採用コストを無駄にしないために、中小企業が学ぶべき面接の基本
杉山 晃浩
求人広告を出した。
応募も何件かあった。
忙しいなか、社長や現場責任者が時間を空けて面接した。
ようやく内定を出したのに辞退された。あるいは、入社しても数か月で辞めてしまった。
その結果、会社は再び求人広告を出す――。
この繰り返しに、心当たりはありませんか。
人が採れないと、つい求人媒体や給与条件に原因を求めたくなります。しかし、応募があった後の対応、特に面接の進め方に問題がある会社も少なくありません。
採用コストを無駄にしないためには、広告費を削ることだけを考えるのではなく、面接について正しく学ぶ必要があります。
面接は、履歴書を見ながら思いついた質問をする場所ではありません。
求職者を見極めると同時に、会社を正しく理解してもらい、「この会社で働きたい」と思ってもらう重要な採用活動です。
「求人広告費」だけが採用コストではない
採用コストと聞くと、多くの経営者は次の費用を思い浮かべます。
- 求人媒体の掲載料
- 人材紹介会社へ支払う手数料
- 採用ページの制作費
- 合同企業説明会への出展料
- 適性検査の利用料
もちろん、これらは採用コストです。
しかし、本当の採用コストは、それだけではありません。
求人原稿を作る時間、応募者へ連絡する時間、履歴書を確認する時間、面接の日程を調整する時間、社長や管理職が面接に参加する時間も、会社が負担しているコストです。
さらに、採用後には次の費用もかかります。
- 雇用契約や社会保険などの入社手続
- 制服、パソコン、名刺などの準備
- 新入社員研修の費用
- 先輩社員が仕事を教える時間
- 新人が仕事を覚えるまでのフォロー
- 欠員を補うための残業代や外注費
経営者や社員の時間は、請求書が届かないため見落とされがちです。
しかし、勤務時間を使っている以上、無料ではありません。
1人を採用する費用と、1人を定着させる費用は違う
採用コストを考えるとき、特に注意したいのが「採用人数」と「定着人数」の違いです。
たとえば、1年間の採用活動に132万円かかり、3人が入社したとします。
この場合、1人を採用する費用は44万円です。
ところが、3人のうち1人が半年以内に退職し、2人しか残らなければ、半年後も在籍している人1人当たりの費用は66万円になります。
計算は単純です。
132万円 ÷ 3人=採用1人当たり44万円
132万円 ÷ 2人=定着1人当たり66万円
さらに、退職者の再募集や教育のやり直し、欠員対応まで考えれば、実際の負担はもっと大きくなります。
採用できた瞬間だけを見て「採用成功」と判断してはいけません。
会社に合う人が入社し、一定期間活躍して初めて、採用活動は成果につながります。
応募が来ない会社と、面接で逃している会社は違う
採用がうまくいかないと、「応募が来ない」という言葉ですべてをまとめてしまう会社があります。
しかし、採用活動は次のような段階に分かれています。
求人を見てもらう
↓
応募してもらう
↓
面接へ来てもらう
↓
内定を出す
↓
内定を承諾してもらう
↓
入社してもらう
↓
定着してもらう
どこで人が減っているかによって、必要な対策は変わります。
応募自体が少ないのであれば、求人票、給与、仕事内容、写真、採用ページ、求人媒体などを見直す必要があります。
応募はあるのに面接前の辞退が多いのであれば、連絡の遅さや日程調整の方法、応募後の案内に問題があるかもしれません。
面接はできているのに内定を出せないのであれば、募集条件と応募者層がずれているか、採用基準が厳しすぎる可能性があります。
内定を出しても辞退されるのであれば、面接で会社の魅力を伝えられていないのかもしれません。
入社後すぐ辞めるのであれば、仕事の現実を正しく伝えず、入社前と入社後にズレが生じている可能性があります。
求人広告費を増やす前に、まず「どこで人が減っているのか」を確認しなければなりません。
求職者も会社を選んでいる
厚生労働省によると、2026年4月の有効求人倍率は1.18倍、新規求人倍率は2.11倍でした。有効求人倍率が1倍を超えるということは、ハローワークに登録された求職者数より求人数の方が多い状態です。厚生労働省「一般職業紹介状況(令和8年4月分)」
業種、職種、地域によって状況は異なりますが、「会社が応募者を選ぶだけの時代」ではないことは明らかです。
応募者も面接を通じて、会社を見ています。
- 面接官の態度は横柄ではないか
- 質問にきちんと答えてくれるか
- 求人票と説明内容が一致しているか
- 社員の表情や職場の雰囲気はどうか
- 自分を一人の人間として扱ってくれるか
- ここで働く姿を想像できるか
