厚労省のモデル就業規則をコピペして安心していませんか?休職規定は「自社用」にしないと会社を守れない

杉山 晃浩

「うちには、きちんと就業規則があります」

そう話す経営者に、休職規定について質問してみます。

「休職できるのは、入社何か月後からですか?」

「休職中の社会保険料は、どうやって本人から回収しますか?」

「主治医が『復職可能』と診断したら、そのまま復職させますか?」

「復職後、同じ病気で再び休んだら、休職期間は最初から数え直しますか?」

すると、急に答えが止まります。

就業規則はある。
休職規定もある。
労働基準監督署にも届け出ている。

それなのに、実際に休職者が出た瞬間、何をすればよいのかわからない。

これは珍しい話ではありません。

特に注意したいのが、厚生労働省のモデル就業規則を参考にして作られた休職規定です。

先に、誤解のないようにはっきり申し上げます。

厚生労働省のモデル就業規則が悪いのではありません。モデル就業規則は、就業規則を作成する際の信頼できる参考資料です。

問題は、モデルを「参考例」ではなく、「そのまま使える自社の完成品」だと思い込んでしまうことです。

モデル就業規則はオーダースーツではなく、標準サイズの見本

厚生労働省のモデル就業規則には、休職について、おおむね次のような内容が示されています。

  • 業務外の傷病による欠勤が一定期間を超えた場合、一定期間休職とする
  • 休職事由がなくなったときは、原則として元の職務へ復帰させる
  • 元の職務への復帰が難しい場合は、他の職務に就かせることがある
  • 休職期間が満了しても治癒せず、就業が困難な場合は退職とする

一見すると、必要なことが書かれているように見えます。

しかし、条文には空欄があります。

「欠勤が何か月を超えたら休職させるのか」
「休職期間を何年にするのか」

これは、厚生労働省が決め忘れたわけではありません。

会社ごとに決める必要があるから、空欄になっているのです。

従業員が500人いる会社と、10人の会社では、一人が長期間休むことの影響が違います。

同じ10人の会社でも、全員が同じ仕事を担当できる会社と、資格者一人に専門業務が集中している会社では事情が違います。

建設会社、病院、介護施設、運送会社、飲食店、IT企業でも、復職させられる職務や勤務上の配慮は異なります。

つまり、モデル就業規則は、誰にでもぴったり合うオーダースーツではありません。

標準サイズの見本です。

体形を測らず、そのまま着れば、袖が長い、肩が合わない、ボタンが閉まらないということが起きます。

就業規則でも同じです。

自社の人員体制や働き方に合わせて調整しなければ、いざというときに使えません。

「休職期間は1年」が、会社にとって何を意味するか

インターネットで見つけた規定を参考にして、深く考えずに「休職期間は1年」と記載する会社があります。

しかし、休職期間を1年と定めることは、単に数字を空欄へ入れる作業ではありません。

休職期間中は、原則として従業員としての身分が続きます。

賃金を無給にする規定があったとしても、健康保険と厚生年金の被保険者資格は原則として継続します。

会社は毎月、会社負担分の社会保険料を負担します。本人負担分も会社がまとめて納付しなければなりません。

ところが、給与を支払っていなければ、給与から本人負担分を控除できません。

本人が毎月振り込むのか。
会社が一時的に立て替えるのか。
支払いが遅れたらどうするのか。

ここまで決めていなければ、会社が社会保険料を立て替え続ける可能性があります。

また、その従業員が担っていた仕事を、誰かが引き受けなければなりません。

代替要員を採用するのか。
他の従業員に残業してもらうのか。
派遣社員を入れるのか。

従業員10人の会社で一人が休職すれば、労働力の10%が抜けます。

この状態を、半年、1年、2年と維持できるでしょうか。

長い休職期間を設けることが、常に従業員に優しいとは限りません。残された従業員へ過大な負担がかかれば、別の退職者や休職者が生まれる可能性もあります。

会社の規模、仕事の代替可能性、採用の難しさ、福利厚生の考え方などを踏まえて、休職期間を設計する必要があります。

入社1か月の社員にも、1年間の休職を認めますか?

