遺言があることは相続人に伝えるべき?伝えないべき? 判断のポイントを解説
杉山 晃浩
第1章|「遺言は家族に話すべきか?」と悩むのは自然なこと
遺言を作成したあと、多くの方が次に悩むのが、
「この遺言のことを、家族に伝えたほうがいいのだろうか?」
という問題です。
伝えれば安心するかもしれない。
しかし、伝えたことでかえって不満や対立が生まれるかもしれない。
特に経営者の場合、
相続は「家族の問題」であると同時に、
会社の将来を左右する経営判断でもあります。
このテーマに、万人共通の正解はありません。
大切なのは、
伝える・伝えないを感覚で決めないことです。
第2章|遺言の存在を「伝えたほうがよい」と考えられるケース
遺言の存在を事前に伝えたほうがよいケースも、確かに存在します。
たとえば、
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相続人同士の関係が比較的良好
-
事業承継の方向性について、すでに一定の理解がある
-
相続後の混乱を極力避けたい
こうした場合、「遺言がある」という事実を伝えることで、
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相続後の不安を和らげる
-
余計な憶測を生まない
-
手続きをスムーズに進めやすくする
といった効果が期待できます。
ただし重要なのは、
「遺言の内容」まで詳しく話す必要はないという点です。
伝えるのは、あくまで
「遺言をきちんと準備している」という事実だけで十分な場合も多いのです。
第3章|遺言の存在を「伝えないほうがよい」ケースもある
一方で、遺言の存在をあえて伝えないほうがよいケースも、現実には少なくありません。
-
家族間に微妙な力関係や感情的対立がある
-
介護や金銭面で不満がくすぶっている
-
内容を知ることで、事前に揉める可能性が高い
このような場合、
遺言を伝えたことで、
生前から家族関係が悪化するリスクがあります。
ここで強調したいのは、
「伝えない=悪いこと」ではないという点です。
遺言の目的は、
自分の死後に家族や会社が困らないようにすること。
生前の平穏を守るために、あえて話さない判断も、十分に合理的です。
第4章|「伝えなかった」ことで起きやすい相続トラブル
ただし、「何も考えずに伝えない」ことにはリスクがあります。
実務で多いのは、
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遺言の存在に気づかれず、発見が遅れる
-
相続人が「遺言があるとは聞いていない」と疑念を持つ
-
手続きが止まり、相続が長期化する
特に経営者の相続では、
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会社の代表変更が進まない
-
自社株の名義が宙に浮く
-
社員や取引先が不安になる
といった影響が出ることもあります。
問題なのは、
伝えなかったことそのものではなく、
遺言が確実に実行される仕組みがなかったことです。
第5章|実は多い「伝え方を間違えた」ケース
相続トラブルの中には、
「伝えたこと」よりも
**「伝え方を誤ったこと」**が原因のものも多くあります。
たとえば、
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内容を細かく説明しすぎて、不満を刺激した
-
一部の相続人にだけ話してしまった
-
書面があるのに、口約束と誤解された
遺言は、
説明すればするほど誤解が生まれることもあります。
「正しく伝える」ことは、
実は「黙っておく」より難しい場合もあるのです。
第6章|二択ではない第三の選択肢
― 専門家を介在させるという考え方 ―
ここまで読むと、
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伝えるのも不安
-
伝えないのも不安
と感じる方も多いでしょう。
そこで現実的な選択肢となるのが、
専門家を介在させる方法です。
具体的には、
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遺言を専門家に預ける
-
遺言執行者として専門家を指定する
という設計です。
この方法であれば、
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生前に家族へ詳細を伝える必要はない
-
相続発生後、確実に遺言が開示・実行される
-
家族同士が直接対立しなくて済む
というメリットがあります。
第7章|専門家が関与していると、相続後はどう変わるか
専門家が関与している相続では、流れが大きく変わります。
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遺言の存在が速やかに確認される
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検認や手続きで迷わない
-
相続人は「判断」ではなく「確認」に集中できる
結果として、
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感情的な衝突が起きにくい
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相続が長期化しにくい
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経営判断が止まらない
「伝えなかったこと」そのものが問題になることは、ほとんどありません。
第8章|まとめ|大切なのは「伝えるかどうか」ではなく「どう備えるか」
遺言の存在を
-
伝えるべきか
-
伝えないべきか
この問いに、絶対的な正解はありません。
判断の軸は、
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家族関係
-
財産の内容
-
事業の有無
そして何より、
遺言が確実に実行される状態を作れているかです。
専門家を介在させることは、
決して他人任せではありません。
むしろ、
家族を守り、会社を守るための、
極めて経営者らしい判断と言えるでしょう。