【就業規則「ある」場合のメリット徹底解説】人事・経営者が知っておくべき重要ポイント
杉山 晃浩
企業の持続的な成長と安定を実現するために、人事・労務管理は非常に重要な要素です。働き方が多様化し、労働関連法規も複雑化する現代において、改めて注目されているのが「就業規則」の存在です。
「うちの会社はまだ小さいから、就業規則は必要ないかな…」「作ってみたものの、きちんと活用できていない気がする…」
もしあなたがそう感じている経営者や人事担当者であれば、ぜひ本記事を読み進めてください。今回は、就業規則を「ある」場合に企業が得られる数多くのメリットについて、詳しく解説していきます。就業規則の重要性を再認識し、自社の労務管理体制をより強固なものにするための一助となれば幸いです。
はじめに:なぜ今、就業規則の「ある」「なし」を考えるべきなのか
近年、働き方改革関連法の施行をはじめ、労働時間や休暇、雇用形態など、企業の労働環境を取り巻く法制度は目まぐるしく変化しています。テレワークやフレックスタイム制といった柔軟な働き方も普及し、従業員の価値観も多様化しています。このような状況下では、従来の曖昧なルールや慣習だけでは、労務トラブルを未然に防ぎ、従業員が安心して働ける環境を整備することは困難です。
就業規則は、企業の基本的なルールブックであり、労働条件や服務規律などを明確に定めることで、労使間の認識のずれを防ぎ、円滑な組織運営を支える重要な役割を担います。今、改めて就業規則の「ある」「なし」が企業にどのような影響を与えるのかを深く理解することは、人事・経営戦略において不可欠と言えるでしょう。
本記事では、就業規則が「ある」場合に企業が得られる具体的なメリットを多角的に解説します。これらの情報を踏まえ、あなたの会社にとって就業規則がどのような意味を持つのか、改めて考えるきっかけにしていただければ幸いです。
第1章:就業規則が「ある」場合のメリット
就業規則を整備し、適切に運用することは、企業にとって多岐にわたるメリットをもたらします。ここでは、その中でも特に重要な5つの側面について詳しく見ていきましょう。
1-1. 労務トラブルの予防と解決
就業規則の最も重要な役割の一つが、労務トラブルの予防です。労働時間、賃金、休日といった基本的な労働条件や、遅刻、欠勤、ハラスメントといった服務規律を明確に定めることで、従業員は自身の権利と義務を理解し、会社との認識のずれを防ぐことができます。
例えば、
- 労働時間・休暇: 就業規則に始業・終業時刻、休憩時間、年次有給休暇の取得ルールなどを具体的に記載することで、「いつからが労働時間になるのか」「有給休暇はいつまでに申請すれば良いのか」といった疑問を解消し、無用な紛争を防ぎます。
- 賃金: 基本給の決定方法、各種手当の支給条件、残業代の計算方法などを明確にすることで、「なぜこの給与額なのか」「残業代はきちんと支払われるのか」といった従業員の不安を解消し、賃金に関するトラブルを予防します。
- 服務規律: 就業規則に禁止事項や遵守すべき事項を明記することで、従業員は取るべき行動を理解し、企業秩序を維持することができます。ハラスメントに関する規定を設けることは、健全な職場環境の実現に不可欠です。
万が一、労務トラブルが発生した場合でも、就業規則は紛争解決の重要な判断基準となります。明確なルールが存在することで、感情的な対立ではなく、客観的な根拠に基づいて問題解決を図ることができ、訴訟リスクの低減にも繋がります。過去の裁判例においても、就業規則の規定が重要な判断材料となるケースは少なくありません。
1-2. 組織運営の安定化と効率化
就業規則は、組織運営の安定化と効率化にも大きく貢献します。従業員が共通のルールを理解し、それに従って行動することで、組織全体の秩序が保たれ、スムーズな業務遂行が可能になります。
- 行動規範の明確化: 就業規則は、従業員が職場でどのような行動をとるべきかの指針となります。これにより、従業員は迷うことなく業務に取り組むことができ、組織全体としての生産性向上に繋がります。
- 人事評価・懲戒処分の根拠: 人事評価の項目や基準、懲戒処分の種類や程度などを就業規則に明記することで、評価や処分に対する従業員の納得感が高まり、不当な扱いを受けているという不満を抑制することができます。公平性の確保は、従業員のエンゲージメント向上に不可欠です。
- 業務効率の向上: 役割分担や責任範囲、報告・連絡・相談のルールなどを就業規則に定めることで、業務の重複や漏れを防ぎ、効率的な業務遂行を促進します。