モデルの休職規定だけでは、誰が休職制度を利用できるのかが十分にわからないことがあります。

たとえば、次の従業員は対象になるのでしょうか。

  • 試用期間中の従業員
  • 入社して間もない従業員
  • 週2日勤務のパート
  • 6か月契約の有期契約社員
  • 定年後に再雇用された従業員

休職制度は、労働基準法がすべての会社に一律の設置を義務付けている制度ではありません。会社が任意に設計する制度です。

だからこそ、対象者を明確にしなければなりません。

入社1か月で休職し、その後1年間にわたって従業員としての身分を保障するのか。

6か月契約の従業員へ1年間の休職を認めた場合、雇用契約の満了日はどうなるのか。

正社員とパートで休職期間を変える場合、その違いを合理的に説明できるのか。

このような問題は、実際に休職者が出てから考えても間に合いません。

目の前に病気の従業員がいる状態で規定を変更すれば、その従業員を退職させるために変更したと疑われる可能性もあります。

何も起きていないときに決めておく。

これが就業規則の役割です。

数日出勤したら、休職期間はゼロに戻るのか

休職の条件を「傷病による欠勤が3か月を超えたとき」としたとします。

では、2か月半欠勤した従業員が数日だけ出勤し、再び同じ病気で欠勤した場合はどうなるでしょうか。

欠勤期間をゼロから数え直すのでしょうか。

断続的な欠勤も通算するのでしょうか。

有給休暇を使った日は、欠勤期間に含めるのでしょうか。

午前中だけ出勤し、午後は早退した日はどう数えるのでしょうか。

条文に書かれていなければ、会社と従業員の考えが食い違います。

メンタルヘルス不調では、少し回復して出勤したものの、再び出勤できなくなることがあります。

欠勤と出勤を繰り返し、現場は対応に追われる。しかし、規定上は休職開始の条件を満たしているのか、誰にもわからない。

これでは、就業規則が会社の判断基準として機能していません。

「連続または通算して何日以上」
「同一または関連する傷病」
「一定期間内に再び欠勤した場合」

このような条件を、自社の運用に合わせて具体化する必要があります。

主治医が「復職可能」と書けば、必ず復職させるのか

休職対応で最もトラブルになりやすいのが、復職判定です。

休職中の従業員から、主治医の「復職可能」という診断書が提出されたとします。

経営者は不安になります。

「本当に週5日出勤できるのか」
「以前と同じ仕事ができるのか」
「またすぐに休むのではないか」
「事故やトラブルが起きたら、会社の責任になるのではないか」

一方、従業員はこう考えます。

「医師が復職できると言っているのに、なぜ会社は認めないのか」

このすれ違いが、大きな紛争に発展します。

主治医の診断書は、復職判断の重要な資料です。しかし、主治医が会社の仕事内容や職場環境を詳しく知っているとは限りません。

「日常生活を送れる程度に回復した」という判断と、「決められた時刻に通勤し、週5日、会社が求める仕事を安定して行える」という判断は同じではありません。

厚生労働省の職場復帰支援に関する手引きでも、主治医の診断、本人の状態、職場環境、産業医等の意見などを踏まえて、事業者が最終的な復職判断を行う流れが示されています。

詳しくは、厚生労働省「心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き」をご確認ください。

しかし、モデルの短い休職条文だけでは、次の手順が決まっていません。

  • 復職希望をいつまでに申し出るのか
  • どのような診断書を提出するのか
  • 主治医へ仕事内容をどのように伝えるのか
  • 誰が主治医へ質問するのか
  • 会社指定医や産業医の面談を行うのか
  • 誰が最終的な復職可否を決めるのか
  • 復職を認めない場合、どのように説明するのか
  • 復職後にどの程度の配慮をするのか

これらが決まっていない会社が、いきなり難しい復職判定に挑むことになります。

これは、地図も持たずに山へ入るようなものです。

元の仕事ができないから退職、とは限らない

モデル規定では、原則として元の職務に復帰させるものの、元の職務への復帰が困難または不適当な場合は、他の職務に就かせることがあるとされています。

ここを軽く考えてはいけません。

職種を限定せずに採用した従業員については、以前の仕事を完全にできなくても、現実的に配置できる別の仕事があり、その仕事ならできる場合、就労可能と判断されることがあります。

