まだ曖昧なまま運用していませんか?中小企業のための賞与制度の基本と落とし穴

杉山 晃浩

第1章|「賞与?とりあえず出してるよ」──その“曖昧運用”がリスクに

「ボーナス?毎年なんとなく出してますよ」

中小企業の経営者からよく聞かれるこの一言。実はここに、後々のトラブルの芽が潜んでいます。

賞与をめぐるトラブルで多いのは、「支給基準があいまい」「就業規則に記載がない」「業績不振で今年はナシと言ったら不満が爆発した」など。賞与は任意とはいえ、一度運用を始めると“慣例”として支給義務が発生したように見られるリスクがあります。

また、制度がないまま支給していると、キャリアアップ助成金などの公的支援も受けにくく、税・社会保険の処理も煩雑になるなど、経営面でも非効率が発生します。


第2章|賞与制度とは何か?「給与」との違いとその位置づけ

賞与制度とは、給与とは別に、定期的または業績・評価に応じて支給される報酬制度です。

▶ 賞与の法的位置付け

  • 法律上は「任意給」=出さなくても法違反ではない

  • ただし、就業規則や賃金規程に明記されていれば“支給義務”が発生

▶ 給与との違い

項目 給与 賞与
支給頻度 毎月定額 年2回や業績連動など不定期
社会保険料 月額報酬に反映 標準賞与額に基づいて別途徴収
税金 所得税・住民税 所得税のみ(住民税には含まれない)

▶ 賞与制度の意義

  • 従業員のモチベーションアップ

  • 経営状況に応じた人件費の調整弁

  • 人材定着・採用強化の武器


第3章|賞与制度を導入するだけで助成金?キャリアアップ助成金との関係

近年注目されている「キャリアアップ助成金(正社員化コース)」では、賞与制度の有無が助成金受給の条件となっています。

たとえば、有期契約社員を正社員に転換する際、

  • 「賞与あり」「昇給あり」「退職金あり」の3要件のうち、2つ以上を満たすことが必要

  • そのために就業規則に賞与の規定が整備されているかが問われます

つまり、賞与制度を就業規則に明文化しておくことは、“助成金を受ける権利”をつくることにもつながるのです。


第4章|要注意!よくある「賞与制度」に関する3つの誤解

誤解①:「一度出したら、毎年出さないといけない」

→ 実際には、支給の有無・基準は就業規則や賃金規程次第

明記されていない場合でも、「3年連続で支給していた」などの“慣例”が根拠になって支給義務を問われるケースがあります。リスク回避のためには、「支給することがある」「業績等に応じて決定」など柔軟な表現での明文化が望ましいです。

誤解②:「賞与は給与と同じように扱えばいい」

→ 賞与は社会保険料や税金の取り扱いが異なるため、給与と同じ感覚で処理するとトラブルに。

賞与には標準賞与額に基づく保険料徴収があり、月額報酬とは別枠で処理されます。源泉所得税も別計算です。給与ソフトや税理士との連携が重要になります。

誤解③:「今年は業績悪いからナシで済むでしょ?」

→ 明文化されていない賞与でも、“当然支給されると期待していた”という従業員の受け止め方が問題になります。

「評価や業績に応じて支給の有無を決める」と就業規則に書いておけば、支給しない年でも法的リスクを最小化できます。


第5章|制度を整える前に知っておきたい“実務チェックポイント”

チェック項目 内容
賃金規程に明記されているか? 支給時期・基準・対象者・算定方法などを記載
社会保険料と税務処理の理解 賞与支給時に控除すべき項目(厚年・健保・税)
評価制度との整合性はあるか? 「誰にどのくらい支給するか」の根拠を持つ
財務シミュレーションは済んでいるか? 支給額・人数による資金繰りの影響を確認

また、賞与の支給予定月には、資金繰り計画(短期資金繰り表)とのすり合わせが不可欠です。特に、借入返済月や納税と重なる場合は注意が必要です。


第6章|まとめ:「曖昧なまま」から「信頼される制度」へ

賞与は“なんとなく出しておけばいい”時代から、 制度設計・評価連動・キャッシュ管理・助成金活用といった多面的な視点が必要な時代へと移行しています。

「出す出さない」の話ではなく、 「どう出すか」「どう納得してもらうか」

賞与制度は、経営と人事の橋渡しをする大切な仕組みです。 まずは、就業規則と賃金規程を整えるところから始めてみてはいかがでしょうか。


 

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