【2026年7月度版】宮崎労働局の送検事例を社労士が考察――「うちの会社は大丈夫」が危ない3つの落とし穴
杉山 晃浩
「うちの会社が労働基準監督署から送検されることなんて、まずないだろう」
そう思っている経営者は少なくありません。
送検と聞くと、長時間労働を隠していた会社や、大勢の従業員に給与を支払わなかった会社など、よほど悪質なケースを想像するのではないでしょうか。
しかし、2026年7月3日に宮崎労働局が更新した「労働基準関係法令違反に係る公表事案」を見ると、決して一部の悪質な企業だけの問題とはいえません。
今回掲載されているのは、次の3件です。
- 高さ約2.6メートルの場所で墜落防止措置を講じなかった事案
- 労働者1名に14か月分、合計約198万円の賃金を支払わなかった事案
- すべり止めなどを設けず、移動はしごを使用させた事案
「2メートルを超える場所での作業」「移動はしご」「給与の支払い」は、宮崎県内の中小企業にとって特別な話ではありません。
建設業、製造業、運送業、農業、介護事業、飲食業、小売業など、幅広い会社で起こり得ます。
しかも、法律違反は「知らなかった」では済まされません。
今回は、宮崎労働局が公表した3つの送検事例から、中小企業の経営者や人事担当者が何を学び、何を確認すべきなのかを、できるだけわかりやすく解説します。
なお、ここでいう「送検」とは、労働基準監督署が捜査した事件を検察庁へ送ることです。送検された時点で、有罪や刑罰が確定したわけではありません。
この記事でも、公表された内容を超えて、各企業を一方的に非難する意図はありません。大切なのは、他社の事例を材料にして、自社で同じことを起こさないことです。
2026年7月に発生した事件という意味ではありません
最初に、日付について整理しておきます。
今回の資料は、宮崎労働局が2026年7月3日に更新した公表資料です。そのため、本記事では「2026年7月度版」と表現しています。
ただし、3件すべてが2026年7月に発生・送検されたわけではありません。
公表資料に記載された送検日は、次のとおりです。
- 有限会社大里建設:2025年11月11日送検
- 株式会社Strada:2026年4月23日送検
- 株式会社山形種鶏場宮崎支店:2026年6月1日送検
公表資料は、一定期間掲載されるため、以前に送検された事案も含まれます。
しかし、日付が数か月前だからといって、経営者が学ぶ価値が下がるわけではありません。むしろ、実際に宮崎県内で起きた身近な事例として、自社の管理を見直す材料にする必要があります。
高さ約2.6メートルで墜落防止措置を講じなかった事案
1件目は、宮崎市の有限会社大里建設に関する事案です。
宮崎労働局の公表資料によると、高さ約2.6メートルのフェンス設置場所で、要求性能墜落制止用器具を使用させるなどの墜落防止措置を講じることなく、労働者に作業を行わせたとされています。
違反法条として、次の規定が挙げられています。
- 労働安全衛生法第21条
- 労働安全衛生規則第519条
「要求性能墜落制止用器具」という言葉は難しく見えますが、一般的にはフルハーネス型などの墜落制止用器具を指します。
この事例で経営者に注目してほしい数字は、「約2.6メートル」です。
10メートル、20メートルの高所ではありません。
現場によっては、「これくらいなら大丈夫」「短時間の作業だから問題ない」「いつもこの方法でやっている」と考えてしまいそうな高さです。
しかし、労働安全衛生規則では、高さ2メートル以上の場所で作業を行わせる場合、墜落による危険を防ぐための措置が必要になります。
まず検討すべきなのは、安全な作業床や囲い、手すりなどの設置です。それが難しい場合には、防網を張る、適切な墜落制止用器具を使用させるといった対策が必要です。
ここで注意したいのが、「会社が安全帯を用意していたから大丈夫」という考え方です。
安全器具は、倉庫に置いてあるだけでは労働者を守りません。
- 作業に合った器具を選んでいるか
- 労働者が実際に装着しているか
- ランヤードを安全に取り付ける場所があるか
- 使用方法について教育しているか
- 現場責任者が使用状況を確認しているか
ここまで管理して、初めて安全対策として機能します。
労働者が自己判断で使用しなかった場合でも、会社が「着けるように言っていました」と説明するだけで責任を免れられるとは限りません。
