夏の「においハラスメント」を防ぐには?中小企業が始めたい職場の汗・香り対策
杉山 晃浩
夏になると、職場で増えてくる悩みがあります。
暑さによる汗や体臭、香水、整髪料、制汗剤、柔軟剤、衣類用消臭剤などの「におい」に関する問題です。
「隣の席の人のにおいが気になって仕事に集中できない」
「お客様から、担当者の汗のにおいについて指摘を受けた」
「柔軟剤の香りが強く、頭が痛くなるという社員がいる」
このような相談は、決して珍しいものではありません。
しかし、経営者や人事担当者にとって難しいのは、どう伝えればよいのか分からないことです。
本人に直接伝えれば傷つけてしまうかもしれません。反対に、何も言わずに放置すれば、周囲の社員の不満が大きくなります。
場合によっては、陰口や仲間外れに発展することもあります。
そこで今回は、夏の職場で起きやすい「においハラスメント」、いわゆるスメルハラスメントへの対策について、会社が注意すべき点を分かりやすくお伝えします。
においは、本人より周囲が先に気づく
においの問題が難しい最大の理由は、自分自身のにおいには気づきにくいことです。
人の鼻は、同じにおいを嗅ぎ続けていると、そのにおいに慣れてしまいます。
本人には悪気がなく、きちんと身だしなみを整えているつもりでも、周囲には強く感じられることがあります。
特に夏場は、通勤しただけでも汗をかきます。
屋外作業、営業活動、工場内での作業、厨房、介護や医療など身体を動かす仕事では、どれだけ清潔にしていても汗を完全に防ぐことはできません。
「汗のにおいがするから不潔な人だ」
このように決めつけるのは適切ではありません。
一方で、汗のにおいを隠そうとして、香水、制汗剤、柔軟剤などを多く使うと、今度は別の強い香りが職場に広がることがあります。
つまり、夏のにおい対策は、汗や体臭だけを取り上げればよいわけではないのです。
無臭に近づけようとして使った製品が、かえって周囲の負担になることもあります。
「良い香り」なら問題ないとは限らない
香りの感じ方には、大きな個人差があります。
自分にとっては心地よい香りでも、別の人には強く感じられることがあります。
消費者庁にも、柔軟仕上げ剤や洗剤、衣類用消臭剤、香水などの香りによって、頭痛や吐き気といった体調不良を訴える相談が寄せられています。
消費者庁、厚生労働省、文部科学省などの関係省庁も、香り付き製品を使用するときは、使用量の目安を守り、周囲の人に配慮するよう呼びかけています。
参考:消費者庁「知ってください!その香り困っている人もいます」
ここで大切なのは、香り付き製品そのものを悪者にしないことです。
柔軟剤や香水を使ってはいけない、という話ではありません。
職場は、さまざまな体質や感じ方を持つ人が、同じ空間で長時間働く場所です。だからこそ、家庭で使う場合よりも少し控えめにする配慮が必要なのです。
「自分が好きな香りだから問題ない」
「今まで誰からも注意されなかった」
これだけでは、職場での使用量が適切だとは言い切れません。
「においハラスメント」という法律があるわけではない
ここは、誤解しないように整理しておきましょう。
現在、「においハラスメント」や「スメルハラスメント」という名前の独立した法律上のハラスメント類型が定められているわけではありません。
汗や香水のにおいがしたからといって、直ちに法律上のハラスメントになるわけでもありません。
ただし、においをめぐる会社の対応や、本人への伝え方によっては、別の問題に発展する可能性があります。
例えば、本人を大勢の前に呼び出し、
「臭いから何とかしろ」
「みんなが迷惑している」
などと強い言葉で責めれば、本人の人格を傷つけることになります。
上司が立場を利用し、必要な範囲を超えて繰り返し侮辱すれば、パワーハラスメントに該当する可能性も出てきます。
反対に、周囲から何度も相談があるのに、会社が「そんなことは本人同士で話して」と放置すれば、職場の人間関係や就業環境が悪化します。
においそのものよりも、会社が問題を放置することや、乱暴な方法で本人に伝えることのほうが、大きなトラブルを生みやすいのです。
いきなり個人を注意してはいけない
においの相談を受けたとき、最初から特定の社員を呼び出して注意するのはお勧めできません。
まずは、次の点を確認します。
- いつ、どこで、どのようなにおいが気になったのか
- 一時的なものか、繰り返し発生しているのか
- 汗や体臭なのか、香水や柔軟剤などの香りなのか
- 一人だけが感じているのか、複数の人が困っているのか
- 気になるという程度か、仕事や体調に影響が出ているのか
相談者の主観だけで「原因はあの人だ」と決めつけないことが大切です。
空調や換気、湿度、制服の素材、更衣室や休憩室の環境など、会社側に改善できる原因が隠れていることもあります。
例えば、エアコンの設定温度を下げる、扇風機やサーキュレーターを設置する、定期的に換気する、汗を拭いたり着替えたりできる場所を確保するだけで改善する場合があります。
