長時間労働者の面接指導、会社はどう動く?就業時間・賃金・病院・費用負担を実務解説

杉山 晃浩

厚生労働省のモデル就業規則には、長時間労働者に対する面接指導について、次のように定められています。

会社は、労働者の労働時間の状況を把握する。
長時間の労働により疲労の蓄積が認められる労働者に対し、その者の申出により医師による面接指導を行う。
面接指導の結果必要と認めるときは、一定期間の就業禁止、労働時間の短縮、配置転換その他健康保持上必要な措置を命ずることがある。

内容としては間違っていません。

ところが、この条文だけを自社の就業規則に入れても、実際に対象者が出たとき、事務担当者は困ります。

「面接指導は勤務時間中に受けてもらうのか」

「その時間の賃金は有給か、無給か」

「どこの病院へ予約すればよいのか」

「内科、心療内科、精神科のどこなのか」

「本人のかかりつけ医でもよいのか」

「費用は会社と本人のどちらが負担するのか」

「産業医がいない会社はどうすればよいのか」

「医師から会社に何を報告してもらうのか」

モデル就業規則は、法律上必要な基本事項を示すものです。会社の具体的な運用方法まで、すべて書いてあるわけではありません。

そこで今回は、長時間労働者に対する医師の面接指導について、中小企業の経営者と事務担当者が実際に動けるよう、手順に沿って解説します。

そもそも面接指導とは何をする制度なのか

長時間労働者に対する面接指導は、一般的な病院の診察とは少し違います。

風邪を治す、腰痛を治す、うつ病を治療するといった通常の診療ではありません。

長時間労働による疲労が蓄積している労働者について、医師が勤務状況、睡眠、疲労、身体症状、心の状態などを確認し、健康障害を防ぐために必要な指導を行う制度です。

さらに、医師は会社に対して、次のような就業上の措置が必要かどうかについて意見を出します。

  • 時間外労働の制限
  • 深夜労働の制限
  • 出張の制限
  • 作業内容の変更
  • 配置転換
  • 就業場所の変更
  • 一定期間の就業禁止
  • 休暇や休養の確保
  • 医療機関の受診

つまり、面接指導の目的は「病名を見つけること」ではありません。

長時間労働によって脳・心臓疾患や精神障害などが起きる前に、本人の状態を確認し、会社が働かせ方を見直すことが目的です。

誰が面接指導の対象になるのか

一般の労働者については、時間外労働と休日労働の合計が1か月当たり80時間を超え、疲労の蓄積が認められ、本人から申出があった場合、会社は医師による面接指導を実施しなければなりません。

ここでいう時間外・休日労働は、単に会社の所定労働時間を超えた時間ではありません。週40時間を超えた時間など、法律上の考え方に基づいて確認します。

会社は毎月、労働時間の状況を把握しなければなりません。

月80時間を超えた従業員については、対象となる時間数を速やかに本人へ通知します。そのうえで、面接指導の制度と申出方法を案内する必要があります。

「本人が何も言ってこないから、会社は何もしなくてよい」という考え方はおすすめできません。

月80時間を超えた労働者については、申出がない場合でも面接指導を実施するよう努めることとされています。

また、月45時間を超える時間外・休日労働があり、健康への配慮が必要と認められる従業員についても、面接指導などの措置を講じることが望ましいとされています。

80時間は、「ここまでは安全」という数字ではありません。

顔色が悪い、眠れていない、ミスが増えた、急に元気がなくなった、遅刻や欠勤が増えたといった変化があれば、時間数だけで判断せず、早めに産業医などへ相談してください。

なお、研究開発業務従事者や高度プロフェッショナル制度の対象者には、一般の労働者とは異なる面接指導の基準があります。該当する会社は個別に確認が必要です。

本人から申出がないと実施できないのか

一般の労働者に対する法定の面接指導は、原則として本人の申出を受けて行います。

会社は、申出をしやすい環境を整えなければなりません。

例えば、対象者への通知には次の内容を入れておきます。

  • 対象となった時間外・休日労働時間
  • 面接指導を申し出ることができること
  • 申出先
  • 申出期限
  • 面接指導を行う医師や窓口
  • 費用負担
  • 面接時間の賃金の取扱い
  • 申出を理由とする不利益な取扱いをしないこと
  • 健康情報を適正に管理すること

