「安く導入できた」で安心していませんか?選択制企業型DCは導入後の運用で大きな差がつく
杉山 晃浩
選択制企業型DCを導入したいという中小企業が増えています。
社員の老後資金づくりを支援でき、人材の採用や定着にも活用できる。会社が適切に設計すれば、社員だけでなく役員の将来資金づくりにも役立ちます。
ところが、実際の相談現場では、少し気になる話を耳にします。
「知り合いに勧められて導入したが、制度の内容を説明できる人がいない」
「給与計算が正しく処理されているか分からない」
「投資教育は最初の説明会だけだった」
「退職者が出たが、誰に連絡すればよいか分からない」
「今の制度をやめて、別の企業型DCへ変更したい」
オフィススギヤマグループには、すでに選択制企業型DCを導入している企業から、「あらためて制度を教えてほしい」「現在の運用が正しいか確認してほしい」という相談が何度も寄せられています。
企業型DCそのものが悪いわけではありません。
問題は、導入することだけが目的になり、その後の給与計算、手続、投資教育、法改正への対応などが置き去りにされていることです。
選択制企業型DCは、導入契約を締結した日がゴールではありません。
むしろ、そこがスタートなのです。
「付き合いで入りました」が危険な理由
税理士、銀行、保険会社、社会保険労務士などから企業型DCを紹介されることがあります。
紹介自体が悪いわけではありません。信頼できる人から有益な制度を教えてもらえることは、経営者にとってありがたいことです。
ただし、「昔から付き合いがあるから」「取引先から頼まれたから」という理由だけで導入先を決めるのは危険です。
大切なのは、紹介した人の肩書ではなく、実際に誰がどこまで対応してくれるのかです。
例えば、次の質問に明確な回答が返ってくるでしょうか。
- 自社に合う制度設計を誰が行うのか
- 就業規則や賃金規程を誰が整えるのか
- 労働条件通知書を誰が見直すのか
- 給与計算の設定を誰が確認するのか
- 社会保険の取扱いを誰が判断するのか
- 入社、退職、休職時の手続を誰が管理するのか
- 社員への投資教育を誰が継続するのか
- 法改正や制度変更を誰が知らせるのか
- 運営管理機関を誰が評価するのか
これらの答えが「おそらく販売会社がやってくれる」「給与ソフトで自動計算されるはず」という状態なら、まだ導入準備ができているとはいえません。
選択制企業型DCは、年金制度だけの話ではないからです。
就業規則、賃金、給与計算、税金、社会保険、社員説明、資産運用、入退社手続などがつながっています。一つでも連携が切れると、制度全体の運用に不具合が生じます。
「無料で手続します」は、どこまで無料なのか
導入費用や管理費用が安いことは、会社にとって魅力的です。
しかし、「安いこと」と「必要な支援が受けられること」は別の問題です。
特に注意したいのが、次のような説明です。
「手続は無料で行います」
「導入後もずっと無料でフォローします」
「何かあればいつでも対応します」
もちろん、会社の営業努力によって、一部の手続や相談を無料にしている場合もあります。そのようなサービスを否定するものではありません。
ただし、経営者は冷静に考える必要があります。
就業規則を確認し、給与計算を検証し、社員からの質問に答え、入退社手続を管理し、法改正を追い、投資教育を継続するには、人の時間と専門知識が必要です。
誰かが、そのコストを負担しています。
利益を目的とする事業者が、専門的な支援を、人数や回数に関係なく永遠に無償で提供し続けることは、通常の事業としては簡単ではありません。
無料で提供される範囲が悪いのではありません。
問題は、会社側が「全部やってもらえる」と思っていたのに、実際には対象外だったという食い違いです。
契約前に、少なくとも次の点を文書で確認してください。
- 無料になる手続の種類
- 無料対応の回数や期間
- 給与計算設定の確認を含むか
- 就業規則の確認や変更を含むか
- 社員からの相談対応を含むか
- 入退社や休職時の手続を含むか
- 法改正時の案内や変更対応を含むか
- 投資教育を毎年実施するか
- 担当者が退職・異動した場合も対応できるか
- 別料金になる業務と料金
「無料」という言葉ではなく、具体的な業務範囲で比較することが重要です。
給与計算を間違えると、制度の良さが消えてしまう
選択制企業型DCでは、給与制度と掛金の関係を正しく設計し、その設計に沿って給与計算を行わなければなりません。
ここを十分に理解しないまま給与ソフトを設定すると、さまざまな問題が起こります。
例えば、生活設計に関する手当などの設定が変更されていない、給与明細の表示が分かりにくい、残業単価の計算方法が誤っている、税金や社会保険料の処理が制度設計と一致していない、といったケースです。
社会保険についても、「選択制企業型DCを導入すれば、自動的に保険料が下がる」と単純に考えてはいけません。
