「態度が悪いからクビ」は危険です―Amazon解雇事件に学ぶ“解雇回避努力”と証拠の残し方

杉山 晃浩

「何度注意しても態度が変わらない」
「周囲の社員が、もう一緒に働けないと言っている」
「高い給与を払って採用したのに、期待した仕事をしてくれない」

このような社員を抱えた経営者から、「解雇できませんか」と相談されることがあります。

経営者の不満には、相応の理由があるのかもしれません。問題のある社員を放置すれば、真面目に働いている社員が疲弊し、退職してしまうこともあります。顧客や取引先との関係に悪影響が出れば、会社の経営にも関わります。

だからといって、会社が「態度が悪い」「能力が低い」「協調性がない」と判断しただけで、簡単に解雇できるわけではありません。

解雇問題で裁判所が確認するのは、社員に問題があったかどうかだけではないからです。

会社がその問題をどのように把握し、本人へ何を伝え、どのような改善の機会を与えたのか。教育、配置転換、業務変更など、解雇を避ける方法を検討したのか。そして、その経過を証拠として残しているのか。

つまり、問われるのは解雇した日の判断だけではありません。

問題が発生してから解雇するまでの会社の対応全体が問われます。

年俸1500万円の社員を約1年半で解雇

この問題を考えるうえで参考になるのが、アマゾンジャパン事件です。

この事件では、社員が年俸1500万円、入社1年目のサイニングボーナス600万円、2年目430万円という条件で中途採用されました。

職位は8段階のうち上から2番目で、チームリーダーとして、高度な仕事をすることが期待されていました。

具体的には、関係者の要求に柔軟に対応すること、さまざまな立場の上位者と協力すること、チームメンバーの成長を支援することなどが求められていました。

ところが会社側は、この社員が他の社員から寄せられた意見や上司の指導を受け入れず、上司や同僚に対して攻撃的な言動を取るなど、期待された役割を果たせていないと判断しました。

さらに、本人が自分の勤務態度を振り返ろうとせず、改善の見込みも乏しいと判断し、入社から約1年半後に普通解雇しました。

社員側は、この解雇は無効だとして、社員としての地位確認や解雇後の賃金などを求めました。

東京地方裁判所は、社員が会社の就業規則に定める解雇事由に当たり、解雇には客観的に合理的な理由があり、社会的に見ても相当であると判断しました。

裁判所が評価したのは「問題社員だったから」だけではない

この判決を見て、

年収の高い社員なら、期待した仕事ができなければ解雇できる。

と理解するのは危険です。

確かに、この社員は非常に高い処遇で、上位の職位として中途採用されていました。会社が期待する能力や役割も、一般社員より高かったと考えられます。

しかし、裁判所が確認したのは、給与額と結果だけではありません。

本人に対して、他の社員から繰り返し意見が寄せられていたこと、上司が指導していたこと、それでも本人が指導を受け入れなかったことなど、改善に至るまでの経過も確認されています。

さらに会社は、解雇の前に退職勧奨を行い、3カ月間の有給の特別休暇と、約590万円の退職金を提示していました。

それでも退職の合意が成立しなかったため、最終的に普通解雇を選択しています。

裁判所は、こうした会社の対応について、一定の解雇回避努力が行われたと評価しました。

重要なのは、約590万円を提示したから解雇が認められたわけではないことです。

高額な退職金を提示すれば、能力不足や勤務態度不良を理由とする解雇が自動的に有効になる制度はありません。

期待された役割、具体的な問題行動、指導の内容、本人の対応、改善可能性、会社が提案した退職条件などを総合的に検討した結果です。

中小企業がそのまままねをすると危険

この事件の社員は、高い専門性とリーダーとしての能力を期待され、上位職として中途採用されていました。

一般的な中小企業の社員と、同じ基準で考えることはできません。

たとえば、会社が「即戦力として採用した」と考えていても、求人票や雇用契約書に具体的な職務や必要能力が書かれていなければ、本人との認識が一致していたとは限りません。

