シフト制なら勤務をゼロにしてもよい?「期待権」と休業手当のリスクをMENYA事件から解説
杉山 晃浩
「シフト制のパート・アルバイトなら、会社の都合に合わせて勤務日数を自由に減らせる」
もし、このように考えているとしたら注意が必要です。
確かに、シフト制は、毎月の勤務日や勤務時間をシフト表によって決める働き方です。しかし、シフト制だからといって、会社が何の説明もなく勤務日数を減らしたり、突然シフトをゼロにしたりできるとは限りません。
雇用契約書に何が書かれているのか。
求人票や採用面接で、どのような説明をしたのか。
これまで、どのくらいの勤務日数や労働時間が続いていたのか。
会社が別の店舗や時間帯での勤務を提案したのか。
こうした事情によって、賃金や休業手当を支払わなければならない可能性があります。
今回は、ラーメンチェーン店のシフト勤務をめぐって争われた「MENYA事件(東京地方裁判所・令和6年3月26日判決)」を参考に、シフト制と「期待権」の問題を、できるだけわかりやすく解説します。
そもそも「シフト制」とはどのような働き方なのか
厚生労働省は、いわゆるシフト制について、雇用契約を結んだ時点では具体的な労働日や労働時間を確定させず、その後に作成する勤務シフトによって、初めて勤務日や勤務時間が決まる働き方と説明しています。
つまり、契約時点では、
「毎週月曜日から金曜日まで勤務する」
「毎日午前9時から午後5時まで勤務する」
と完全に決まっているわけではなく、1週間や1か月ごとに作成されるシフト表によって、具体的な勤務が決まる仕組みです。
飲食店、小売店、介護施設、医療機関、ホテル、美容業などでは、よく利用されています。
忙しい時期と暇な時期に合わせて人員を調整しやすく、従業員も家庭や学校などの予定に合わせて働きやすいというメリットがあります。
その一方で、会社と従業員の認識が食い違いやすい働き方でもあります。
会社は、
「シフト制なのだから、仕事が少なければ勤務を減らせる」
と考えている。
従業員は、
「これまで週5日働いてきたのだから、これからも同じくらい働ける」
と考えている。
このズレが大きくなると、未払い賃金や休業手当をめぐる争いに発展します。
厚生労働省も、シフト制で働く人について、会社の都合により労働日がほとんど設定されないなどの労働トラブルを防ぐため、雇用管理上の留意事項を公表しています。
MENYA事件では何が起きたのか
MENYA事件では、ラーメンチェーン店で働いていた夫婦が、会社に対して未払い賃金などを請求しました。
夫婦の雇用契約書には、1日の労働時間を8時間とし、始業時刻や終業時刻などは、シフト表を提出したうえで「個別に定める」という内容が記載されていました。
夫婦が働いていた店舗は、新型コロナウイルスの影響によって休業し、その後、営業時間を短縮して営業を再開しました。
しかし、夫婦は再開後の店舗のシフトに入りませんでした。
会社は、夫婦に対し、勤務していた店舗だけでなく、東京都内にある複数の店舗で働くことを提案しました。
ところが夫婦は、
- 勤務時間や勤務日数が少ない
- 店舗が遠い
- 閉店する店舗に戻ることには納得できない
- 自分たちを辞めさせようとしているのではないか
などの理由から、会社の提案を断りました。
そこで夫婦は、会社の責任によって働くことができなかったとして、賃金の全額や休業手当を請求しました。
裁判所は「一定のシフトを割り振る義務はない」と判断
東京地方裁判所は、夫婦の雇用契約について、勤務する店舗、勤務日数、勤務時間帯が具体的に決められていなかった点を重視しました。
契約書には、勤務時間などはシフト表によって個別に定めると書かれていました。
そのため、会社がシフトを決めた時点で、初めて具体的な勤務義務が発生すると判断したのです。
言い換えると、シフトが決まる前から、会社が一定の日数や一定の時間数を必ず割り振らなければならない契約ではなかったということです。
夫婦は以前、週6日程度の勤務をしていました。
しかし裁判所は、過去にそのような勤務が続いていたとしても、それだけで雇用契約の内容が「週6日の勤務を保障する契約」に変わったとは認めませんでした。
