【第3回】会社を守る!健康診断義務と健康経営のすべて:非正規雇用対応まで徹底解説(全5回シリーズ)

杉山 晃浩

健康診断結果の取扱い ─ 二次健診と医師意見聴取の違いと対応法


はじめに

健康診断を実施した後、会社としてやるべきことは何でしょうか?
「結果を社員に返せば終わり」「異常所見者には任せておけばいい」――そんな誤解が現場には広がっています。

実はここからが本番です。

健康診断後の結果の取扱いは、法律で定められた重要な義務であり、これを怠ると会社は大きなリスクを抱えます。
今回は、二次健診と医師意見聴取の違い、50人以上・未満事業所での対応、
そして何よりも私が強く提案したい「小規模事業所でもやらなきゃヤラレル!」という緊急メッセージをお届けします。


1. 健康診断の結果通知は会社の義務

会社は健康診断を実施するだけでは不十分です。
その後の「結果通知」までが義務です。

義務項目 内容
結果通知 労働者に健診結果を通知(口頭OKだが書面が望ましい)。特に異常所見は丁寧な説明が必要。
異常所見の特定 要精密検査・要経過観察の者をリストアップ。判定記号(C、D、Eなど)だけでなく具体数値も確認すること。
医師意見聴取 異常所見者について産業医・嘱託医・地域産保センターから就業上の助言を得る。
就業措置実施 医師の意見を基に、労働時間調整・業務軽減・配置換え・休養など必要な措置を講じる。

2. 二次健診と医師意見聴取の違いを正確に理解する

現場で最も混乱が起こるのがこの違いです。

項目 二次健康診断 医師意見聴取
法的根拠 労災保険法 労働安全衛生法
対象者 定期健診で血圧、血中脂質、血糖、腹囲の4項目すべてに異常のある者 定期健診で何らかの異常所見があるすべての者
内容 精密検査(頸部エコー、心エコー、負荷心電図等)、特定保健指導 働き方に関する助言(業務軽減、配置転換、受診勧奨等)
費用負担 労災保険が負担(年1回) 会社負担、地域産保センター利用なら無料対応も可能

ポイント:

  • 二次健診は医療の話、医師意見聴取は労務管理の話

  • 二次健診を促すだけでは安全配慮義務を果たしたことにはならない

 


3. 医師意見聴取の実践手順

50人以上の事業所(産業医選任義務あり)

  • 産業医が健診結果をチェックし、対象者ごとに就業措置を助言。

  • 衛生委員会を通じ、管理職に報告・改善指示。

  • 就業規則に「医師意見に基づく就業措置」の流れを明記。

50人未満の事業所(産業医なし)

  • 地域産業保健センターに結果を持参。

  • センター医師に全件チェックを依頼。

  • 相談内容を文書化し、社内保存。


4. 小規模事業所でもやらなきゃヤラレル!

これは本シリーズで最も強く伝えたいパートです。

✅ 小規模事業所が見落としている現実

  • 労働者50人未満は産業医の選任義務がない。
     → だからといって意見聴取をしなくていいわけではない。

  • 地域産保センターの存在を知らない。
     → 国が設置し、多くのサービスが無料または低額。

  • 健診結果の判断を人事や総務がしてしまう。
     → 法律上、医師の専門判断が必要。

  • 「所見なし以外=全員対象」を知らない。
     → B(軽度異常)でも要注意。C(要経過観察)、D(要精密検査)は完全アウト。


✅ 全件持ち込みのすすめ

小規模事業所に必要なのは、「異常所見者だけ」ではなく
「全件産保センターに持ち込む」という徹底姿勢です。

なぜか?

  1. 線引きミスを防ぐ
     → B判定の軽視、数値見落としを排除。

  2. 労基署調査時に説明しやすい
     →「全件確認済み」という事実が強い盾になる。

  3. 社員の安心感につながる
     →「この会社はちゃんと見てくれている」との信頼醸成。

  4. 医師から全体傾向の助言が得られる
     → 生活習慣病リスクの高い職場風土が見える。


✅ 実践ステップ

  1. 健診結果をすべてコピー(個人情報保護を徹底)。

  2. 地域産保センターに相談予約。

  3. 全件を医師に確認依頼。

  4. 医師のコメントを社内にフィードバック。

  5. 必要な就業措置・職場改善を実行。


✅ 経営者・人事の覚悟

  • 「うちは小さいから大丈夫」という思い込みを捨てる。

  • 「健診後こそ本当の勝負」と認識する。

  • 「やらなきゃヤラレル」という危機感を持つ。


✅ 全国の中小企業へ私からの提案

  • 地域産業保健センターの電話番号をすぐ手帳に入れる。

  • 健診結果を医師に見せるのは「義務」ではなく「会社を守る最大の防御策」。

  • 「うちはやってます」と胸を張れる体制を作る。


5. 健康診断結果を活かすための社内ルール化

社内整備項目 内容
健診後の管理表作成 異常所見者のフラグ管理。全員分を一覧化。
医師意見聴取の実施ルール化 就業規則・社内規程に明記。例:「医師意見に基づく就業措置を行う」など。
管理職・社員への教育 健康診断の意義、医師意見聴取の必要性を研修で伝える。

まとめ

健康診断後の結果取扱いは「最後の詰め」が肝心です。

  • 二次健診 → 医療の問題

  • 医師意見聴取 → 労務管理の問題

特に小規模事業所では、地域産保センターを最大活用し、
「全件持ち込み」を習慣化することが、企業防衛の鍵です。

次回第4回は、「健診後の措置」「怠った場合の最悪シナリオ」を
ストーリー仕立てでお届けします。どうぞお楽しみに!

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