- 家族へ安心して説明できる会社か
面接官は、応募者にとって「会社の顔」です。
面接官の印象が悪ければ、その人は社長や他の社員と会う前に辞退してしまうかもしれません。
せっかく求人広告費を使って応募してもらったのに、面接で会社の印象を下げてしまえば、それまでの採用コストが無駄になります。
面接の基本①――採用する人物像を決める
面接を行う前に、まず「どのような人を採用したいのか」を決めなければなりません。
ところが実際には、採用する人物像が曖昧な会社も多くあります。
「明るい人がいい」
「やる気のある人がいい」
「素直な人がいい」
これだけでは、採用基準として不十分です。
明るさや、やる気、素直さの感じ方は、面接官によって違うからです。
たとえば、「素直な人」を求めるのであれば、どのような行動を素直と評価するのかを具体的にします。
- 分からないことを質問できる
- 注意を受けたとき、まず話を聞ける
- 失敗を隠さず報告できる
- 教わった方法を一度実践してみる
このように、人物像を行動まで具体化すると、面接で確認すべき質問が見えてきます。
採用基準がなければ、面接官は自分と話が合う人や、第一印象が良い人を選びがちです。
それでは、採用が面接官の好みで決まってしまいます。
面接の基本②――質問内容を準備する
面接で何を質問するか、その場で考えていませんか。
思いつきの質問では、応募者ごとに確認する内容が変わります。比較も難しくなり、確認漏れも起きます。
最低限、次の項目は事前に準備しておきましょう。
- 応募した理由
- 転職や退職を考えた理由
- 前職で担当していた仕事
- 仕事で工夫した経験
- 失敗や注意を受けたときの対応
- 周囲と協力して取り組んだ経験
- 苦手な仕事や避けたい働き方
- 今後身につけたい能力
- 会社や仕事内容への質問
また、応募者の回答が抽象的なときは、「具体的にはどういうことですか」「ほかにもありますか」と質問を続けます。
ただし、質問を浴びせるだけでは本音を引き出せません。
面接官が一方的に取り調べをするような雰囲気になれば、応募者は「正解だと思う回答」を並べるようになります。
本音を聞きたいのであれば、本音を話せる関係をつくることが先です。
面接の基本③――面接官から自己開示する
多くの面接では、最初から応募者へ質問を始めます。
しかし、応募者は緊張しています。
初めて訪れた会社で、初対面の人から職歴、退職理由、長所、短所、将来の希望まで聞かれるのです。考えてみれば、かなり特殊な状況です。
そこで、応募者へ自己紹介を求める前に、面接官自身が自己開示します。
- 自分の名前と役職
- どのような仕事を担当しているか
- いつ、どのような理由で入社したか
- 仕事のやりがい
- 会社の好きなところ
- 会社がまだ改善できていないところ
- 今後どのような会社にしたいか
肩書と名前を伝えるだけの自己紹介ではありません。
面接官自身の経験や考えを、人間らしく伝えるのです。
面接官が先に自分を開けば、応募者も「ここまで話してよいのだ」と感じやすくなります。
面接で本音を引き出したいなら、まず面接官が本音を見せる必要があります。
面接の基本④――会社の魅力を相手に合わせて伝える
会社説明では、企業理念、沿革、事業内容、従業員数を順番に読み上げるだけになりがちです。
しかし、応募者が知りたいのは、会社案内の内容だけではありません。
- 具体的にどのような仕事をするのか
- 1日の流れはどうなっているのか
- 入社後、誰が仕事を教えるのか
- どのくらいで仕事を覚えられるのか
- どのような社員が活躍しているのか
- 評価や昇給はどのように決まるのか
- 会社は今後どこを目指しているのか
- 自分はどのような成長ができるのか
同じ説明を、すべての応募者に繰り返せばよいわけでもありません。
応募者が転職で何を実現したいのかを聞き、その希望と自社の特徴がどのようにつながるかを説明する必要があります。
採用面接は、会社が応募者へ一方的に質問する場ではありません。
会社側も、応募者から選んでもらうための説明をする場です。
面接の基本⑤――良いことだけを話さない
応募者に入社してほしいあまり、会社の良い面ばかりを強調していないでしょうか。
「人間関係の良い職場です」
「未経験でも大丈夫です」
「残業はほとんどありません」
「すぐに活躍できます」
耳当たりの良い説明だけで入社してもらっても、入社後に現実との違いが分かれば、早期離職につながります。
仕事には、楽しいことだけでなく、大変なこともあります。
- 繁忙期には残業が発生する
- 覚えるまでに時間のかかる仕事がある
- お客さまから厳しい指摘を受けることがある