会社には、危険な作業方法を禁止し、安全な方法で作業させる責任があるからです。
移動はしごが動いて労働者が墜落した事案
2件目の安全関係の事例は、小林市の株式会社山形種鶏場宮崎支店に関するものです。
宮崎労働局の公表資料によると、移動はしごを使用させる際、すべり止め装置の取付けなど、はしごの転位を防止するために必要な措置を講じなかったとされています。
違反法条は、次のとおりです。
- 労働安全衛生法第20条
- 労働安全衛生規則第527条
労働新聞の報道によると、この事故は2025年11月27日に発生しました。
労働者が給水タンクを消毒するため木製のはしごを使用していたところ、はしごが動き、労働者が墜落したとされています。
会社とともに、宮崎支店の支店長補佐も宮崎地方検察庁都城支部へ書類送検されたと報じられています。
この事例が怖いのは、はしごが多くの職場で日常的に使われている点です。
「高所作業」というと、建設現場の足場やビルの屋上をイメージしがちですが、次のような作業にも墜落の危険があります。
- 倉庫の棚から荷物を取る
- 看板や照明器具を交換する
- エアコンや換気扇を清掃する
- 屋根や雨どいを点検する
- 農業用設備や給水タンクを清掃する
- 店舗の飾りや掲示物を取り付ける
移動はしごには、丈夫な構造であること、著しい損傷や腐食がないこと、幅が30センチメートル以上あることなどの基準があります。
さらに、脚部にすべり止めを付ける、上部を固定する、別の労働者にはしごを支えさせるなど、使用中にはしごが滑ったり倒れたりしないための措置も必要です。
床が水、油、消毒液などで濡れている場合は、さらに注意が必要です。
「今まで事故がなかった」という事実は、これからも安全であることの証明にはなりません。
むしろ、毎回たまたま事故にならなかっただけかもしれません。
また、今回の報道では、会社だけでなく支店長補佐も送検されています。労働安全衛生法上の責任は、必ずしも代表取締役だけが負うわけではありません。
現場で労働者に指示を出し、安全対策を実施する立場にある工場長、支店長、現場代理人、職長などが、送検対象になる可能性があります。
「安全管理は現場に任せている」という経営者の言葉は、責任の分担ではなく、危険の放置になっていないでしょうか。
労働者1名に14か月分、約198万円の賃金を支払わなかった事案
3件目は、宮崎市の株式会社Stradaに関する賃金不払いの事案です。
宮崎労働局の公表資料によると、労働者1名に対し、14か月間の定期賃金合計約198万円を支払わなかったとされています。
違反法条は、最低賃金法第4条です。
最低賃金法では、使用者は労働者に対して、最低賃金額以上の賃金を支払わなければならないと定めています。
約198万円を14か月で単純に割ると、1か月当たり約14万1,000円になります。
公表資料だけでは、賃金の全額が支払われていなかったのか、一部だけが支払われていなかったのか、詳しい事情までは分かりません。
また、不払いとなった具体的な期間、労働者の職種や雇用形態、その後に支払いが行われたかどうかも、公表資料からは確認できません。
したがって、確認できていない事情を推測で断定することは避けるべきです。
一方で、14か月という期間と約198万円という金額から考えると、単発的な給与計算ミスとは大きく異なる事案であることは分かります。
会社の資金繰りが厳しくなったとき、給与の支払いを少し待ってもらおうと考える経営者がいるかもしれません。
しかし、会社の売上不足や資金繰りの悪化は、給与を支払わなくてよい理由にはなりません。
労働者から「会社が大変なら、少し待ちます」と言われたとしても、その同意だけで最低賃金法や労働基準法上の問題がなくなるわけでもありません。
賃金不払いで特に危険なのは、問題を先送りしてしまうことです。
最初は1か月分だった不払いが、2か月、3か月と積み上がれば、会社が支払うべき金額も増えていきます。労働者との信頼関係も崩れ、労働基準監督署への申告、退職、訴訟、採用への悪影響につながる可能性があります。
給与の支払いが難しくなりそうな段階で、税理士、金融機関、社会保険労務士などに相談し、資金繰りと雇用の両面から早期に対応することが重要です。
「払えなくなってから考える」のでは、手遅れになることがあります。
送検されたら、罰金だけで終わるとは限らない
送検事例を見るとき、罰金額だけに注目する経営者がいます。
