2025年4月改正・介護休業制度のポイントと企業が今すぐ取り組むべきこと 〜制度は整った。でも使われなければ意味がない〜
杉山 晃浩
はじめに
高齢化がますます進む中、働く人が家族の介護と仕事を両立することの重要性が高まっています。 その一方で、介護を理由に仕事を辞めざるを得ない「介護離職」が社会問題となっています。
このような背景のもと、2025年4月1日に育児・介護休業法が改正され、企業には新たな対応が求められるようになりました。
今回のブログでは、社会保険労務士としての視点から、介護休業制度の概要と、改正法に基づいて企業が準備すべき実務対応について、わかりやすくご紹介します。
第1章:介護休業とは何か?その制度的な意味と限界
介護休業とは、家族の介護が必要になった際に、従業員が一時的に仕事を休むことができる制度です。
対象となる家族1人につき、通算93日まで休業を取得することができ、最大3回まで分割取得も可能です。 また、雇用保険に加入している従業員には、一定の条件を満たせば「介護休業給付金」が支給されます。
ここで注意すべき点は、「93日」という期間が、必ずしも介護が終わるまでの十分な期間ではないということです。
実際には、介護はいつ終わるかわからず、年単位に及ぶことも珍しくありません。 ではなぜ93日なのか?
制度としての位置づけは、**「介護が始まったときの緊急対応・準備期間」**として設計されており、 介護体制を整えるための猶予期間という意味合いが強いのです。
つまり、介護そのものを制度が全面的に支援するわけではなく、 “仕事と介護のスタートを両立できるよう支援する”制度と捉えるのが正解です。
第2章:2025年4月の改正ポイントを押さえよう
2025年4月の法改正では、「介護休業そのもの」よりも、 制度がより使いやすくなるよう企業側の義務や配慮が強化されました。
以下は主な改正点です。
項目 | 改正前 | 改正後 |
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柔軟な勤務配慮 | 努力義務 | 配慮義務に強化 |
相談窓口 | 明確な義務なし | 設置義務化 |
情報提供 | 努力義務 | 義務化 |
ハラスメント防止 | 規定なし | 義務化 |
労働者の希望 | 選択の配慮なし | 選択の尊重が必要 |
これにより、企業には「制度はあるけれど使われない」という状況を改善するための環境整備が求められるようになりました。
第3章:企業が準備すべき7つの実務対応リスト
ここでは、改正法を踏まえて企業が取り組むべき実務対応を7つに整理しました。
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就業規則や制度文書の整備
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介護休業や介護休暇の手続きや条件を明記
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従業員への制度周知
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社内掲示やリーフレットの配布、イントラネットでの公開
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相談窓口の設置
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総務や人事部門に明確な窓口を設け、対応マニュアルを整備
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柔軟な勤務形態の導入
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時短勤務、時差出勤、在宅勤務、フレックスなどの選択肢を提示
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ハラスメント防止の明示と対応
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制度利用者に対する無理解・揶揄などの言動への防止措置
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管理職向けの研修
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制度の知識と配慮対応を理解させる研修実施
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制度利用を後押しする職場文化づくり
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「取りにくい雰囲気」の払拭、上司や先輩の利用促進
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これらはすべて、制度が“使われる”ようにするために欠かせない要素です。
第4章:介護は“誰にでも”起こり得ること
介護は特別な状況ではなく、誰にでも起こりうるライフイベントです。 特に40代〜50代は、親の介護と子育てが重なる「ダブルケア」世代でもあります。
中小企業では、1人の離脱が職場全体に影響を与えるため、 介護を理由に離職せざるを得ないケースを防ぐことが経営の安定にもつながります。
働きながら介護できる環境づくりは、コストではなく未来への投資と捉えるべきです。
おわりに
2025年の法改正は、企業にとって新たな「義務」が生まれたと同時に、 職場をより良く変えていくチャンスでもあります。
制度を整えるだけでは不十分で、実際に「利用しやすい環境」を作ることが何よりも大切です。
私たち社会保険労務士は、
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制度設計の支援
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就業規則の見直し
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管理職研修の実施
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助成金の活用サポート などを通じて、企業の取り組みをサポートしています。
社員の人生と企業の未来、どちらも守るために、 今こそ“実効性ある対応”を一緒に進めていきましょう。