社労士が警告!企業型DCを使った“社保料対策”が生む3つの落とし穴

杉山 晃浩

第1章|算定基礎届シーズンに増える「甘い誘い」

7月10日といえば、社会保険の「算定基礎届」の提出期限です。
4月〜6月に支払った報酬額をもとに、その後1年間の社会保険料が決まる、いわば“保険料の基準づくり”となる大事なタイミングです。

この時期になると、「社会保険料を安く抑えられませんか?」という経営者の声が高まります。
それに応えるかのように、最近、こんな“営業トーク”が蔓延しています。

「選択制企業型DCを導入すれば、算定期間中の給与を下げられて、社保料も減らせますよ!」

確かに、表面的には“制度の中でできる工夫”に見えるかもしれません。
ですが、私は社労士としてあえて警鐘を鳴らしたいと思います。
この方法、グレーではなく“真っ黒”なやり方です。

実際に、経営者が意図的に掛金額を操作することで、社員の社会保険上の報酬を意図的に引き下げる例が出てきています。
それは一見すると節約に見えますが、実は多くの「落とし穴」をはらんでいるのです。


第2章|社労士が見抜いた“3つの落とし穴”とは?

では、具体的にどこに問題があるのか?
ここでは、実務で実際に問題となり得る「3つの落とし穴」をご紹介します。


落とし穴①|社員の意思を無視した掛金変更はNG

選択制企業型DCは、「社員本人が選ぶ制度」であることが大前提です。
ところが営業トークでは、会社側の一存で「この3か月だけ掛金を増やして、給与を下げましょう」と提案されるケースが少なくありません。

これは明確な労働契約違反です。

社員の給与額を一方的に変更することになりますし、何より、企業型DCは社員が任意で拠出額を決める制度です。
就業規則や労使協定にもとづき、書面での申出があって初めて変更が認められます。

もしこれを会社都合で勝手に行えば、

  • 労基署から是正指導

  • 労働契約法違反

  • 労使トラブルによる信用低下

など、大きなリスクを抱えることになります。


落とし穴②|掛金控除後の給与が最低賃金を下回るリスク

さらに見逃せないのが、最低賃金割れのリスクです。

選択制企業型DCは、給与から掛金を差し引いて拠出します。
つまり、見かけ上の「総支給額」は同じでも、差し引かれた後の金額が最低賃金以下になることがあるのです。

特に、パート・アルバイトなどの非正規雇用者で、社会保険に加入しているケースでは要注意。
最近では、週20時間以上・月額賃金88,000円以上で社保加入対象になる非正規社員も増えています。

このような方々に対し、形式的にDC加入を勧め、掛金額を上げてしまうと、最低賃金違反で行政指導・罰則の対象になりかねません。


落とし穴③|社員の資産形成に逆効果となる危険

最後の落とし穴は、「制度の趣旨を無視した活用によって、社員の信頼を失う」という点です。

企業型DCの本来の目的は、「社員の老後資産形成の支援」です。
月々一定額を積立てることで、ドルコスト平均法の恩恵を受け、長期的に安定した資産形成を目指す制度です。

ところが、「3か月だけ高く、あとは元に戻す」という変則的な設計では、平均購入価格はむしろブレが大きくなり、資産形成にプラスとは言えません。

また、「社保料対策の道具として使われた」と感じた社員の中には、制度自体に不信感を持つ人も出てくるでしょう。

制度設計において最も大切なのは、社員との信頼関係です。
それを損なうような運用は、長期的に見て“損失”でしかありません。


第3章|社労士が提案する“正しい企業型DCの活用法”

では、企業型DCは悪い制度なのか?――決してそんなことはありません。
きちんと設計し、正しく運用すれば、「社員と会社がWin-Win」になる強力な福利厚生制度です。

✅ 社員のメリット

  • 老後資金の積立てを会社支援で行える

  • 税・社保の負担軽減効果も享受できる

  • 掛金額はライフプランに応じて自分で選べる

✅ 会社のメリット

  • 掛金が報酬外なら、社保料の負担増を抑えつつ福利厚生をアピールできる

  • 求人・定着で差別化できる

  • 役員の相続対策や退職金設計にも活用できる


💡 実務ポイント:非正規社員にも配慮した設計を

近年、同一労働同一賃金の流れを受けて、非正規社員への適用範囲も重要なテーマです。

たとえパートやアルバイトであっても、社会保険に加入しているのであれば、選択制DCの対象から外す合理的理由はありません。
「正社員だけが資産形成できる」という制度は、将来の労務トラブルの火種になりかねません。

対象者の基準は明確にし、職務内容や勤務時間ではなく、社保加入の有無や希望をもとに公正に運用することが大切です。


第4章|まとめ:節約よりも信頼の構築を

「掛金を操作して社保料を下げる」
そんな小手先の節約術に頼ってしまえば、社員の信頼を失い、制度本来の目的を歪めてしまいます。

企業型DCは、本来、社員に“この会社にいてよかった”と思わせる制度にできる可能性を秘めています。

正しく使えば、未来のための投資。
間違って使えば、会社の信頼を損ねる“劇薬”です。


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私たちは、企業型DCの導入・見直しにあたり、「企業と社員の未来を守る設計」ができているかをチェックする無料相談サービスを行っています。

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