就業規則を変えるだけで 税金・社会保険料・人件費はここまで変わる
杉山 晃浩
「人件費が上がって大変です」
「社会保険料の負担が重い」
「社員の手取りを増やしたいけど、給料を大幅に上げる余裕はない」
中小企業の経営者と話していると、こうした悩みを聞く機会が年々増えています。
特に最近は、最低賃金の上昇、人材不足、物価高騰などが重なり、「給与を上げるだけ」の経営が難しくなってきました。
しかし実は、会社経営には「給料を上げる」以外にも、社員満足や手取り改善につながる方法があります。
それが、就業規則や各種規程を活用した“制度設計”です。
もちろん、何でも自由にできるわけではありません。
税法や社会保険制度には細かなルールがあります。
ですが、法令で認められている制度を正しく活用することで、
- 不要な人件費の発生を防ぐ
- 税金や社会保険料の負担を見直す
- 社員の福利厚生を強化する
こうしたことが可能になるケースがあります。
今回は、実際に中小企業で活用されることが多い代表的な制度について、概要レベルで分かりやすく整理していきます。
就業規則は「会社を守る書類」だけではない
就業規則というと、
- 労基署対策
- 問題社員対応
- ハラスメント防止
- 懲戒処分
このような「守り」のイメージを持つ経営者が多いと思います。
もちろん、それも非常に重要です。
しかし実際には、就業規則や関連規程は「お金の設計図」としての役割も持っています。
例えば、
- どのような手当を支給するのか
- 福利厚生をどう設計するのか
- どんな制度を導入するのか
これらは、就業規則や社内規程と深く関係しています。
逆に言えば、規程がなければ制度が使えないことも少なくありません。
助成金でも、福利厚生でも、制度設計でも、最終的には「規程と運用」が重要になるのです。
変形労働時間制の適正運用で“ムダな残業代”を防ぐ
中小企業で特に多いのが、「忙しい時期」と「暇な時期」に差がある業種です。
例えば、
- 小売業
- 介護事業
- 運送業
- 飲食業
- 建設業
などは、繁忙期と閑散期がはっきりしていることがあります。
こうした会社で活用されるのが「変形労働時間制」です。
適正に運用された変形労働時間制は、業務実態に合わせて労働時間を設計できるため、不要な時間外労働コストの発生を抑えることにつながります。
ただし注意点があります。
実際の現場では、
- 就業規則には書いてある
- しかし現場運用が違う
- シフトが制度と合っていない
というケースが非常に多いのです。
この状態になると、労基署調査などで「制度が無効」と判断され、未払い残業代問題につながることもあります。
制度を導入するだけでは意味がありません。
「規程」と「実態」を一致させることが重要です。
食事手当は“給与以外”の福利厚生設計の入口
最近、「社員の手取りを増やしたい」という相談が増えています。
しかし、単純に給与を増やすと、
- 税金
- 社会保険料
も増えてしまいます。
そこで注目されるのが、福利厚生の考え方です。
その代表例の一つが「食事補助」です。
一定の要件を満たした食事補助は、税務上・社会保険上の取扱いに配慮しながら福利厚生として活用できる場合があります。
もちろん、何でも自由に非課税になるわけではありません。
- 会社負担割合
- 提供方法
- 金額設定
などには一定のルールがあります。
ただ、給与一本で考えるのではなく、「福利厚生」という視点を持つだけでも、会社の制度設計は大きく変わります。
出張旅費規程は「交通費精算」だけではない
出張旅費規程というと、「交通費精算ルール」と考えている会社も多いと思います。
しかし実際には、それだけではありません。
適正な出張旅費規程に基づく日当は、一定の範囲内で非課税として取り扱われるケースがあります。
つまり、ルールを整備することで、給与とは異なる考え方のお金を設計できる可能性があるのです。
ただしここでも重要なのは、「適正な運用」です。
例えば、
- 社長だけ極端に高額
- 実態のない出張
- ルールが曖昧
このような状態では問題になります。
就業規則や旅費規程は、「作れば終わり」ではありません。
“実際に説明できる運用”ができているかが重要なのです。
借上げ社宅制度で考えたい「住まい」と給与の関係
社員や役員に住宅手当を支給している会社も多いと思います。
しかし住宅手当は、通常の給与として扱われるケースが多く、
- 税金
- 社会保険料
の対象となることがあります。
そこで検討されることがあるのが「借上げ社宅制度」です。
一定ルールのもとで導入することで、住宅関連費用の考え方を見直せる可能性があります。
特に中小企業では、「小規模社宅」の考え方が話題になることもあります。
もちろん、ここでも細かなルールがあります。
今回の記事では核心部分までは触れませんが、大切なのは、
「住居費=給与で払うしかない」
と思い込まないことです。
制度設計によって、考え方が変わる場合があります。
なぜ今、選択制企業型DCが注目されるのか
最近、非常に注目されているのが「選択制企業型DC(企業型確定拠出年金)」です。
これは単なる投資制度ではありません。
- 福利厚生
- 老後資産形成
- 採用定着
- 社会保険料設計
など、多くの要素と関係しています。
選択制企業型DCは、税制優遇や社会保険料への影響を踏まえながら、社員の資産形成を支援できる制度です。
特に、
- 若手採用
- 福利厚生強化
- 手取り感覚
- 将来不安対策
などとの相性が良く、「選ばれる会社づくり」の一環として導入を検討する企業も増えています。
また、経営者自身の将来設計にも関係するため、関心を持つ社長が非常に増えています。
ただし、ここでも重要なのは「制度設計」です。
企業型DCは、導入すれば終わりではありません。
- 就業規則
- 説明体制
- 運用ルール
などを整備しながら、会社に合った形で導入する必要があります。
「節税」ではなく「制度設計」の時代へ
ここまで見ていただくと分かるように、最近の経営は「節税商品を入れる時代」ではなくなっています。
大切なのは、
- 法令を守る
- 実態に合わせる
- 社員にもメリットがある
- 長く運用できる
という“制度設計”です。
そして、その土台になるのが、
- 就業規則
- 各種社内規程
- 実際の運用
なのです。
まとめ|就業規則は“経営のお金の設計図”
就業規則は、単なる労基署対策の書類ではありません。
実際には、
- 人件費
- 福利厚生
- 税金
- 社会保険料
- 助成金
- 採用定着
など、会社経営のお金と深く関係しています。
もちろん、制度には細かな条件があります。
インターネットで見た情報だけを真似すると、逆にリスクになることもあります。
だからこそ重要なのは、
「正しく制度を理解し、自社に合う形で設計すること」
です。
もし、
- 就業規則を長年見直していない
- 福利厚生を強化したい
- 社員の手取りや将来設計を考えたい
- 人件費設計を見直したい
そう感じている場合は、一度、就業規則や制度設計を整理してみるタイミングかもしれません。