実は使えない!? 経営セーフティ共済で失敗しないための活用術と落とし穴
杉山 晃浩
第1章|制度の“誤解”が命取り──夜逃げ倒産なのに対象外!?【A社の物語】
宮崎県で鉄工業を営むA社。創業以来の得意先であるB社から、毎月数百万円単位の注文を受けていました。
ある日、B社の代表と連絡が取れなくなりました。取引先の事務所には張り紙がされ、社員も誰もいません。いわゆる“夜逃げ”でした。
B社には300万円以上の未回収の売掛金が残っており、社長は焦りました。
「でも、ウチにはセーフティ共済がある」
そう思って、制度の貸付申請を行ったのですが……
「このケースでは“倒産”とは認められません」
中小機構からの回答は非情なものでした。
破産手続きも、再生も、取引停止処分も出ていない──つまり、制度上の“倒産”に当たらない、というのです。
A社はやむなく銀行に泣きつき、追加融資を受けて資金繰りを凌ぎました。
▶ どこに問題が?
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セーフティ共済における「倒産」は明確な定義があり、主に法的手続きまたは取引停止処分など“外部証明可能な事象”に限られる
▶ 学び
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口約束や“雰囲気的な倒産”では共済は動かない
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取引先の経営状態を日頃からモニタリングし、信用調査や契約管理もルール化しておく必要あり
第2章|契約書がなかった…証明できない売掛債権【B社の物語】
福岡県でOA機器販売を行うB社は、知人の紹介で小規模な飲食店C店と取引を開始。
開業準備のためにパソコンとレジ機器一式(約120万円)を納品しました。
請求書は出していたものの、契約書は交わしておらず、納品も「手渡しで済ませた」状態。
数ヶ月後、C店は突然閉店。連絡も取れず、事実上の廃業状態となりました。
「これはセーフティ共済の出番だ」と申請を試みたB社でしたが、審査で止まりました。
「契約書や納品書、受領証など、売掛債権を証明できる書類が不足しています」
売掛金の存在を証明できない──つまり「制度を使う条件がそもそも成立していない」というのです。
社長は、自らが甘く見ていた“証拠書類”の重要性を、痛感しました。
▶ どこに問題が?
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「証明責任」は申請者にある
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証拠がなければ、いかに被害を被っていても制度は動かない
▶ 学び
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小口取引でも契約書・納品書・請求書は必須
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LINEや口約束では“共済の審査”には通らない
第3章|気づいた時には期限切れ──6か月ルールに泣いた【C社の物語】
鹿児島県で建材卸を行うC社は、同業D社からの取引で毎月100万円規模の出荷を行っていました。
ところがD社が突如破産。報道にも載り、誰の目にも明らかな「倒産」でした。
しかし、C社の社長は「共済のことはあとで考えよう」と放置。
倒産処理や顧客対応、資金繰りに追われるうちに半年が経過。
申請準備を整えたのは、倒産から7か月後でした。
「申し訳ありません。制度では倒産発生日から6か月以内の申請が必要です」
期限は一日たりとも伸びません。ルールは絶対です。
結局、制度を活用できず、自社で損失を抱え込む結果となりました。
▶ どこに問題が?
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制度には“利用期限”がある(6か月以内)
▶ 学び
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倒産の第一報を得た瞬間から、共済の検討と申請準備を始める必要がある
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顧問士業や経理担当との情報共有と初動対応がカギ
第4章|積立の“ゴール”をどうする?──800万円満額で立ち止まったD社の決断
東京都で特殊部品を製造するD社は、創業から着実に掛金を積み立て、ついに800万円の満額に達しました。
社長は悩みました。
「このまま積み立てもできず、何もしないのはもったいない」
そんなとき、顧問社労士からの提案がありました。
「一時貸付制度で、手元資金に戻しつつ再投資する方法がありますよ」
D社は600万円を一時貸付で引き出し、老朽化した設備の更新資金に充てました。
同時に、解約後の使途として以下の選択肢も検討:
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小規模企業共済(社長個人の退職金準備)
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企業型DC制度の拡充(福利厚生として再設計)
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新規信用保険加入(与信リスク分散)
「共済は、使い切ってこそ意味がある」
そう語る社長の言葉には、制度を“理解した上で使いこなす”者だけが得られる安心がありました。
第5章|制度は“理解してこそ”使える──失敗を防ぐ5つのポイント
セーフティ共済の落とし穴は、“制度の欠陥”ではありません。多くは“情報不足”と“準備不足”から来ています。
以下の5つを実践するだけで、制度の価値は大きく変わります。
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制度の定義を社内で共有(特に「倒産の定義」と「6か月期限」)
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契約・請求・納品など書類管理をルール化
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倒産時の初動マニュアルを用意する
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顧問士業と定期的に制度をレビュー(税制改正や加入状況)
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800万円到達時の出口戦略を事前に考えておく
おわりに|制度の限界を知ったときから「本当の備え」が始まる
セーフティ共済は、正しく使えば非常に心強い制度です。
ただし「なんとなく安心」という気持ちで掛けていても、肝心なときに使えないことがあります。
だからこそ、制度の限界と向き合い、どう活用するかを“経営戦略の一部”として考えることが重要です。
あなたの会社にとっての「もしも」に、本当に備えられていますか?
制度を活かすか、眠らせるか──それは、使う側の理解と行動にかかっています。