会社の規模、業種、本人の能力や経験、実際の配置転換の状況などを踏まえて判断されます。

もちろん、中小企業に存在しない仕事を新たに作り出したり、他の従業員を退職させてポストを空けたりすることまで、当然に求められるわけではありません。

しかし、会社が何も検討せず、

「前と同じ仕事ができない」
「フルタイムで働けない」
「再発が心配だ」

という理由だけで復職を拒否するのは危険です。

必要なのは、会社として現実的に可能な配置や配慮を検討し、その結果を記録することです。

「治っていないから期間満了退職」では危ない

モデル規定では、休職期間が満了しても傷病が治癒せず、就業が困難な場合は、期間満了をもって退職するとされています。

ここで問題になるのが「治癒」と「就業可能」の意味です。

病気が完全に消えていなければ、治癒していないのでしょうか。

薬を飲みながら働ける場合はどうでしょうか。

通院のために月1回休めば働ける場合はどうでしょうか。

元の仕事は難しいが、別の仕事ならできる場合はどうでしょうか。

現代では、がん、難病、精神疾患などの治療を続けながら働く人が増えています。

「完全に健康にならなければ復職できない」という基準では、治療と仕事の両立ができません。

障害に該当する状態であれば、会社に過重な負担とならない範囲で合理的配慮を検討すべき場合もあります。

そのため、休職期間が満了したという事実だけで、機械的に退職処理をするのは危険です。

本人から復職の申出があったか。
診断書の内容はどうか。
必要な面談を行ったか。
元職以外の仕事を検討したか。
会社として可能な配慮を検討したか。

これらを確認せずに退職扱いを進めれば、後から雇用終了の有効性を争われる可能性があります。

退職扱いが無効と判断されれば、従業員としての地位が残り、期間満了後の賃金を請求されるおそれもあります。

一度復職すれば、新しい休職期間が始まるのか

もう一つ、見落とされやすいのが再休職です。

休職期間が満了する直前に復職し、数週間後に同じ病気で再び休んだとします。

新しい休職期間を最初から与えるのでしょうか。

前の休職期間と通算するのでしょうか。

モデル規定の骨組みだけでは、判断できません。

通算規定がなければ、

休職
↓
短期間だけ復職
↓
再休職
↓
再び休職期間を最初から付与

という状態が繰り返される可能性があります。

休職制度が事実上、無期限になるかもしれません。

一方、病名が違うという理由だけで、すぐに別の傷病として扱うのも危険です。うつ病、不安障害、適応障害など、診断名が変わっても関連する傷病である可能性があります。

「同一または関連する傷病」をどのように判断するのか。
復職後、何か月以内の再休職を通算するのか。
通算する場合、残りの休職期間をどう計算するのか。

ここにも、自社用のルールが必要です。

厚労省モデルを否定しているのではありません

繰り返しますが、厚生労働省のモデル就業規則が間違っているわけではありません。

厚生労働省も、モデル就業規則について、各事業場の実情に応じて作成・届出するよう案内しています。

厚生労働省「モデル就業規則について」

モデルは、会社が考えるための土台です。

モデルの条文をコピーしただけで考える作業を終えてしまうことが問題なのです。

無料のひな型には、あなたの会社の従業員数も、事業内容も、採用難の程度も、代替要員の有無も書かれていません。

会社が休職者へどこまで配慮できるかも知りません。

就業規則は、文章を整える作業ではありません。

経営者が「どこまで従業員の雇用を守るのか」「どのような条件なら復職を認めるのか」「残された従業員の負担をどう抑えるのか」を決める経営判断です。

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休職者が現れてから慌てる前に、足りないところがわかった。それだけでも大きな前進です。

むしろ危険なのは、モデル就業規則を使っているという理由だけで、「うちは大丈夫」と思い込むことです。

休職者が出てからでは、規定を変えにくい

休職規定の見直しは、従業員が元気に働いているときに行うべきです。

すでに休職している従業員がいる状態で、休職期間を短くしたり、復職条件を厳しくしたりすれば、その従業員を退職させるための変更だと受け取られる可能性があります。

問題が起きてから弁護士や社労士へ相談すると、できることは限られます。

しかし、何も起きていない段階であれば、自社の人員体制、雇用区分、現場の仕事、社会保険料の扱い、復職判定の体制などを整理し、実際に運用できる規定を作れます。

オフィススギヤマグループでは、厚生労働省のモデル就業規則を尊重しながら、会社の実情に合わせた休職・復職規定へのカスタマイズをご支援します。

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自社で使える状態にして、初めて就業規則は会社を守るのです。

 
 
 

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