また、一般社員の能力が不足している場合には、会社側に教育、指導、配置転換などが求められることがあります。

厚生労働省も、能力不足を理由に直ちに解雇できるわけではなく、改善の機会を与えるための警告に加え、可能な範囲で教育訓練、配置転換、降格などを行い、解雇を避けられないか検討する必要があると示しています。厚生労働省「多様な正社員に係る雇用管理上の留意事項」

大企業と違い、中小企業には配置転換できる部署がない場合もあります。

それでも、「小さな会社だから何もできなかった」ではなく、担当業務の変更、役割の見直し、指導担当者の変更、研修、目標設定など、実施可能な方法を検討した記録を残すことが大切です。

「態度が悪い」は証拠になりにくい

中小企業の解雇相談で、経営者からよく聞く言葉があります。

  • 態度が悪い
  • 協調性がない
  • やる気がない
  • 注意しても聞かない
  • 周囲に悪影響を与えている
  • 会社の方針に従わない

経営者や上司が受けた印象としては、間違っていないのかもしれません。

しかし、これらは抽象的な評価です。

「いつ、どこで、誰に対して、どのような発言や行動をしたのか」が分からなければ、本人は反論できませんし、第三者も問題の程度を判断できません。

たとえば、次の二つを比べてみてください。

悪い記録は、次のようなものです。

山田さんは協調性がなく、会議での態度も悪かった。

これでは、何が起きたのか分かりません。

より適切な記録は、次のようなものです。

8月10日午前10時の営業会議において、上司が新しい顧客対応方法を説明している途中で3回発言を遮った。同僚に対して「そんなことも分からないのか」と発言し、会議が約15分中断した。会議終了後、上司から、他者の説明を最後まで聞き、人格を否定するような表現を使用しないよう指導した。本人は「間違っている人に間違っていると言っただけ」と回答した。

ここまで書かれていれば、問題となった行動、業務への影響、会社の指導、本人の認識を確認できます。

記録の目的は、社員を追い詰めることではありません。

会社と本人が事実を共有し、何を改善すればよいかを明らかにするために残すものです。結果として改善できれば、解雇する必要もなくなります。

注意・指導は「怒ること」ではない

経営者が「何度も注意した」と言っていても、内容を確認すると、上司が感情的に叱っただけということがあります。

「しっかりしろ」
「もっと周りを見ろ」
「普通は分かるだろう」
「次はないぞ」

これでは、本人が何をどのように変えればよいのか分かりません。

注意・指導では、少なくとも次の内容を具体的に伝える必要があります。

  • どの行動が問題だったのか
  • どの規則や職務上の役割に反しているのか
  • 会社や周囲にどのような影響が出たのか
  • 今後、どのような行動に変えてほしいのか
  • 会社はどのような支援を行うのか
  • いつまでに改善状況を確認するのか
  • 改善されない場合に、どのような対応を検討するのか

口頭で指導した場合にも、日時、参加者、指導内容、本人の説明を記録します。

重大な問題が続いている場合には、書面による指導や警告も検討します。ただし、事実確認をしないまま、一方的な内容の警告書を渡すことは避けなければなりません。

本人の言い分を聞くことも、証拠を残すうえで重要な手続です。

解雇回避努力は、解雇直前に始めるものではない

「そろそろ解雇しよう」と考えてから、急に指導書を何枚も作り始める会社があります。

これでは、最初から解雇するための形式を整えたように見える可能性があります。

本来の解雇回避努力は、問題が小さい段階から始めるものです。

まず、会社が期待する役割を説明します。問題が起きたら、事実を確認して本人の話を聞きます。必要な注意や指導を行い、改善目標と期限を決めます。そのうえで、教育、担当変更、配置転換などを検討します。