屋外で働く社員には、替えの制服や作業着を準備する方法もあります。
個人を責める前に、会社が整えられる職場環境から見直す。
これが基本的な順番です。
最初は「全員への啓発」から始める
特定の人だけに注意すると、本人は「自分だけが悪者にされた」と感じやすくなります。
そこで、最初に行いたいのが、全社員に向けた夏のにおい対策の啓発です。
例えば、次のような内容を社内で共有します。
- 汗をかいたらタオルや汗拭きシートを使う
- 必要に応じて着替えを準備する
- 制服や作業着を清潔に保つ
- 香水や整髪料は控えめにする
- 柔軟剤や消臭剤は使用量の目安を守る
- 定期的に換気する
- においで困ったときは、本人に直接言わず上司や担当者に相談する
ポイントは、「体臭の強い人に注意するためのルール」にしないことです。
汗、香水、柔軟剤、整髪料、消臭剤などを含め、全員が自分の使い方を見直す内容にします。
この方法なら、特定の社員を名指しせずに、職場全体の基準を示すことができます。
社内チャットや朝礼で一度伝えるだけでは、すぐに忘れられてしまいます。
休憩室、更衣室、洗面所、給湯室など、社員が日常的に目にする場所へ啓発ポスターを掲示すると、注意事項を自然に思い出してもらえます。
個別に伝えるときは「事実・影響・お願い」の順番で
全体への啓発や職場環境の改善を行っても状況が変わらない場合は、個別に伝えることも必要です。
ただし、伝える場所と伝え方には十分な配慮が求められます。
人前では絶対に話さず、個室など第三者に聞かれない場所で行います。
伝えるときは、人格ではなく、確認できた事実と職場への影響に焦点を当てます。
例えば、次のような伝え方です。
「少しお伝えしにくい話なのですが、夏場になってから、お客様対応の後などに汗のにおいが気になるという声がありました。誰にでも起こり得ることなので、あなたを責めたいわけではありません。会社でも着替えや休憩方法を考えますので、一緒に対策を相談させてもらえませんか」
香水や柔軟剤の場合も同じです。
「香水を使うな」と命令するのではなく、職場では使用量を少し控えてほしいことを、理由とともに伝えます。
本人がショックを受けたり、強く否定したりする可能性もあります。
その場で結論を迫らず、本人の話も聞いてください。
病気、治療、服薬、体質などが影響している場合もあります。必要以上に事情を聞き出したり、本人の承諾なく周囲へ話したりしてはいけません。
厚生労働省のハラスメント対策でも、相談者や関係者のプライバシーを守ることが求められています。
「我慢するか、本人に直接言うか」の二択にしない
においに困っている社員も、本人へ直接言うことには抵抗があります。
そのため、我慢を続け、限界を迎えたところで強い言葉をぶつけてしまうことがあります。
これを防ぐためには、相談先を決めておく必要があります。
小さな会社であれば、社長、直属の上司、総務担当者などでも構いません。
ただし、「誰に相談すればよいのか」「相談内容はどのように扱われるのか」を社員に周知しておきましょう。
相談を受けた管理職は、
「気にし過ぎではないか」
「本人に直接言えばいい」
と簡単に片づけてはいけません。
先入観を持たずに話を聞き、相談者と対象者双方のプライバシーを守りながら、職場環境、仕事への影響、本人への配慮を整理します。
厚生労働省の「あかるい職場応援団」でも、相談を受ける際には、公正中立な姿勢、秘密の厳守、相談者が希望する解決方法の確認などが重要とされています。
におい対策は、職場の思いやりを見える化する活動
においの問題は、とても個人的で、伝えにくい問題です。
だからこそ、経営者や人事担当者の対応力が問われます。
厳しく注意すれば解決するわけでも、誰かが我慢すればよいわけでもありません。
会社として大切なのは、
「誰にでも起こり得る問題として扱う」
「まず職場環境を整える」
「全員に同じ基準を伝える」
「個別に伝えるときは尊厳を守る」
「安心して相談できる窓口をつくる」
という順番です。
夏のにおい対策は、単なる身だしなみ指導ではありません。
社員がお互いを責めず、安心して働くための職場づくりです。
ルールを細かく作る前に、まずはポスターを1枚掲示し、全員がこの問題を知るところから始めてみてはいかがでしょうか。
無料プレゼント「夏のにおい対策啓発ポスター」
今回、職場ですぐに使えるA4サイズの「夏のにおい対策啓発ポスター」を作成しました。
汗や体臭だけでなく、香水、柔軟剤、整髪料、消臭剤などについても、社員を責めない言葉でまとめています。
休憩室、更衣室、洗面所などに掲示し、夏の職場環境づくりにお役立てください。
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においは目に見えません。
しかし、会社の配慮は、ポスターや相談体制という形で見えるようにできます。
今年の夏は、「誰が臭うのか」を探すのではなく、「どうすれば全員が気持ちよく働けるのか」を、職場のみんなで考えてみましょう。