標準報酬月額が変更されるかどうかは、実際の給与額や固定的賃金の変動、支払基礎日数などを踏まえて、個別に判断する必要があります。
会社の判断だけで都合よく変更できるものではありません。
また、社会保険料が下がれば、傷病手当金、出産手当金、将来の厚生年金などに影響する可能性があります。メリットだけを説明して導入すると、後から社員とのトラブルにつながります。
社員には、制度の良い面だけでなく、考えられる影響も説明したうえで、本人が選択できるようにする必要があります。
投資教育をしなければ、ただの「口座」になる
企業型DCでは、社員自身が運用商品を選び、その運用結果によって将来受け取る金額が変わります。
そのため、制度を実施する事業主には、加入者に対して投資教育を行うことが求められています。加入時だけでなく、加入後も継続的に理解を深められるよう、必要かつ適切な投資教育を提供することが重要です。厚生労働省「確定拠出年金の投資教育」
ところが、導入時に一度だけ説明会を開き、その後は何年も何もしない会社があります。
社員は制度の内容を忘れます。
運用商品を選ばないままになったり、元本確保型商品だけで長期間運用したり、相場が下がったときに慌てて商品を変更したりすることもあります。
もちろん、元本確保型商品を選ぶこと自体が間違いではありません。年齢や資産状況、本人の考え方によって、適切な選択は異なります。
問題は、理解しないまま放置されることです。
会社が特定の投資信託を一方的に勧める必要はありません。むしろ、商品の特徴、値動き、手数料、長期・積立・分散の考え方などを、中立的に学べる機会を継続して提供することが大切です。
企業型DCを導入しても投資教育をしなければ、立派な制度ではなく、社員が使いこなせない「口座」を用意しただけになりかねません。
月5,000円でも、45年間続ければ大きな差になる
例えば、20歳で入社し、65歳まで45年間、毎月5,000円を積み立てるとします。
掛金総額は次のとおりです。
5,000円×12か月×45年=270万円
仮に年5%で運用できた場合、毎月末に同額を積み立てる単純計算では、65歳時点の資産は約1,013万円になります。
元本270万円に対し、大きな差が生まれます。
これは、長い運用期間と複利の効果によるものです。
ただし、年5%は将来の成果を保証する数字ではありません。投資信託の価格は上がることも下がることもあり、手数料や運用商品の選択によって結果は変わります。
だからこそ、若いうちから始め、長期間積み立て、投資先を分散し、継続的に学ぶことが重要なのです。
企業型DCは、掛金と運用収益の合計によって将来の給付額が決まる制度です。厚生労働省「確定拠出年金制度の概要」
制度を導入しただけで老後資金が自動的に増えるわけではありません。
制度設計と継続的な投資教育がそろって、初めて本来の効果を発揮します。
従来型の退職金制度とは、会社の将来リスクが違う
社員の老後資金を準備する方法は、企業型DCだけではありません。
会社が退職時に退職金を支払う制度、中小企業退職金共済、確定給付企業年金など、さまざまな選択肢があります。
どの制度にも長所と注意点があり、企業型DCだけが正解というわけではありません。
ただし、会社が将来支払う退職金額を約束する制度では、社員の勤続年数が長くなり、退職者が増えたときに、大きな資金が必要になる可能性があります。
退職時に支払う制度なら、その時点で退職金原資が必要です。
会社が毎月積み立てる制度なら、継続的に会社負担が発生します。
確定給付企業年金では、約束した給付を支えるために、会社が掛金や積立状況を管理する必要があります。
一方、選択制企業型DCは、社員が給与として受け取ることのできる金額の一部について、本人の選択により企業型DCの事業主掛金として拠出する仕組みを設計するものです。
会社が社員ごとに将来の退職金額を約束する制度とは、会社が負う将来債務の性格が異なります。
会社は制度の管理費用や必要な支援費用を福利厚生の一環として負担し、投資教育を継続する。社員は自分で選んだ掛金を、自分の口座で運用していく。
この設計であれば、会社が将来の特定金額を保証するのではなく、社員が自分の老後資金をつくるための環境を会社が整えることができます。
退職所得控除を利用できる環境をつくる
企業型DCの老齢給付金を一時金として受け取る場合、税務上は退職所得として扱われ、退職所得控除の対象となります。国税庁「退職金を受け取ったとき」
退職所得控除は、原則として勤続年数等に応じて計算されます。
ただし、会社から支給される退職金、企業型DC、iDeCoなどを受け取る時期によっては、控除額の調整が行われる場合があります。
「企業型DCなら、必ず全額非課税になる」という説明は正確ではありません。
大切なのは、企業型DCが、社員自身の資産形成に加え、将来、一時金として受け取る際に退職所得控除を活用できる環境を整える制度だという点です。
