援する制度です。
その中には、有期雇用労働者等を対象として賞与制度や退職金制度を新たに設け、実際に支給または積立てを行った会社を対象とする「賞与・退職金制度導入コース」があります。
令和8年度の案内や申請様式も公表されています。ただし、助成金制度は年度途中を含めて内容や様式が変更されることがあります。実際に利用するときは、必ず厚生労働省の最新資料を確認してください。
助成金の魅力は、制度導入時の会社負担を軽くできることです。
しかし、忘れてはいけないことがあります。
助成金が支給されるのは、基本的に制度導入に対する一時的な支援です。一方、就業規則や賃金規程に定めた賞与制度は、翌年以降も会社に残ります。
助成金の入金は一度でも、賞与の支給は毎年続く可能性があるのです。
これは、結婚式のお祝い金を当てにして住宅ローンを組むようなものです。最初は助かりますが、翌年からもお祝い金が届くわけではありません。
受給額だけ見ていると、本当の負担が見えない
例えば、パート従業員5人に対して、1人当たり年間10万円の賞与を支給するとします。
賞与本体だけなら、年間50万円です。
しかし、会社の負担は50万円だけではありません。
社会保険に加入している従業員へ賞与を支給すれば、原則として賞与も社会保険料の計算対象になります。健康保険、厚生年金保険、介護保険などについて、従業員負担分だけでなく会社負担分も発生します。
厚生年金保険料は、標準賞与額を使って計算し、会社と従業員が負担します。厚生労働省の説明でも、厚生年金保険料は給与や賞与を基に計算され、事業主負担分と本人負担分を合わせて納付する仕組みが示されています。
さらに、次のような費用も考えなければなりません。
- 就業規則や賃金規程の整備費用
- 助成金申請のための管理費用
- 賞与計算や社会保険手続の事務負担
- 従業員への制度説明にかかる時間
- 対象者が増えた場合の追加負担
- 将来、賞与額を引き上げる場合の負担
賞与制度を5年間運用すれば、助成金の受給額より、会社が支出する金額の方がはるかに大きくなることも珍しくありません。
大切なのは、「いくらもらえるか」ではありません。
助成金を差し引いても、5年間でいくら会社から出ていくのか。
この数字を先に確認する必要があります。
就業規則に書いた賞与を簡単に消せるとは限らない
経営者の中には、次のように考える方もいます。
「利益が出た年だけ払えばいい」
「苦しくなったら就業規則を変更すればいい」
「パートの賞与だから、いつでもやめられるだろう」
しかし、制度の内容や規程の書き方によっては、そのように簡単にはいきません。
例えば、就業規則に次のように書いてあったらどうでしょうか。
パートタイマーに対し、毎年7月および12月に賞与を支給する。
支給条件や業績との関係が書かれていなければ、従業員から「就業規則に支給すると書いてあります」と主張される可能性があります。
一方で、単純に「会社の業績によっては支給しないことがある」と書けば、すべて解決するとも限りません。
助成金を受給するためには、対象となる制度について一定の要件を満たし、規程どおりに実施したことを証明しなければなりません。会社の裁量を広く残しすぎると、今度は助成金の要件を満たさない可能性があります。
ここが、賞与規程を作る難しいところです。
- 助成金の要件を満たすこと
- 従業員に誤解を与えないこと
- 会社の支払能力を守ること
- 法律上問題のない内容にすること
この4つを同時に考えなければなりません。
助成金の申請書だけ作ればよいのではありません。就業規則、賃金規程、雇用契約書、労働条件通知書、求人票、給与計算の実態まで、内容を一致させる必要があります。
助成金のために作った制度ほど、廃止するときに困る
賞与制度を導入したとき、従業員はそれを将来の収入として期待します。
一度だけ支給された賞与であっても、毎年同じ時期に同じような条件で支給を続ければ、従業員にとっては「今年も支給されるもの」になっていきます。
その状態で、会社が突然、
「今年は利益が少ないので賞与を廃止します」
と伝えれば、従業員の不満が一気に高まるでしょう。
会社としては「助成金が終わったから」と考えていても、従業員に助成金は関係ありません。従業員から見れば、会社が約束した待遇を一方的に取り上げられたように感じます。
就業規則を従業員に不利な内容へ変更する場合は、変更の必要性、変更内容の相当性、従業員が受ける不利益などを踏まえた慎重な判断が必要です。
