明日から9月「職場の健康診断実施強化月間」――健康診断は受けさせて終わりではありません
杉山 晃浩
明日から9月です。
厚生労働省は、毎年9月を「職場の健康診断実施強化月間」と位置付けています。
これは、10月1日から7日まで実施される「全国労働衛生週間」の準備月間に合わせ、職場の健康診断や、その後の対応が適切に行われているかを集中的に確認する取組です。
2026年度も厚生労働省は、一般健康診断の実施、医師からの意見聴取、必要な事後措置、健診結果の保存、労働基準監督署への報告などを重点事項として掲げています。厚生労働省「職場の健康診断実施強化月間(9月)について」
経営者や人事担当者の皆さまに、最初に確認していただきたいことがあります。
「今年も健康診断を実施したから、うちは大丈夫」
そう思っていないでしょうか。
実は、会社の健康診断に関する義務は、従業員に健康診断を受けさせるだけでは終わりません。
結果を本人へ通知し、異常の所見がある人について医師の意見を聴き、必要に応じて働き方を見直し、記録を保存するところまでが一連の健康管理です。
9月は、この一連の流れに抜け漏れがないかを確認する月です。
健康診断は「予約して受けさせる」だけでは不十分
会社が実施する健康診断というと、健診機関へ予約し、従業員に日程を知らせ、受診してもらうことが中心になりがちです。
しかし、厚生労働省が今回示した重点事項の先頭には、次の内容が並んでいます。
- 一般健康診断の実施
- 医師からの意見聴取
- 事後措置の実施
- 健診結果の記録保存
- 労働基準監督署への報告
- 必要な労働者に対する保健指導
つまり、国が確認を求めているのは「受診率」だけではありません。
健康診断の結果を、従業員の健康確保と安全な就業につなげているかどうかです。
たとえば、健康診断の結果に「要再検査」や「要精密検査」と書かれていても、結果を本人へ渡しただけで終わっている会社があります。
「病院へ行くかどうかは本人の自由だから」
そう考えたくなる気持ちはわかります。
しかし、異常の所見がある従業員について、会社には医師等の意見を聴き、必要に応じて就業上の措置を検討する責任があります。
本人へ健診結果を渡したことと、会社が必要な事後措置を行ったことは別の話です。
8月31日に確認したい最初のことは「未受診者」です
明日から9月という今、最初に行っていただきたいのは、今年度の健康診断対象者と受診者の照合です。
従業員名簿と健康診断の受診者一覧を並べ、未受診者がいないか確認してください。
特に注意したいのは、次のような人です。
- 入社時期が他の従業員と異なる人
- パートや契約社員
- 休職中または長期欠勤中の人
- 育児休業や介護休業から復帰した人
- 他の事業場や現場で勤務している人
- 夜間勤務や交替勤務をしている人
- 外国人労働者
- 健診日に欠勤した人
- 自分で別の医療機関を受診すると申し出た人
会社が健診日を案内しただけで、受診したかどうかを確認していないケースもあります。
また、本人が人間ドックやかかりつけ医で検査を受けたとしても、会社が必要な結果を受け取っていなければ、事業者としての管理が完了したとは言い切れません。
まずは「対象者は誰か」「誰が受診したか」「未受診の理由は何か」を一覧にしてください。
未受診者がいた場合は、9月中に受診日を決めることが重要です。
「そのうち受けてください」という曖昧な案内では、また先送りされます。
健診結果は本人へ通知されていますか
健康診断の結果は、従業員本人へ通知する必要があります。
健診機関から本人へ直接結果が送付される場合もありますが、会社として通知状況を把握していなければなりません。
次のような状態になっていないでしょうか。
- 健診結果が会社の棚に置いたままになっている
- 担当者が忙しく、本人への配付が遅れている
- 退職予定者だからという理由で通知していない
- 結果を渡した記録が残っていない
- 本人へ渡したかどうか担当者しかわからない
健康診断結果には、病歴や検査数値など、非常に大切な個人情報が含まれます。
誰でも見られる場所に置いたり、社内の共有フォルダに無制限で保存したりすることは避けなければなりません。
結果の配付方法、保管場所、閲覧できる人を決めておく必要があります。
