内科クリニック経営者のための 「採用基準の明確化」完全ガイド

杉山 晃浩

◆採用に頭を悩ませるのは、先生のせいじゃありません

内科クリニックでは、医師である院長先生が経営も担うことが多い。
診療、家族対応、スタッフマネジメント、行政対応…。
日々めまぐるしく、採用に十分な時間を割けないのが現実です。

そして、面接でうまく見抜けず、
「良さそうと思って採ったのに、すぐ辞めてしまった」
「患者対応でトラブルが増えた」
「結局、院長が全部カバーしている」
という状況に陥ることがあります。

けれども、これは先生の判断が悪かったのではありません。

採用の判断基準が、明確に言語化されていなかっただけです。

先生が毎日大切にしてきた価値観。
それは、言葉にすれば、スタッフを迷いなく導く道しるべになります。

その道しるべこそが
「採用基準」なのです。


◆採用基準は「期待のすれ違い」を防ぐ薬です

内科クリニックで患者さんから評価されるのは
医療技術だけではありません。

むしろ、最初に判断されるのは
スタッフの振る舞い。

  • 診察前の不安

  • 待ち時間のイライラ

  • 説明を聞きたい気持ち

  • 自分を大切にしてほしい想い

その気持ちを汲み取れないスタッフが
どれほど技術を持っていても、
患者さんの満足度は上がりません。

つまり、採用すべき人物像は

“医療を支える人柄”を持った人

これは、先生が普段の診療で最も大切にしている価値観のはずです。

採用基準が明確になると

  • どんな人が患者の心を支えられるのか

  • その人をどう育てていくのか

  • 誰が面接しても判断が一致するのか

がクリアになり、
採用の質と現場の安定が同時に向上します。


◆まず先生自身が「大切にしていること」を言語化する

「採用基準の明確化」と聞くと
難しい印象を持たれるかもしれません。

ただ、スタート地点は
先生の診療哲学を言葉にすることです。

例えば、こんな問いを自分に投げかけてみてください👇

  • 患者さんに提供したい医療の価値とは?

  • スタッフに特に大切にしてほしい態度とは?

  • 過去、手放してよかった人はどんな特徴だったか?

  • 逆に、定着しているスタッフに共通するものは?

すると、不思議なほど
先生が求める人物の「輪郭」が浮かび上がります。

「笑顔で対応できる」
「報告・相談をすぐにできる」
「清潔感を保てる」
「間違いを認め改善できる」

このように、
行動で測れる形にしていくことが重要です。


◆判断をスムーズにする「3段階基準」

ただ理想を並べるだけでは
合否の判断材料として弱いままです。

そこで先生が使えるシンプルな枠組みをご提案します👇

評価 意味
自然にできている
意識すればできる
ほとんどできていない

この3段階を
上記の「求める行動」に当てはめていきます。

例えば👇

  • 挨拶や声かけ → ◎or○or△

  • 清潔感(制服・身だしなみ)→ ◎or○or△

  • 患者理解や共感 → ◎or○or△

面接時にも
試用期間中にも
育成・評価にも
使い回せる“万能の物差し”になります。


◆点ではなく「総合力」で判断する

内科クリニックでは
外科ほど強い技術が求められない分、
総合的な人間力が成果を左右します。

だからこそ

1つ欠けているだけで候補者を落とす必要はありません。

その代わり

  • 「患者さんの心への配慮」は最重要

  • 「正確さ」「報連相」「協力」は中核

  • 「向上心・医療知識」は成長で補える

といったように
優先順位と合格ラインを決めると良いでしょう。

例)
5つの評価項目を採用するなら
合格は「◎が3つ以上」
など、先生が判断しやすい基準に整えます。


◆採用基準をスタッフの前で宣言する意味

採用基準が紙1枚にまとまったら
ぜひ、院長先生が
スタッフ全員の前で読み上げてください

その理由は3つあります👇

1)院長が大切にしていることを共有できる
2)スタッフが面接官になっても判断に迷わない
3)「自分たちは一つの基準で働いている」という誇りが持てる

採用基準は
ただのチェック項目ではなく

クリニックの未来への約束事

だから、見える場所に常に置いておくことで
言葉が行動に変わります。


◆採用は「未来の失敗の予防薬」

採用を改善することは
目に見えるコストではなく
目に見えないリスクの削減です。

採用基準の明確化は

  • 不適切な採用の回避

  • 離職の減少

  • クレーム減少

  • 教育コストの削減

  • 医療安全の向上

を生み、

院長が診療に集中する時間を取り戻します。


◆最後に:採用は「運」ではなく「設計」へ

院長先生がどれほど優れた医療を提供していても
現場スタッフのあり方一つで
患者さんの評価は大きく変わります。

だからこそ、入口を整えることが
最も“医療らしさ”を守ることにつながる。

採用基準は
小さなクリニックにこそ必要な
最強の経営ツールです。

そして先生はすでに
その土台となる価値観を持っていらっしゃる。

あとは、それを
紙に書いて、
みんなに見せて、
一緒に良くしていくだけです。

その日から
クリニックは少しずつ
確実に変わり始めます。

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