中退共をやめて経営者も使える退職金制度に変える方法

杉山 晃浩

第1章:なぜ中退共を見直したくなるのか?

「商工会議所から補助金が出るからおすすめですよ」と言われて、なんとなく加入した「中小企業退職金共済制度(通称:中退共)」。
ところが、数年後に振り返ってみると「うちには合ってなかったかもしれない…」と感じる経営者は少なくありません。

その理由としてよく挙がるのが、以下のような点です。

  • 社長や役員は加入できない(経営者自身には無関係)

  • 掛金は減額できず、固定費になりがち

  • インフレに弱く、実質的な退職金の価値が下がる

  • 退職金が直接従業員に支払われ、会社の意向は反映されない

  • 懲戒解雇や問題社員にも支払われる可能性がある

特に最後のポイント、「問題社員にまで退職金が出る」ことへの不満は根深いものがあります。
中退共は国の制度なので、民間企業が就業規則で「懲戒解雇は退職金ゼロ」と定めていても、中退共の共済金は支給されてしまう
のです。
これは企業側がどれだけ社員に手を焼いていたとしても、制度として止めようがありません。


第2章:中退共をやめるにはどうすればいい?

中退共は「企業単位」で加入する制度なので、やめる場合も会社として契約を解除する必要があります。

✅やめる方法(共済契約の解除)

  • 所定の「共済契約解除届」を提出

  • 法人の場合は登記簿謄本や印鑑証明書を添付

  • 解除日までに積み立てた掛金分は、対象社員の退職時に本人に支払われます

✅注意すべきこと

  • 会社に掛金は返ってこない

  • 就業規則に「退職金制度あり」と書いてあると、制度変更してもトラブルになる可能性あり

  • 契約解除後も、既加入者の退職時には中退共から直接支給が行われる(=会社は関知できない)

中退共をやめる=退職金制度が完全に消えるわけではない点にも注意が必要です。


第3章:経営者も使える退職金制度とは?

中退共をやめた後、退職金制度を完全にやめるのではなく、より柔軟で、経営者にもメリットがある制度へ移行することを考えてみましょう。

ここでは3つの代表的な代替制度をご紹介します。

1. 特定退職金共済(特退共)

  • 役員も加入可能

  • 月額30,000円までの掛金が損金扱い

  • 中小企業退職金共済よりも自由度が高い

  • ただし、掛金がやや高め・手続きは保険会社経由が多い

2. 企業型確定拠出年金(企業型DC)

  • 役員・従業員ともに加入可能(条件あり)

  • 掛金上限:月5.5万円まで損金

  • 掛金額や制度設計が柔軟で、「業績連動型」も可能

  • 社員が自ら運用先を選べる(=金融リテラシーも必要)

3. 社内退職金制度(内部規程型)

  • 社内規程で自由に設計可能

  • 勤続年数・退職理由ごとに支給額を変えられる

  • 就業規則や退職金規程で「懲戒解雇は支給しない」などの定めも有効

  • ただし、積立は会社内(万一の倒産リスクあり)


第4章:どう選ぶ?自社に合った制度の見極め方

どの制度を選ぶかは、経営状態と将来の方針によって変わります。

✅選ぶための視点

  • 会社が黒字か赤字か?

  • 経営者も退職金を確保したいか?

  • 退職金制度を従業員満足につなげたいか?

  • 問題社員への支払いを制御したいか?

例えば、「退職金の支給はあくまで功労に応じて行いたい」「懲戒解雇者にまで払いたくない」という方針なら、企業型DCや内部規程型の方が圧倒的に合っています。


第5章:退職金制度を“自社の武器”にする方法

退職金制度は「仕方なく導入するもの」ではなく、経営戦略の一環として設計できる時代です。

  • 掛金額を業績に応じて変動させる

  • 定着率や人事評価と連動させる

  • 制度設計に“将来像”を反映する

さらに、企業型DCや社内規程を上手く使えば、役員退職金や相続対策としても活用できます。

社員のやる気を引き出すツールとしても、「見える退職金」は強力です。


第6章:まとめ|制度を変えることはリスクではなく“経営戦略”である

退職金制度の見直しは、社員からすれば「後退」と思われるかもしれません。
しかし本質は、社員・経営者の双方にとってよりよい制度を選ぶことにあります。

  • 中退共は確かに安心感のある制度ですが、全ての企業に合うわけではありません。

  • 自社の経営状態・人材戦略・リスク耐性に合わせて、制度を“設計”する時代です。

  • 懲戒解雇や問題社員への支払いをコントロールしたい経営者こそ、今こそ制度の見直しを。

 

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