つまり、賞与制度は「とりあえず作って、苦しくなったらやめる」という使い方に向いていません。
入口より、出口の方が難しい制度なのです。
「赤字なら賞与ゼロ」で本当によいのか
中小企業の賞与は、大きく分けると二つの考え方があります。
一つは、会社が生み出した利益を従業員へ還元する「利益分配型」です。
もう一つは、毎月の給与で支払いきれない分を賞与として支給する「給与の後払い型」です。
利益分配型であれば、会社に利益が出なかった年は、賞与を支給しないという考え方にも一定の合理性があります。
一方、給与の後払いとして制度設計している場合、会社の業績だけを理由に突然ゼロにすると、従業員から強い反発を受ける可能性があります。
助成金を利用して賞与制度を作る前に、まず決めるべきことは金額ではありません。
会社が、何のために賞与を支給するのか。
ここが決まっていなければ、支給基準も、業績不振時の取扱いも、対象者の範囲も決められません。
助成金を利用してはいけない会社
次の質問に「いいえ」がある場合は、助成金申請を急がない方がよいでしょう。
- 助成金が不支給でも賞与制度を導入しますか
- 助成金終了後も自社資金で支給できますか
- 赤字年度の取扱いを決めていますか
- 対象従業員が増えた場合の負担を計算していますか
- 賞与にかかる会社負担の社会保険料を計算していますか
- 就業規則と雇用契約書の内容を一致させられますか
- 正社員との待遇差を説明できますか
- 制度を将来見直す場合の手順を考えていますか
特に重要なのは、最初の質問です。
助成金が1円も支給されなくても、その制度を導入しますか。
ここで「いいえ」と答えるのであれば、その賞与制度は会社に本当に必要な制度ではなく、助成金を受給するためだけの制度になっている可能性があります。
助成金は、会社が本来行いたい待遇改善を後押ししてもらうために使うものです。
助成金を受給するために、会社が維持できない待遇を約束するものではありません。
無料プレゼントで5年間の負担を確認してください
賞与制度を導入する前に、助成金の受給見込額と、その後5年間に会社が負担する金額を比較できる診断シートを用意しました。
プレゼント名は、
「その助成金、本当に得ですか?賞与制度5年維持コスト診断シート」
です。
黄色いセルに次の数字を入力すると、自動的に計算されます。
- 現在の対象従業員数
- 1人当たり1回の賞与額
- 年間支給回数
- 対象人数の増加見込み
- 会社負担の社会保険料率
- 制度導入費用
- 年間維持管理費
- 助成金の受給見込額
- 賞与に充てられる利益
- 制度用に確保できる現預金
5年間の総負担額、助成金受給後の実質負担額、助成金が補う割合、利益や現預金に対する余裕額が表示されます。
さらに、就業規則、雇用契約、社会保険、申請手続、証拠書類などを確認する20項目のリスク点検も付けています。
無料で受け取れますので、助成金の申請を決める前にご活用ください。
助成金の前に、経営判断をしてください
キャリアアップ助成金は、非正規雇用労働者の待遇を改善するための有効な制度です。
正しく使えば、従業員の満足度向上、採用力の強化、定着率の改善につながる可能性があります。
ただし、助成金の対象になることと、会社にとって良い制度であることは同じではありません。
重要なのは、次の順番です。
- 賞与を支給する目的を決める
- 5年間の負担を計算する
- 赤字年度の取扱いを決める
- 対象者と支給条件を決める
- 就業規則や賃金規程を整備する
- その後に助成金の利用を検討する
この順番を逆にして、最初に「いくら助成金がもらえるか」から考えると、会社に合わない制度を背負うことになりかねません。
制度を導入してから、
「こんなに負担が続くとは思わなかった」
「赤字なのに賞与を請求された」
「規程を変更したいが、どうすればよいか分からない」
となっても、時間を巻き戻すことはできません。
賞与制度やキャリアアップ助成金の利用について判断に迷う場合は、オフィススギヤマグループの30分無料相談をご利用ください。
会社の利益、対象人数、現在の就業規則などを確認しながら、助成金を利用すべきか、賞与制度をどのように設計すべきかを一緒に整理します。
助成金は、会社を助けるための制度です。
助成金をもらうために、会社の経営を苦しくしてしまっては本末転倒です。
「もらえるか」より先に、「払い続けられるか」を確認してください。