上司へ直接申し出る方法しかないと、従業員が遠慮する可能性があります。

人事担当者、衛生管理者、産業医、外部相談窓口など、複数の申出方法を用意すると利用しやすくなります。

また、産業医は対象者に対して、面接指導を申し出るよう勧めることができます。

会社としても、「申出がなかった」という記録だけで終わらせず、本人の健康状態を確認し、必要に応じて面接指導を勧めることが大切です。

面接指導は就業時間中に行うのか

法律には、面接指導を必ず就業時間中に実施しなければならない、という明確な規定まではありません。

しかし、面接指導は、会社に実施義務が課されている健康確保措置です。

そのため、実務上は勤務時間内に設定し、業務の一環として受けてもらう運用がわかりやすいでしょう。

「休憩時間に行ってください」

「休日に自分で病院へ行ってください」

「仕事が終わってから受けてください」

という運用では、長時間労働で疲れている従業員へ、さらに負担をかけることになります。

面接指導を受けやすくし、申出をためらわせないためにも、できるだけ就業時間中に実施することをおすすめします。

会社が医師の来社日を決めて面接する方法だけでなく、外部の医療機関や地域産業保健センターへ従業員が出向く方法、一定の条件を整えたうえでオンライン面接を利用する方法も考えられます。

面接時間の賃金は有給か無給か

面接指導を受ける時間の賃金については、法律上、当然に会社が支払わなければならないとまではされておらず、労使で協議して決めることになります。

ただし、厚生労働省は、労働者の健康確保は事業を円滑に運営するために不可欠であることから、面接指導に要した時間の賃金を会社が支払うことが望ましいとしています。

実務上は、通常の勤務時間として扱い、賃金を支払う方法をおすすめします。

無給扱いにすると、

「申し出たら給料を減らされる」

「忙しい職場に迷惑をかける」

「自分の休みを使わなければならない」

と従業員が考え、申出を控える原因になります。

面接指導を受けるために年次有給休暇を使わせる運用も、制度の目的を考えると適切とは言いにくいでしょう。

就業規則や社内の面接指導実施要領に、次のような内容を定めておくと混乱を防げます。

会社が実施する長時間労働者への医師による面接指導は、原則として所定労働時間内に行い、その時間は通常の勤務として取り扱う。

移動時間の取扱いについても、会社が指定した医療機関へ行くために必要な時間であれば、社内ルールを決めておきましょう。

面接指導の費用は誰が負担するのか

法令に基づく面接指導の費用は、会社が負担すべきものとされています。

会社に実施義務が課されている制度だからです。

従業員に対して、

「健康保険証を使って、自費で受診してください」

と案内するものではありません。

面接指導は通常の保険診療とは目的が異なるため、医師や医療機関へ依頼するときは、長時間労働者への面接指導であることを明確に伝え、料金、実施方法、意見書の作成費用などを確認します。

会社が指定した医療機関や地域産業保健センターへ従業員が出向く場合は、必要な交通費についても会社負担とするのが自然です。

費用の取扱いを曖昧にすると、本人と事務担当者の間でトラブルになります。

面接費用、意見書作成費用、交通費、勤務時間の賃金について、あらかじめ社内ルールを決めてください。

どこの病院で、何科を受診させるのか

面接指導を行う医師について、法律上、内科、心療内科、精神科などの診療科の指定はありません。

大切なのは、長時間労働による健康への影響を確認し、会社に対して就業上の意見を出せる医師であることです。

基本的には、次の順で検討するとよいでしょう。

  1. 会社が選任している産業医
  2. 産業医の資格や産業保健の知識を持つ医師
  3. 地域産業保健センターの登録医
  4. 会社が契約している外部産業医
  5. 面接指導に対応できる医療機関の医師

面接指導を行う医師の資格に特別な診療科の制限はありませんが、会社の業務内容や職場環境を理解し、労働時間短縮や配置転換などの意見を出せる医師が望ましいとされています。

