【第5回】会社を守る!健康診断義務と健康経営のすべて:非正規雇用対応まで徹底解説(全5回シリーズ)
杉山 晃浩
非正規雇用者と健康経営 ─ 全従業員を守る取り組みのすすめ
はじめに
健康診断や健康管理は、これまで正社員を中心に語られることが多く、
非正規雇用者(パート・アルバイト・契約社員など)は「対象外」と誤解されがちです。
しかし、働き方の多様化が進む今、非正規雇用者を含めた健康管理は、
企業の持続的成長や社会的信頼を支える大事な要素です。
本稿では、非正規雇用者の健康診断義務の整理、企業がとるべき健康経営の実践例、
そして中小企業でも始められるスモールスタート型の健康経営について解説します。
1. 非正規雇用者の健康診断義務の整理
まずは、法律上の整理をしておきましょう。
雇用形態 | 健康診断義務の有無 |
---|---|
正社員 | 義務あり。雇入時健診、定期健診、特定業務健診、特殊健診など。 |
パート・アルバイト | 所定労働時間が正社員の概ね3/4以上なら義務あり。それ未満でも業務内容や条件により対象となる場合あり。 |
契約社員 | 正社員と同様の扱い。 |
短期雇用(2か月未満) | 原則対象外。ただし、契約更新で実質的に長期雇用になる場合は対象。 |
✅ よくある誤解
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「短時間勤務だから健診不要」 → 実際は正社員基準の3/4以上なら必要。
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「非正規だから任意」 → 契約内容・労働時間によっては正社員と同じ義務がある。
この誤解が原因で、労基署の是正勧告や行政指導が入るケースが少なくありません。
2. 非正規雇用者を守ることの重要性
なぜ非正規雇用者を含めた健康管理が重要なのでしょうか。
✅ 法令順守のため
法律違反は企業の信用を失う重大リスク。
また、過重労働による労災・損害賠償は非正規でも発生します。
✅ 生産性向上のため
非正規の方こそ現場を支えるキーパーソンであり、
健康悪化による離職・欠勤はチーム全体の生産性低下につながります。
✅ 採用・定着力の向上のため
「非正規にも健診を受けさせ、相談できる」職場は、求職者にとって魅力的です。
✅ 社会的責任の履行のため
人的資本経営・ESG投資・SDGsへの対応が求められる今、
全従業員の健康管理は企業価値を左右するテーマです。
3. 健康経営とは何か?
健康経営とは、「従業員の健康保持・増進を経営課題として捉え、戦略的に取り組む経営スタイル」です。
項目 | 内容 |
---|---|
目的 | 従業員の健康改善、医療費抑制、プレゼンティーイズム改善、生産性向上、企業ブランド強化 |
具体施策 | 健康診断、保健指導、運動・食生活改善、メンタルヘルス対策、ワークライフバランス推進 |
社会的評価 | 健康経営優良法人認定、SDGs・ESG対応、採用ブランド力向上 |
非正規雇用者を含めて健康経営を推進することは、「経営の強化」であり、
単なるコストではなく「投資」だと考えるべきです。
4. 中小企業でもできる健康経営のスモールスタート例
「うちは中小企業だから…」と諦める必要はありません。
次のような小さな一歩から始められます。
✅ 健康診断の徹底
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非正規も含めた対象者を整理し、健診を実施。
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地域産業保健センターの無料サービスをフル活用。
✅ 健診後のフォロー体制づくり
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異常所見者への面談機会を設ける。
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医師意見を聞き、必要な就業措置を話し合う。
✅ 職場内の健康促進活動
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朝礼や掲示板で生活習慣改善のワンポイント啓発。
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簡易血圧計の設置や、無料の健康相談窓口の紹介。
✅ メンタルヘルス対策
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ストレスチェック制度を導入(従業員50人未満は任意だが推奨)。
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ハラスメント相談窓口を設置。
✅ 経営層のコミットメント
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経営者自ら健康経営の意義を発信し、社内に浸透させる。
5. 健康経営優良法人の取得も視野に入れる
中小企業にとっても、「健康経営優良法人」認定は魅力的な目標です。
メリット | 内容 |
---|---|
採用力アップ | ホワイト企業イメージの向上。求職者や学生にアピールできる。 |
社会的信用の向上 | 取引先、金融機関、自治体からの評価が高まる。 |
社員モチベーション向上 | 「この会社は自分たちの健康を大切にしてくれる」という信頼が生まれる。 |
経済的メリット | 一部自治体・金融機関で優遇措置(融資金利引下げ、助成金加点など)が受けられる場合あり。 |
6. 経営者・人事担当者への提案
最後に、現場ですぐ実践できる5つの提案をまとめます。
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健診対象者を整理し、非正規雇用者を漏れなくリスト化する。
→ Excelや手書き名簿でもOK。 -
地域産業保健センターの活用方法を調べ、相談窓口を作る。
→ 労働局・保健所のWebサイトで最新情報を確認。 -
健診後の異常所見者に対して「面談」を実施する。
→ 産業医がいない場合は、外部相談窓口を活用。 -
経営トップから「健康を大事にする宣言」を発信する。
→ 社内メールや掲示板にメッセージを掲載。 -
1年後の目標を立てる。
→ 「健康経営優良法人 認定取得」を目指すのもおすすめ。
まとめ
非正規雇用者を含めた健康管理は、「義務」だけではありません。
それは、従業員全員を大切にする企業文化を育て、
経営の安定性と社会的信頼を高める最良の投資です。
中小企業でも、スモールスタートで十分です。
大切なのは、最初の一歩を踏み出すこと。
全5回にわたる本シリーズを通じて、
1社でも多くの企業が健康診断・健康経営の取り組みを前進させることを願っています。