明確なルールに基づいた組織運営は、従業員の不安を軽減し、安心して業務に集中できる環境を作り出します。結果として、従業員のモチベーション向上にも繋がり、組織全体の活性化に貢献します。
1-3. 従業員のモチベーション向上と定着促進
透明性の高い労働条件や公正な評価制度は、従業員のモチベーション向上と企業への定着を促進する上で非常に重要です。就業規則は、これらの要素を明確にすることで、従業員の安心感と信頼感を醸成します。
- 安心感と信頼感の醸成: 労働時間、賃金、休暇、福利厚生といった労働条件が明確に定められていることで、従業員は将来の見通しを持つことができ、安心して働くことができます。不透明な労働条件は、従業員の不安を増大させ、企業への不信感を招きかねません。
- 目標設定の支援: キャリアパスや昇進・昇格の基準、評価制度などが明確に示されていることで、従業員は自身のキャリア目標を設定しやすくなり、日々の業務へのモチベーションを高めることができます。
- 公平な待遇によるエンゲージメント向上: 就業規則に基づいた公平な評価や処遇は、従業員のエンゲージメントを高め、企業への貢献意欲を引き出します。不公平感は、従業員の不満を増大させ、離職に繋がる大きな要因となります。
従業員にとって、自身の権利が守られ、公正な評価を受けられる環境は、長期的に活躍するための重要な要素です。就業規則を通じてこれらの環境を整備することは、優秀な人材の確保と定着に不可欠と言えるでしょう。
1-4. 法令遵守と企業防衛
企業が事業活動を行う上で、労働基準法をはじめとする様々な労働関連法規を遵守することは当然の義務です。就業規則は、これらの法令の内容を具体的に落とし込み、社内ルールとして明確化することで、法令遵守を徹底するための重要なツールとなります。
- 労働基準法などの関連法規への適合: 就業規則を作成する過程で、労働時間、休日、休憩、割増賃金など、労働基準法で定められた基準を遵守しているかを確認することができます。また、法改正があった際には、就業規則を見直すことで、常に最新の法令に適合した労務管理を行うことができます。
- 行政機関からの指導・是正リスクの低減: 法令を遵守した就業規則を整備し、適切に運用することで、労働基準監督署などの行政機関からの指導や是正勧告を受けるリスクを低減することができます。
- 企業イメージの向上: 法令遵守を徹底する企業姿勢は、社会からの信頼を得やすく、企業イメージの向上に繋がります。これは、採用活動や取引先との関係においてもプラスに働きます。
法令違反は、企業の信用を失墜させるだけでなく、罰則や訴訟に繋がる可能性もあります。就業規則を適切に整備・運用することは、企業を守るための重要な防衛策と言えるでしょう。
1-5. 採用活動における優位性
整備された就業規則は、採用活動においても大きなアドバンテージとなります。求職者にとって、労働条件や福利厚生、企業文化といった情報は、就職先を選ぶ上で非常に重要な判断材料となります。
- 明確な労働条件による求職者へのアピール: 就業規則で労働時間、給与体系、休日休暇、福利厚生などが具体的に示されていることは、求職者にとって安心感を与え、応募意欲を高めます。
- 信頼できる企業イメージの形成: しっかりとした就業規則を整備していることは、企業が従業員のことを真剣に考えている証と捉えられ、法令遵守意識の高い信頼できる企業というイメージを形成します。
- ミスマッチの防止: 事前に労働条件や服務規律を明確に伝えることで、入社後のミスマッチを防ぎ、早期離職のリスクを低減することができます。
優秀な人材を獲得するためには、魅力的な労働条件を示すだけでなく、透明性の高い情報開示が不可欠です。就業規則は、企業の魅力を効果的に伝え、優秀な人材を引き寄せるための強力な武器となります。
まとめ
今回は、就業規則が「ある」場合に企業が得られる5つの主要なメリットについて解説しました。労務トラブルの予防と解決、組織運営の安定化と効率化、従業員のモチベーション向上と定着促進、法令遵守と企業防衛、そして採用活動における優位性。これらのメリットは、企業の持続的な成長と発展に不可欠な要素と言えるでしょう。
次回のブログでは、就業規則が「ある」場合のデメリットと注意点、そして就業規則が「ない」場合に生じるデメリットについて詳しく解説していきます。引き続き、就業規則の重要性について深く掘り下げていきましょう。