退職金制度の代わりとして設計するのか、既存の退職金制度と組み合わせるのか。受給時期をどう考えるのか。
導入時から出口まで見据えた説明が必要です。
役員にとっても有力な将来資金づくりになる
制度の加入資格や規約の条件を満たす役員が企業型DCへ加入する設計も考えられます。
企業型DC規約に基づいて会社が拠出する事業主掛金は、税務上、原則として会社の損金に算入されます。国税庁「確定給付企業年金等に係る課税関係」
役員報酬として受け取り、その中から資産形成する場合とは、税務上の流れが異なります。
会社が適正な制度に基づいて掛金を拠出し、その掛金が役員個人の企業型DC口座で運用され、将来の老齢給付につながります。
税金や社会保険料を減らすことだけを目的にしてはいけませんが、単に経費を使って終わる節税策と比べると、支出した掛金が将来資産として積み上がる点には大きな違いがあります。
また、制度の導入費用や管理費用も、会社の事業に必要な適正な支出であれば、一般に損金として処理を検討できます。
ただし、個別の税務処理については契約内容や会社の状況によって判断が必要です。実行前に税理士へ確認してください。
「税金を払うくらいなら、何でも経費にすればよい」という話ではありません。
同じ会社支出であっても、社員の福利厚生や役員の将来資金づくりにつながる支出なのか、使ったら消えてしまう支出なのか。経営者は、その違いまで考える必要があります。
安さではなく「20年、30年付き合えるか」で選ぶ
選択制企業型DCは、一度導入すると長く運用する制度です。
社員が20歳で加入すれば、受取りまで40年以上になることもあります。
それにもかかわらず、導入時の数万円、毎月の管理費のわずかな差だけで支援先を選ぶのは、少し視野が短いかもしれません。
本当に確認すべきなのは、次の点です。
- 選択制企業型DCを正しく説明できるか
- 給与計算や社会保険まで確認できるか
- 就業規則や賃金規程を整備できるか
- 加入後の手続を継続して支援できるか
- 投資教育を毎年実施できるか
- 法改正に対応できるか
- 制度変更や乗換えにも対応できるか
- 担当者が変わっても支援を続けられるか
導入費用を抑えた結果、給与計算を何年も間違え、後から修正費用が発生すれば、決して安い導入とはいえません。
管理費用を抑えた結果、加入漏れや退職手続の漏れが起きたり、社員が運用方法を理解できなかったりすれば、制度の効果そのものが失われます。
適切な支援には、知識、時間、責任が伴います。
企業型DCは、価格だけでなく、運用品質まで含めて選ぶべき制度です。
無料診断シートで、導入前と導入後の不備を確認してください
今回、選択制企業型DCの導入を検討している会社と、すでに導入している会社の双方に利用できる
を作成しました。
全32項目について、プルダウンで回答すると、自動で点数と判定が表示されます。
主な確認項目は次のとおりです。
- 制度設計と対象者
- 導入支援会社の支援範囲
- 就業規則と賃金規程
- 労働条件通知書
- 給与計算と残業単価
- 税金と社会保険の処理
- 入社、退職、休職、住所変更の手続
- 毎月の掛金と加入者データの照合
- 加入時及び継続的な投資教育
- 法改正への対応
- 制度担当者の引継ぎ
- 運営管理機関の評価
月額掛金、想定運用利率、運用期間を入力できる「老後資金かんたん試算」も付けています。
以下のフォームからお申し込みください。ご登録いただいたメールアドレスにダウンロード用URLが届きます。
▶ 「選択制企業型DC・導入前/導入後の運用不備診断シート」を申し込む
すでに導入している会社も、今から見直せます
「もう導入してしまったから仕方がない」と諦める必要はありません。
現在の制度設計、規約、給与計算、手続、投資教育、管理費用などを確認し、必要に応じて運用を改善することができます。
場合によっては、現在の運営体制を見直したり、別の制度や運営管理機関への変更を検討したりすることも考えられます。
ただし、企業型DCの変更は、単純に契約先を替えるだけではありません。
規約、資産移換、給与設定、就業規則、社員説明、各種手続などを一体で考える必要があります。
オフィススギヤマグループでは、選択制企業型DCの導入支援だけでなく、導入後の運用確認、給与計算、規程整備、投資教育、既存制度の見直しについてもご相談を、全国対応で受け付けています。
企業型DCは、導入費用が安かったかどうかではなく、社員と役員の将来資産づくりに本当に役立っているかどうかで評価すべきです。
導入して終わる会社ではなく、長く育てられる会社へ。
まずは診断シートを使って、自社の企業型DCが正しく動いているかを確認してください。
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