社長が知っておくべき遺言の種類と使い分け ――会社と家族を守るための実務視点ガイド――
杉山 晃浩
第1章|なぜ今、経営者に「遺言」が求められているのか
「相続の話は、まだ先のことだと思っている」
経営者と話していると、今でもよく聞く言葉です。
しかし現実には、相続は“ある日突然起きる経営リスク”です。
年齢や健康状態に関係なく、事故や急病は誰にでも起こります。そして経営者に相続が発生した瞬間、会社は次のような問題に直面します。
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株式が相続人に分散し、経営判断ができなくなる
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代表者が決まらず、金融機関や取引先対応が止まる
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親族間の感情的対立が、会社経営に持ち込まれる
これらは決して珍しい話ではありません。
重要なのは、相続は「家族の問題」であると同時に「経営の問題」でもあるという点です。
そして、その混乱を最小限に抑えるための最も基本的なツールが「遺言」です。
遺言は、亡くなった後のための書類ではありません。
経営者が、生きているうちに未来へ出す“経営指示書”なのです。
第2章|遺言には3つの種類がある【全体像を整理】
日本の民法では、一般的に次の3つの遺言方式が認められています。
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自筆証書遺言
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公正証書遺言
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秘密証書遺言
「遺言」と聞くと、これらはどれも同じ効力を持つように思われがちですが、実務上の扱い・安全性・トラブル耐性は大きく異なります。
特に経営者の場合、遺言を選ぶ際には次の3点が重要になります。
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無効にならないか
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相続発生後、スムーズに実行できるか
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争いの火種を残さないか
この視点を持たずに遺言を書くと、「書いたのに役に立たない」「かえって揉めた」という事態を招きかねません。
第3章|自筆証書遺言|手軽だが“落とし穴”が多い方式
自筆証書遺言は、全文を自分で書き、日付と署名、押印をする遺言です。
最大のメリットは、費用がほとんどかからず、すぐに作成できることでしょう。
そのため、「まずは自筆で書いておこう」と考える経営者も少なくありません。
しかし、ここには大きな落とし穴があります。
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書式不備による無効
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表現が曖昧で解釈が分かれる
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紛失や改ざんのリスク
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相続開始後に家庭裁判所の「検認」が必要
特に経営者の場合、自社株や事業用資産の記載が曖昧だと、相続人同士の争いが即、経営トラブルに直結します。
法務局で保管する制度も始まっていますが、
「内容が適切か」「経営的に妥当か」まではチェックされません。
自筆証書遺言は、“書ける”ことと“使える”ことが別物である点に注意が必要です。
第4章|公正証書遺言|経営者に最も選ばれている理由
公正証書遺言は、公証役場で公証人が作成する遺言です。
費用はかかりますが、実務の現場では経営者の多くがこの方式を選択しています。その理由は明確です。
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法律の専門家が関与するため、無効リスクが極めて低い
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原本が公証役場に保管され、紛失・改ざんの心配がない
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家庭裁判所の検認が不要で、相続手続きが早い
さらに、事業承継との相性が非常に良い点も重要です。
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誰に株式を集中させるか
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後継者以外の相続人への配慮
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役員退職金や生命保険との組み合わせ
これらを“設計”したうえで遺言に落とし込めるのが、公正証書遺言の強みです。
経営者にとって、遺言は「安く済ませる書類」ではありません。
確実に機能させるための経営コストと考えるべきでしょう。
第5章|秘密証書遺言|知名度は低いが注意すべき方式
秘密証書遺言は、内容を秘密にしたまま存在だけを公証人に証明してもらう方式です。
一見すると便利そうですが、実務ではほとんど使われていません。
理由は単純です。
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内容の有効性はチェックされない
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結局、検認が必要
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自筆証書と同様の無効リスクが残る
経営者がこの方式を選ぶメリットは、ほぼありません。
「存在は公的、内容は自己責任」という中途半端さが、かえってリスクになります。
第6章|経営者は「どの遺言を選ぶべきか」判断基準
結論から言えば、事業を持つ経営者は、公正証書遺言が基本です。
特に次のような場合は、ほぼ必須と言えます。
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自社株を保有している
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相続人が複数いる
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後継者を明確に決めている
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金融機関との借入がある
遺言は単体で考えるものではありません。
定款、株主構成、生命保険、役員退職金などとセットで設計して初めて意味を持ちます。
第7章|遺言を書くだけでは足りない|専門家が関与すべき理由
「遺言は書いたから大丈夫」
そう思っている経営者ほど、危険な状態にあります。
遺言は、法務・税務・労務・経営の交差点にある書類です。
どれか一つでも視点が欠けると、後で必ず歪みが出ます。
専門家が関与する意味は、単なる書類作成ではありません。
“揉めない仕組み”を設計することにあります。
第8章|まとめ|遺言は“最後の仕事”ではなく“経営判断”
遺言は、死後のためのものではありません。
会社と家族を守るための、現役経営者の意思表示です。
元気なうちにしかできない仕事であり、
先送りにすればするほど、選択肢は狭まります。
「まだ早い」と思った今が、実は最も適したタイミングかもしれません。
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