カスタマーハラスメントを考える ~受け手にも理由があるかもしれないという視点から見直す社員教育と組織の対応~
杉山 晃浩
■はじめに ~なぜこのテーマを取り上げるのか~
カスタマーハラスメント(以下、カスハラ)は、近年多くの企業で問題となっています。厚生労働省も企業向けマニュアルを策定するなど、対応が求められる時代です。
しかし現場で働く従業員の声や、企業の担当者との対話の中で私が感じるのは、「カスハラとされる言動の背景には、企業側の対応ミスや無神経な接客が関係していることもあるのではないか?」ということです。
今回は、社会保険労務士としての視点から、「一方的に顧客が悪い」と決めつけず、対応する従業員側の教育や組織の仕組みにも注目し、より根本的な対策について考えてみたいと思います。
■カスタマーハラスメントとは何か?
厚生労働省の定義では、カスタマーハラスメントとは、顧客等からの暴言、脅迫、執拗な要求など、社会通念上不相当とされる行為によって、労働者の就業環境が害されることを指します。
ただし注意したいのは、「クレーム」と「カスハラ」は明確に線引きできるものではなく、その判断は極めて主観的であるという点です。
例えば「怒鳴られた」という行為一つとっても、発言の内容やそれに至る経緯によっては、ただの厳しい意見にもなれば、明らかなハラスメントにもなり得ます。
つまり、状況全体を冷静に把握する力と、顧客対応の現場力が問われているのです。
■顧客が怒り出す“きっかけ”とは?
私自身も経験がありますが、カスハラの発端は、「もともと穏やかな問いかけだったものが、繰り返しのたらい回しや不誠実な対応を受けるうちに怒りに変わる」というケースが多いように思います。
たとえば:
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電話対応が機械的すぎて、選択肢に知りたい内容がない
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オペレーターの敬語が崩れていたり、話を真剣に聞いてくれていない印象を受ける
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ミスがあっても謝罪がなく、むしろ責められたように感じる
こういった”小さな不快感の積み重ね”が、顧客の怒りを増幅させ、結果としてカスハラに発展してしまうことがあるのです。
つまり、従業員のコミュニケーション能力や、組織の対応スピード・柔軟性が問われているとも言えるでしょう。
■カスタマーハラスメントを生まない社員教育とは?
ハラスメントを防ぐためには、「受け手となる従業員」の力を高めることが不可欠です。
特に重要なのは次の3点です:
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基本的なマナーの徹底
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敬語、相づち、謝罪の言葉など、”接客の基本”は全社員が身につけるべきです。
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“感じのよい対応”を心がけることで、相手の怒りの芽を摘むことができます。
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傾聴と共感のスキル
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相手の言いたいことを遮らず、まずは受け止める力。
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「それはご不便でしたね」などの共感的表現は、不満を鎮める効果があります。
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ストレス対処とエスカレーションの判断
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カスハラに発展しそうな場面で、自ら抱え込まず、すぐに上司に相談・引き継ぐ判断力も必要です。
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これらのスキルは一朝一夕には身につきません。 ロールプレイングなどを取り入れた継続的な研修が効果的です。
■組織が果たすべき役割
個々の従業員に責任を負わせすぎると、逆に精神的負担が高まります。
そこで組織として次のような支援が重要になります:
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対応マニュアルの整備:想定される事案ごとの対応方法を明文化する
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相談体制の整備:カスハラに関する相談を受け止める社内窓口の設置
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現場の声を拾う仕組み:困っている社員が声を上げやすい風土づくり
さらに、経営層や管理職が「従業員を守る」という明確な姿勢を示すことも欠かせません。
従業員が安心して働ける環境を整えることが、結果的に顧客満足度の向上にもつながるのです。
■社労士として企業に伝えたいこと
カスハラ対策を「リスク管理」として捉える企業は増えていますが、本質的な課題は「人間関係の問題」です。
法的対応も大切ですが、最も効果的なのは“現場での未然防止”です。
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顧客対応の質を高める
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ストレスに強い人材を育てる
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トラブルの芽を早期に摘み取る
こういった視点からの社員教育を、社労士として提案していきたいと思います。
■おわりに ~お客様と従業員、どちらも大切にする職場づくりへ~
「顧客は神様」という言葉がありますが、同時に「従業員は会社の宝」でもあります。
カスタマーハラスメントを許さないことは、従業員を守るだけでなく、企業の信頼性を守ることでもあります。
一方で、企業が真摯に対応しようとしているのに、社員の対応が乱雑であったり、顧客の不満に無関心であれば、その企業の価値は下がってしまうでしょう。
顧客と従業員の双方が尊重される環境こそが、持続可能な企業経営の鍵です。
カスハラという現象をきっかけに、企業の在り方そのものを見直してみませんか?
社会保険労務士として、私はそのお手伝いができればと願っています。
厚生労働省の委託事業で作成された「カスタマーハラスメント対策企業マニュアル」も参考にしてくださいね。