したがって、「疲れているから、とりあえず近所の内科へ行かせる」というだけでは、法定の面接指導として必要な意見が得られない可能性があります。

本人のかかりつけ医でもよいのか

本人のかかりつけ医に依頼することも、直ちに否定されるものではありません。

ただし、通常の診察だけで終わってしまい、会社が必要とする就業上の意見書が出ないことがあります。

依頼する前に、次の点を確認しましょう。

  • 長時間労働者への面接指導に対応できるか
  • 会社が提供する勤務情報を確認してもらえるか
  • 就業上の措置に関する意見書を作成してもらえるか
  • 会社からの問い合わせに必要な範囲で対応してもらえるか
  • 面接費用と意見書作成費用はいくらか

医師には、対象期間の労働時間、時間外・休日労働時間、深夜勤務の回数、業務内容、出張状況など、面接指導に必要な勤務情報を提供します。

本人の詳しい病歴など、目的に関係のない情報まで集めないよう注意してください。

産業医がいない中小企業はどうするのか

常時50人未満の労働者を使用する事業場では、原則として産業医の選任義務がありません。

しかし、産業医がいないことを理由に、必要な面接指導を行わなくてよいわけではありません。

この場合は、地域産業保健センターを活用できます。

地域産業保健センターでは、労働者数50人未満の小規模事業場を対象に、長時間労働者への医師の面接指導など、産業保健に関するサービスを無料で提供しています。

ただし、予約状況や利用条件があるため、対象者が出てから慌てて探すのではなく、平時から次の内容を確認しておきましょう。

  • 自社所在地を担当する地域産業保健センター
  • 申込方法
  • 必要書類
  • 予約に必要な期間
  • 面接指導の実施場所
  • 医師の意見書の様式
  • 会社側の連絡担当者

「産業医がいないので対応方法がわからない」という状態を、放置しないことが重要です。

面接指導はいつまでに実施するのか

面接指導の申出は、対象となる時間外・休日労働時間の算定後、概ね1か月以内に行われるようにします。

会社は申出を受けた後、概ね1か月以内に医師による面接指導を実施することが基本です。

ただし、本人の体調が悪い、睡眠がほとんど取れていない、胸痛や激しい動悸がある、強い抑うつ状態があるといった場合は、1か月を待ってはいけません。

面接指導の予約とは別に、速やかに通常の医療機関を受診させる必要があります。

事務担当者が症状から病気を判断するのではなく、緊急性が疑われる場合は医師や専門窓口につなぐ体制を整えてください。

医師から何を報告してもらうのか

面接指導を行った医師には、本人の健康を守るために必要な就業上の措置について意見を求めます。

医師の意見書には、例えば次のような区分が考えられます。

  • 通常勤務で差し支えない
  • 時間外労働を制限する
  • 深夜勤務を制限する
  • 出張を制限する
  • 業務内容を変更する
  • 配置転換を検討する
  • 一定期間休業させる
  • 専門医療機関への受診が必要
  • 一定期間後に再度面接する

会社に必要なのは、病名を詳しく知ることではありません。

「どのような働かせ方であれば健康を守れるのか」という就業上の意見です。

診断名、服薬内容、家族関係、過去の病歴など、就業上の措置に必要のない情報まで会社へ報告させることは避けてください。

面接指導後に会社がしなければならないこと

面接指導は、医師と話をして終わりではありません。

会社は医師の意見を聴き、その意見を踏まえて必要な措置を検討します。

例えば、医師から「今後1か月は時間外労働を月20時間以内に制限する」という意見が出た場合、直属の上司に伝え、業務量や納期、人員配置を調整しなければなりません。

本人に「自分で早く帰ってください」と伝えるだけでは、実効性のある措置とは言いにくいでしょう。

残業を減らすためには、会社側が次のような対応を行います。

  • 担当業務を減らす
  • 他の従業員へ業務を分担する
  • 納期を調整する
  • 顧客対応の方法を変える
  • 深夜勤務や休日出勤を禁止する
  • 出張を減らす
  • 配置転換を行う
  • 一定期間休ませる