「健康のために集めた情報」が、ずさんな管理によって従業員とのトラブルの原因になっては本末転倒です。
最も見落とされやすいのが「医師の意見聴取」です
健康診断後の対応で、特に見落とされやすいのが医師等からの意見聴取です。
健康診断の結果、異常の所見があると診断された従業員については、会社は、その従業員の健康を守るために必要な措置について、医師または歯科医師の意見を聴かなければなりません。
定期健康診断等の場合、この意見聴取は、健康診断が行われた日から3か月以内に行う必要があります。岡山労働局「健診結果に対する事後措置の流れ」
ここで確認したいのは、健診結果に書かれている「要再検査」「要治療」などの判定だけではありません。
会社として確認すべきなのは、
「この従業員を、現在の仕事内容や労働時間で働かせ続けてもよいか」
という就業上の判断です。
医師から意見を聴いた場合には、その内容を健康診断個人票などへ記録しておく必要があります。
ところが、実際には次のような会社も少なくありません。
- 健診結果を本人へ渡して終わっている
- 有所見者が誰なのか一覧化していない
- 医師の意見欄が空欄のままになっている
- 産業医がいないので何もしていない
- 3か月を過ぎてから対応しようとしている
- 再検査の結果が出るまで会社は何もしなくてよいと思っている
産業医の選任義務がない小規模事業場であっても、健康診断後の措置が不要になるわけではありません。
産業医がいない会社では、地域産業保健センターなどの支援を利用できる場合があります。
「小さい会社だから仕方がない」ではなく、小さい会社でも実行できる方法を探す必要があります。
医師の意見を聴いた後は、実際の措置が必要です
医師から意見を聴いても、その意見書をファイルに入れただけでは十分ではありません。
医師の意見を踏まえ、必要があると判断した場合には、会社は就業上の措置を検討します。
たとえば、次のような対応です。
- 労働時間を短くする
- 残業を制限する
- 深夜勤務の回数を減らす
- 一時的に作業内容を変更する
- 身体的負担の少ない仕事へ変更する
- 就業場所を変更する
- 定期的な面談を行う
- 医療機関への受診を勧める
ただし、健康診断で異常が見つかったからといって、会社が一方的に配置転換や就業禁止を決めてよいわけではありません。
医師の意見を確認し、本人の話も聴き、必要性と働き方を慎重に検討することが大切です。
健康を守るための措置であっても、説明不足のまま行えば、本人は「病気を理由に不利益な扱いを受けた」と感じるかもしれません。
誰が面談を行い、どのような説明をし、何を決めたのか。記録を残しておきましょう。
「再検査へ行ってください」と一度伝えるだけで終わっていませんか
健診結果で再検査や精密検査が必要とされた場合、本人へ受診を勧めることも大切です。
しかし、
「病院へ行ってくださいね」
と口頭で一度伝えただけでは、その後どうなったのかわかりません。
受診勧奨を行う場合は、対象者、案内日、案内方法、再案内の有無などを記録しておくと管理しやすくなります。
もちろん、会社が病名や治療内容を必要以上に聞き出すことは適切ではありません。
会社が必要とするのは、本人の私生活を詳しく知ることではなく、安全に働いてもらうために必要な範囲の情報です。
健康情報を集めすぎないことも、適切な健康管理の一部です。
50人以上の事業場は労基署への報告も確認
常時50人以上の労働者を使用する事業場では、定期健康診断を実施した場合、定期健康診断結果報告書を所轄の労働基準監督署へ提出する必要があります。
ここで注意したいのは、会社全体の従業員数ではなく、原則として事業場単位で考えることです。
本社、支店、店舗、工場など、場所ごとの人数や独立性によって判断が必要になります。
次の点を確認してください。
- 報告が必要な事業場を把握しているか
- 最新の健康診断について報告済みか
- 電子申請または提出書類の控えが残っているか
- 報告を担当者任せにしていないか
「健診機関が提出してくれると思っていた」という誤解もあります。
実際に誰が作成し、誰が確認し、いつ提出するのかを会社内で決めておきましょう。
ストレスチェックや職場環境も今回の重点事項です