また、会社は複数の店舗での勤務を提案していましたが、夫婦がそれを断っていました。
裁判所は、会社が提案した店舗が著しく通勤困難な場所とはいえず、育児や健康状態を考慮しても、提案された勤務が過重な負担になるとは認めにくいと判断しました。
その結果、働くことができなかった原因が会社側にあるとはいえず、夫婦による賃金と休業手当の請求は認められませんでした。
この判決を「会社は自由にシフトを減らせる」と読んではいけない
ここが、今回最も注意していただきたいポイントです。
MENYA事件では、会社が一定の日数や時間数のシフトを割り振る義務はないと判断されました。
しかし、この判決は、
「シフト制であれば、会社はいつでも自由に勤務をゼロにできる」
と認めたものではありません。
MENYA事件では、次のような事情がありました。
- 契約書に勤務店舗、勤務日数、勤務時間帯が具体的に固定されていなかった
- シフト表によって個別に勤務を決める契約になっていた
- 会社が複数の店舗での勤務を提案していた
- 従業員側が会社の提案を断っていた
- 会社の提案が、著しく不合理なものとは認められなかった
こうした事情を総合して、従業員が働けなかったことについて、会社側に責任はないと判断されています。
逆にいえば、会社が何の勤務提案もせず、一方的にシフトをゼロにしていた場合は、同じ結論にならない可能性があります。
シフト制における「期待権」とは何か
「期待権」という言葉は、シフト制について法律に明確な定義が書かれているわけではありません。
実務上は、従業員が過去の契約内容や会社の説明、長期間にわたる勤務実績などから、
「今後も、これまでと同じ程度のシフトに入れるだろう」
と期待することに、一定の合理性があるかどうかが問題になります。
例えば、雇用契約書に「週5日勤務」と書いてある場合、会社が突然、本人の同意なく週1日に減らせば、契約違反が問題になります。
契約書に「週3日程度」と書いてある場合も、会社が毎月ほぼ週3日のシフトを組み続けていたのであれば、突然ゼロにすることについて合理的な説明が必要になるでしょう。
契約書には「シフトによる」としか書かれていなくても、求人票に「週5日、1日8時間、安定して働けます」と書いていた場合はどうでしょうか。
採用面接で、
「毎月20日くらいは勤務できます」
「生活できる程度の収入は確保します」
などと説明していた場合も、会社にとって不利な事情になる可能性があります。
契約書だけ整っていれば安心というわけではありません。
求人票、採用面接での説明、過去のシフト表、給与明細、従業員とのメールやチャットなども、実際の労働条件を判断する材料になります。
確定したシフトを取り消す場合は、さらに注意が必要
シフトがまだ決まっていない段階と、すでにシフトが確定した後では、問題が異なります。
確定前であれば、契約内容によっては、会社に一定のシフトを割り振る義務がないと判断される可能性があります。
しかし、いったんシフト表で勤務日が確定すれば、その日は従業員が働く義務を負う日になります。
その後、会社の都合で、
「お客様が少ないから休んでください」
「予約がキャンセルになったので今日は来なくてよいです」
「売上が落ちたので、来週のシフトをすべて削ります」
と勤務を取り消せば、休業手当の支払いが必要になる可能性があります。
労働基準法第26条では、会社の責任による休業の場合、会社は平均賃金の60%以上の休業手当を支払わなければならないと定めています。
さらに、会社の故意や過失によって働けなかったと判断されれば、民法上、賃金の全額を請求される可能性もあります。
「仕事がなかったから、働いていない分の給与はゼロ」
と単純に処理できるわけではありません。
シフトを確定する前なのか、確定した後なのか。
働けない原因が会社側にあるのか、従業員側にあるのか。
代わりの勤務を提案したのか。
従業員がその提案を断ったのか。
これらを分けて考える必要があります。
会社が確認しておきたい5つの資料
シフト制を導入している会社は、最低でも次の資料を確認してください。
雇用契約書・労働条件通知書