措置を決めたら、本人へ内容と期間を説明し、開始日と見直し日を記録します。

医師の意見と異なる措置を行う場合は、その理由を説明できるようにしておく必要があります。

健康情報は誰まで共有してよいのか

面接指導で得た情報は、重要な健康情報です。

社内で自由に共有してよいものではありません。

例えば、直属の上司には、「時間外労働を月20時間以内にする」「深夜勤務をさせない」など、業務管理に必要な内容だけを伝えます。

病名や詳しい症状まで伝える必要がなければ、共有すべきではありません。

情報へアクセスできる人は、経営者、人事責任者、衛生管理者、産業医など、就業上の措置を実施するために必要な範囲へ限定します。

管理表を社内の共有フォルダへ置き、誰でも閲覧できる状態にすることは避けましょう。

担当者が管理表を作る場合も、氏名ではなく従業員コードを使い、診断名、服薬内容、詳しい病歴などは記載しない方法が安全です。

面接指導の結果に関する記録は、原則として5年間保存します。

モデル就業規則の条文だけでは運用できない

厚生労働省のモデル就業規則第60条は、会社が取り組むべき基本的な方向を示しています。

しかし、実際に制度を動かすためには、少なくとも次の事項を決めなければなりません。

  • 労働時間を誰が毎月集計するか
  • 月80時間を超えた本人へ誰が通知するか
  • 申出窓口をどこにするか
  • 面接指導を担当する医師
  • 産業医が不在の場合の依頼先
  • 面接指導を勤務時間として扱うか
  • 賃金、面接費用、交通費の負担
  • 医師へ渡す資料
  • 意見書の様式
  • 就業上の措置を決定する責任者
  • 情報を共有する範囲
  • 記録の保管場所
  • 措置の見直し時期

就業規則に条文があるだけで、これらが決まっていなければ、対象者が出たときに対応が止まります。

「そのときに考えればよい」では遅いのです。

長時間労働が発生している時点で、本人も上司も事務担当者も忙しくなっています。平時に手順を決めておくことが、健康障害と会社のリスクを減らします。

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長時間労働者「面接指導」実施フロー・記録管理シート

対象者ごとに次の内容を入力できます。

  • 対象月
  • 時間外・休日労働時間
  • 月80時間超の通知
  • 本人からの申出
  • 面接を依頼する医師・機関
  • 面接実施日
  • 医師の意見書受領
  • 就業上の措置
  • 社内の担当者・期限

入力内容に応じて、

  • 本人への通知が必要
  • 申出の確認が必要
  • 医師の手配が必要
  • 面接日程の調整が必要
  • 医師の意見書待ち
  • 就業上の措置が必要
  • 対応完了

と、「現在の状況」「次に行うこと」が自動表示されます。

また、事務担当者が迷いやすい就業時間、賃金、費用、病院、診療科、産業医がいない場合の対応も1シートにまとめています。

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条文を置くだけでなく、会社が動ける仕組みにする

長時間労働者への面接指導は、就業規則に条文を置くだけで完成する制度ではありません。

対象者を把握し、本人へ通知し、申出を受け、医師を手配し、面接を実施し、医師の意見を受けて、会社が働かせ方を変えるところまでが一つの流れです。

経営者が覚えておきたいのは、面接指導が「本人の健康管理」だけの問題ではないということです。

長時間労働を発生させている業務量、人員配置、納期、管理方法など、会社側の問題を見直す機会でもあります。

「本人が面接指導を申し出なかった」

「本人が大丈夫だと言った」

という理由だけでは、会社の健康配慮が十分だったとは限りません。

モデル就業規則を自社の就業規則へ取り入れる場合は、申出方法、費用、賃金、医師の手配、個人情報、事後措置まで、自社で運用できる内容に整えてください。

オフィススギヤマグループでは、就業規則の作成・見直しだけでなく、長時間労働者への面接指導、労働時間管理、休職・復職、健康情報の取扱いなど、実際の運用まで見据えたご相談を承っています。

【お問い合わせ】オフィススギヤマグループ
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電話お問い合わせ 0985-36-1418

※本記事は一般的な制度の説明です。対象者の働き方、職種、健康状態、事業場規模などによって対応が異なる場合があります。緊急性の高い症状がある場合は、面接指導の手続を待たず、速やかに医療機関へつないでください。

参考資料
厚生労働省「長時間労働者、高ストレス者の面接指導について」
厚生労働省「地域産業保健センターにおける面接指導等」
厚生労働省「労働者数50人未満の小規模事業者の方」

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