この過程を積み重ねても改善がなく、会社や周囲への悪影響が続いているときに、初めて退職勧奨や解雇が現実的な選択肢になります。

解雇回避努力は、問題社員を守るためだけに行うものではありません。

周囲の社員を守り、会社の経営を守り、経営者が最後に行った判断を説明できるようにするためのものです。

解雇予告手当を払えば解雇できる、も間違い

もう一つ多い誤解が、

30日分の解雇予告手当を払えば、社員を解雇できる。

というものです。

解雇予告と解雇の有効性は、別の問題です。

30日前に予告する、または不足日数分の解雇予告手当を支払うことは、労働基準法上の手続です。

一方、労働契約法第16条では、客観的に合理的な理由がなく、社会的に見て相当でない解雇は、権利を濫用したものとして無効になると定めています。厚生労働省「労働契約の終了に関するルール」

解雇予告手当を支払っても、解雇そのものが無効になれば、社員としての地位や解雇後の賃金を請求される可能性があります。

「お金を払えば終わる」と考えるのは危険です。

退職勧奨も自由に行えるわけではない

アマゾンジャパン事件では、会社が解雇前に退職条件を提示していました。

中小企業でも、解雇を避けるために退職勧奨を検討することがあります。

退職勧奨は、会社が社員に退職を提案し、本人が自由な意思で応じるものです。

本人が断っているのに何度も長時間の面談を行う、複数の上司で取り囲む、「応じなければ懲戒解雇にする」と根拠なく迫るなどの対応は、退職の強要と評価されるおそれがあります。

退職金や解決金を提示する場合も、金額だけでなく、退職日、有給休暇、秘密保持、会社物品の返還などを整理し、本人が検討できる時間を設ける必要があります。

退職勧奨を行う段階では、社内だけで進めず、専門家へ相談してください。

無料診断シートで、自社の対応を確認してください

今回、経営者と人事担当者向けに、

「解雇回避努力・指導記録30項目診断シート」

を作成しました。

採用時の役割設定、就業規則、問題行動の記録、本人への確認、注意・指導、改善機会、教育支援、配置転換、退職勧奨、解雇前の手続などを確認できます。

プルダウンで回答すると、「確認済」「証拠・対応不足」「専門家相談」などが自動表示されます。

また、「証拠・記録の所在」と「次回対応・期限」を記入できるため、点検して終わるのではなく、実際の改善対応につなげられます。

ただし、このシートは解雇の有効性を判定するものではありません。

裁判例と自社の案件では、役職、賃金、期待された能力、職務限定の有無、問題行動、指導経過などが異なります。解雇、退職勧奨、降格、配置転換などを実施する前に、必ず専門家へご相談ください。

無料プレゼントは、次のフォームからお申し込みいただけます。

「解雇回避努力・指導記録30項目診断シート」を申し込む

お申し込み後、登録されたメールアドレスにダウンロード用URLが届きます。

「辞めさせたい」と思う前に、仕組みを整えましょう

解雇相談を受けたとき、すでに事態が悪化し、本人と上司の関係が修復できなくなっていることがあります。

その段階から証拠を集めようとしても、過去の出来事を正確に再現できません。指導記録がなく、本人に改善の機会を与えていなければ、会社にとって厳しい状況になります。

問題が起きていないときから、次の仕組みを整えておくことが大切です。

  • 役割と評価基準を明確にする
  • 上司が同じ方法で指導できる書式を用意する
  • 面談記録を残す
  • 問題行動を具体的事実で記録する
  • 改善目標と期限を設定する
  • 配置転換などを検討する手順を決める
  • 解雇や退職勧奨の前に専門家へ相談する

簡単に解雇を考えないことは、問題社員を放置することではありません。

早い段階から適切に注意し、改善を支援し、その経過を記録することです。

社員が改善すれば、会社にとって最も良い結果です。それでも改善しない場合には、会社が行った努力と判断理由を説明できる状態になります。

オフィススギヤマグループでは、就業規則の整備だけでなく、指導書、面談記録、改善計画、退職勧奨、解雇前の確認まで、実際の運用を見据えて支援します。

「もう辞めさせるしかない」と思ってから相談するのではなく、少し対応に困り始めた段階で、杉山事務所と一緒に解決方法を考えましょう。

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