今回の強化月間では、一般健康診断だけでなく、次の事項も重点として掲げられています。
- ストレスチェック制度の適切な実施
- 健康保持増進措置の適切な実施
- 職場環境に起因する疾病の防止
- 治療と就業の両立支援
- 医療保険者と連携するコラボヘルス
- 外国人労働者への対応
- 派遣労働者の健康診断
会社の健康管理は、年1回の健康診断だけで完結するものではありません。
長時間労働、夜勤、腰痛、転倒、熱中症、メンタルヘルスなど、職場での働き方が従業員の健康へ影響することがあります。
健診結果に血圧や血糖、血中脂質などの所見が多い場合には、個人の生活習慣だけの問題と決めつけず、長時間労働や夜勤の状況も一緒に確認することが必要です。
治療を続けながら働く従業員がいる場合には、本人、主治医、会社が必要な情報を共有し、仕事と治療を両立できる方法を考えます。
病気になったら辞めてもらうのではなく、働き続けられる仕組みを作ることが、人材不足の時代には欠かせません。
9月中に確認したい5つの実務
今回の強化月間を、単なるポスター掲示で終わらせないために、9月中に次の5つを実行してください。
1.対象者と受診者を照合する
未受診者を洗い出し、受診日と担当者を決めます。
2.有所見者を一覧化する
結果通知、医師の意見聴取、本人面談、受診勧奨の状況を確認します。
3.3か月以内の期限を確認する
医師の意見聴取が必要な人について、健診日から3か月を過ぎていないか確認します。
4.記録と報告書をそろえる
健康診断個人票、本人への通知記録、医師の意見、事後措置の記録、労基署への報告控えを確認します。
5.未対応項目に期限を設定する
「そのうち対応する」ではなく、誰が、何を、いつまでに行うかを決めます。
ここまで実施すれば、健康診断を「年に一度の行事」から「従業員の健康を守る仕組み」へ変えることができます。
無料プレゼント「健康診断実施強化月間・緊急点検シート」
厚生労働省の重点事項をもとに、自社の健康診断管理を確認できるExcelシートを作成しました。
次の内容を含む28項目を、プルダウン形式で確認できます。
- 健康診断の対象者
- 雇入時・定期・特定業務従事者の健診
- 未受診者の管理
- 外国人・派遣労働者への対応
- 本人への結果通知
- 医師からの意見聴取
- 就業上の措置
- 再検査・精密検査の受診勧奨
- 健診個人票の保存
- 労働基準監督署への報告
- ストレスチェック
- コラボヘルス
- 治療と仕事の両立支援
回答すると、リスク点数、未対応項目数、総合判定、対応の優先度が自動表示されます。
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健康診断の本当の目的は「会社を守ること」でもある
健康診断や事後措置は、従業員の健康を守るために行うものです。
同時に、会社を守るための大切な仕組みでもあります。
もし、健康診断で異常が見つかっていた従業員に長時間労働や深夜勤務を続けさせ、その後に重大な健康問題が起きたらどうでしょうか。
会社は、
「健診結果を確認していたのか」
「医師の意見を聴いたのか」
「必要な措置を検討したのか」
「なぜ同じ働き方を続けさせたのか」
と問われる可能性があります。
そのとき、「本人へ結果を渡しました」だけでは十分な説明になりません。
健康診断の実施、結果通知、医師の意見聴取、本人との面談、就業上の措置、記録保存までを一つの流れとして整えておくことが、従業員と会社の双方を守ります。
明日から9月です。
まずは無料点検シートを使い、自社の健康診断管理に抜け漏れがないか確認してください。
点検の結果、
- 医師の意見聴取をしていなかった
- 有所見者の管理方法がわからない
- 産業医がいないので対応できていない
- 労基署への報告状況が不明
- 健康情報の取扱いルールがない
- 治療と仕事の両立支援制度を整えたい
といった問題が見つかった場合は、放置せずにご相談ください。
オフィススギヤマグループでは、健康診断管理の流れ、就業規則、健康情報の取扱規程、産業医等との連携、事後措置の社内手続などを、会社の規模や実態に合わせて整理します。
9月の強化月間を、単なる行政からのお知らせで終わらせず、自社の健康管理体制を見直す機会にしてください。