- 屋外や暑い場所で働く場合がある
- 社内の仕組みがまだ十分に整っていない
- 一人前になるまで地道な練習が必要になる
こうした現実も、入社前に正直に伝える必要があります。
大変なことを伝えると、辞退されるのではないかと心配する経営者もいるでしょう。
しかし、説明を聞いて辞退する人は、入社しても長く続かなかった可能性があります。
入社前の辞退は残念ですが、入社後すぐに辞められるより、会社と応募者の双方にとって損失は小さくなります。
面接の基本⑥――評価基準をそろえる
複数の面接官がいる会社では、評価基準の統一が重要です。
社長は「元気があって良かった」と評価する。
現場責任者は「少し話しすぎる」と評価する。
採用担当者は「経験が足りない」と判断する。
それぞれが違う基準で評価すれば、採用会議は印象や好き嫌いの話になります。
これを防ぐため、評価項目を決めておきます。
- 仕事に必要な経験や知識
- 話を理解する力
- 相手へ分かりやすく伝える力
- 周囲と協力した経験
- 仕事に対する考え方
- 自社の理念や方針との相性
- 勤務条件の一致
- 入社後に教育できる範囲か
大切なのは、評価項目を増やしすぎないことです。
項目が多すぎると、面接官は評価表を埋めることに集中し、応募者の話を聞けなくなります。
自社にとって本当に重要な項目へ絞り、何をもって良い評価とするのかを面接官同士で確認しましょう。
面接の基本⑦――面接後に振り返る
面接が終わったら、そのまま結果だけを連絡して終わりにしてはいけません。
面接官同士で、次の点を振り返ります。
- 応募者のどこを評価したか
- どこに不安を感じたか
- その評価の根拠は何か
- 確認できなかったことはないか
- 会社の魅力を十分に伝えられたか
- 応募者が不安そうにした場面はなかったか
- 次回の面接で改善すべきことは何か
内定を辞退された場合も、「条件が合わなかったのだろう」で終わらせず、可能な範囲で理由を確認します。
連絡が遅かったのか。
仕事内容が分かりにくかったのか。
他社と比べて魅力が伝わらなかったのか。
面接官の態度に問題があったのか。
原因が分からなければ、次の採用でも同じ失敗を繰り返します。
面接研修は、採用コストを増やす支出ではない
「面接研修にお金をかけると、採用コストが増えるのではないか」
そう考える経営者もいるでしょう。
しかし、面接の質が上がることで、
- 面接前の辞退が減る
- 応募者の本音を聞きやすくなる
- 自社に合う人を見極めやすくなる
- 会社の魅力が伝わる
- 内定辞退が減る
- 入社後のズレが減る
- 早期離職を防ぎやすくなる
という効果が期待できます。
面接研修は、採用コストを増やすための支出ではありません。
すでに支払っている求人広告費や、経営者・社員が使った時間を無駄にしないための投資です。
2025年版中小企業白書でも、人材不足の状況では、採用した人材の定着率を高める取組が重要だと指摘されています。中小企業庁「2025年版中小企業白書・人材戦略」
また、厚生労働省が公表した令和4年3月卒業者の就職後3年以内離職率は、高卒37.9%、大卒33.8%でした。厚生労働省「新規学卒就職者の離職状況」
すべての離職を面接だけで防ぐことはできません。
しかし、入社前に会社と応募者のズレを減らすことはできます。
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- 早期離職で消えた採用費
- 応募から面接へ進んだ割合
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求人広告を追加する前に、まず現在の採用活動にいくらかかり、どこで応募者が減っているのかをご確認ください。
採用コストを守るのは、面接の基本です
採用コストを下げるというと、安い求人媒体を探すことばかり考えがちです。
しかし、安い媒体を使っても、応募後の連絡が遅い、面接官の印象が悪い、会社の魅力を伝えられない、評価基準がない、入社後すぐに辞められるという状態では、採用コストは下がりません。
むしろ、何度も求人を出すことになり、費用は膨らみます。
採用には、運やご縁もあります。
ただし、すべてを運やご縁のせいにしてしまえば、会社に改善できることがなくなります。
- 採用する人物像を決める
- 質問を準備する
- 面接官から自己開示する
- 会社の魅力を伝える
- 仕事の大変な面も正直に説明する
- 評価基準をそろえる
- 面接後に振り返る
これは、大企業だけができる特別な採用ノウハウではありません。
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