しかし、会社にとって本当に大きな問題は、刑事罰だけではありません。
宮崎労働局の公表資料には、会社名や事業場名、所在地、違反法条、事案の概要などが掲載されます。
公表後は、会社名をインターネットで検索した求職者、取引先、金融機関などが、その情報を目にする可能性があります。
その結果、次のような影響も考えられます。
- 求人を出しても応募が集まりにくくなる
- 内定辞退や社員の退職につながる
- 取引先から説明を求められる
- 元請会社から安全管理体制を確認される
- 公共工事や取引審査に影響する
- 金融機関や保険会社への説明が必要になる
- 会社や経営者の評判が低下する
もちろん、送検されたからといって、直ちにすべての影響が発生するわけではありません。
それでも、会社名と違反内容が公表されること自体が、経営上の大きなリスクです。
「罰金を払えば終わり」という問題ではありません。
社員、家族、取引先、求職者から積み上げてきた信頼を守るためにも、日頃の労務管理と安全管理が必要です。
事故や賃金トラブルが起きる前に確認してください
今回の3事例に共通しているのは、経営者にとって理解しにくい特別な義務ではないことです。
- 高さ2メートル以上の場所では墜落防止措置を講じる
- はしごが滑ったり倒れたりしないようにする
- 働いてもらった以上、所定の日に給与を支払う
- 最低賃金を下回っていないか確認する
いずれも、会社が人を雇ううえでの基本です。
ところが、基本的なことほど「現場で分かっているはず」「給与担当者が確認しているはず」と思い込み、会社としての確認が抜け落ちます。
そこで今回、宮崎労働局の3つの送検事例をもとに、無料の読者プレゼントを作成しました。
無料プレゼント「2026年7月度版 労務・安全管理リスク緊急点検シート」
今回のプレゼントは、
「【2026年7月度版】宮崎労働局の送検事例に学ぶ 労務・安全管理リスク緊急点検シート」
です。
Excel形式で、次の3分野を確認できます。
- 高さ2メートル以上の高所作業
- 移動はしごの安全管理
- 最低賃金・給与支払いの管理
全部で18項目です。
各項目について、「はい」「一部」「いいえ」「該当なし」から自社の状況を選択すると、リスク点とリスク率が自動計算されます。
さらに、結果は次の3段階で自動判定されます。
- 概ね良好
- 要注意・改善計画
- 危険・至急改善
改善が必要な項目には、担当者、完了期限、対応内容も記録できます。
点検するだけで終わらず、「誰が、いつまでに、何を改善するか」まで決められるようにしました。
点検シートは、次の専用フォームから無料でお申し込みいただけます。
▼2026年7月度版 労務・安全管理リスク緊急点検シート
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フォーム送信後、登録したメールアドレスにダウンロード用URLが届きます。
経営者だけで回答するのではなく、安全管理を担当する社員、現場責任者、給与計算担当者と一緒に確認することをおすすめします。
経営者から見えている会社と、現場で実際に行われている作業が違うこともあるからです。
「大丈夫だと思う」から「確認したので大丈夫」へ
労働災害や賃金不払いの問題は、ある日突然生まれるわけではありません。
- 安全帯を着けない作業を見ても注意しなかった
- はしごのすべり止めが外れていたが交換しなかった
- 点検表が形だけになっていた
- 最低賃金の改定後も給与を見直さなかった
- 給与の遅れを経営者に報告できなかった
このような小さな見過ごしが重なり、事故や送検につながります。
経営者が目指すべきなのは、「事故が起きていない会社」だけではありません。
危険を見つけ、事故が起きる前に改善できる会社です。
まずは無料点検シートを使い、自社の状態を確認してください。
もし「いいえ」が付いた項目がある場合や、判断に迷う項目がある場合は、そのまま放置しないことが大切です。
オフィススギヤマグループでは、就業規則、賃金管理、労務監査、安全衛生管理など、中小企業の実情に合わせたご相談を受け付けています。
労働基準監督署から連絡が来てから慌てるのではなく、何も起きていない今のうちに確認しておきましょう。
「うちは大丈夫だと思う」から、「確認し、改善したので大丈夫」と言える会社へ。
今回の送検事例を、他社のニュースで終わらせず、自社を守るきっかけとして活用してください。