最低勤務日数や最低労働時間を約束しているか、勤務店舗や曜日を限定しているか、シフトの決定方法が明記されているかを確認します。
「シフトによる」とだけ書いて終わりにせず、シフトの提出期限、確定日、変更方法なども整理しておきたいところです。
求人票と採用時の説明内容
求人票に書いた勤務日数や収入例と、雇用契約書の内容が食い違っていないか確認します。
採用担当者が良かれと思って、
「希望すれば毎日入れます」
「月に20万円くらいは稼げます」
などと約束していないかも重要です。
過去のシフト表
過去6か月から1年程度の勤務日数と労働時間を確認します。
長期間にわたって同じ勤務が続いていれば、従業員が今後も同じ程度働けると考えるのは、ある意味当然です。
シフトを大幅に減らす場合は、これまでの実績を確認したうえで進める必要があります。
シフトを減らす理由の記録
売上の減少、店舗の休業、人員配置の変更、本人の勤務態度など、シフトを減らす理由を記録します。
特定の従業員だけを狙ってシフトを減らすと、退職に追い込むための嫌がらせや不利益な取扱いと主張される可能性があります。
シフト削減を、解雇や懲戒の代わりに使ってはいけません。
会社の提案と本人の回答記録
別の店舗、別の曜日、別の時間帯で働けないかを提案した場合は、その内容を記録してください。
本人が断った場合も、
- いつ提案したのか
- どの店舗を提案したのか
- 勤務時間は何時から何時までか
- 本人はどのような理由で断ったのか
を残しておきます。
MENYA事件でも、会社が複数の勤務先を提案し、従業員側が断っていたことが重要な判断材料になりました。
「シフトをゼロにして辞めてもらう」は危険です
問題のある従業員について、正面から指導や話合いをすることを避け、
「シフトを入れなければ、そのうち自分から辞めるだろう」
と考える経営者がいます。
これは非常に危険な方法です。
シフトを意図的に減らして生活できない状態に追い込み、退職を促したと判断されれば、会社が責任を問われる可能性があります。
さらに、問題社員への指導記録がなく、シフト削減の理由も残っていなければ、会社は後から正当性を説明できません。
勤務態度に問題があるのであれば、まず事実を確認し、本人に改善を求め、その経過を記録することが基本です。
売上減少などの経営上の理由でシフトを減らす場合も、対象者の選び方や削減幅について、合理的な説明が必要です。
人事労務の問題は、近道をしようとすると、かえって遠回りになることがあります。
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※本シートは一般的な簡易診断です。診断結果だけで、休業手当や賃金の支払い義務について法的な結論が決まるものではありません。
シフトを減らす前に、契約書と過去の運用を確認してください
シフト制は、中小企業にとって使いやすい勤務制度です。
しかし、柔軟に運用できることと、会社が自由に勤務日数を減らせることは同じではありません。
MENYA事件では、会社に一定のシフトを割り振る義務はないと判断されました。
一方で、別の会社でも必ず同じ結論になるわけではありません。
最低勤務日数を約束していたり、長期間にわたって固定的な勤務が続いていたり、会社が代替勤務を提案せずに突然シフトをゼロにしたりすれば、会社側の責任が認められる可能性があります。
特に、次のような対応を予定している場合は、実行する前にご相談ください。
- パート・アルバイトの勤務日数を大幅に減らしたい
- 特定の従業員だけシフトを減らしたい
- 店舗の休業や閉店に伴ってシフトをなくしたい
- 確定済みのシフトを取り消したい
- 従業員から休業手当や未払い賃金を請求された
- シフト制の雇用契約書を見直したい
- 問題のある従業員への対応に困っている
シフトを削減してから相談するよりも、削減する前に相談した方が、選べる対応方法は多くなります。
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シフト制は、会社と従業員の双方にとって便利な制度です。
だからこそ、「これまで何となく運用してきた」で済ませず、契約書と実際の運用を一致させておきましょう。