叱る前に一言「ありがとう」 離職を防ぐ新人育成の心理法則
杉山 晃浩
新人がすぐ辞めてしまう。
せっかく採用したのに、3カ月経つ頃には不満を抱えて去っていく。
そんな現場の嘆きを多く聞きます。
では、なぜ新人は定着しないのでしょうか。
能力不足でしょうか。
根性が足りないのでしょうか。
もちろん、個人差はあります。
ただ、社労士として現場を見てきた私の実感は少し違います。
原因の多くは
「新人が安心できていないこと」です。
緊張に包まれた新人は、
ちょっとした指摘でも心が折れてしまうことがあります。
だからこそ、今回は
心理学の世界で有名な「好意の返報性」を活用した
新人育成の法則を紹介します。
1章:なぜ新人は辞めてしまうのか?
現場ではよくこう聞きます。
「最近の若い子はすぐ辞める」
「教えても覚えない。成長意欲が足りない」
しかし、本当にそうでしょうか。
新人の胸の内には
こんな心の声が隠れています。
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失敗したらどうしよう
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迷惑をかけてはいけない
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誰に相談したらいいのか分からない
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自分は役に立っているのだろうか
入社直後は
「居場所が無い不安」と戦っているのです。
それならば
その不安を和らげられたら
辞める理由はひとつ減るはずです。
2章:好意の返報性とは?
好意の返報性とは、簡単に言うと
誰かに好意を向けられると、
自分も相手に好意を返したくなる心理
「ありがとう」
「助かったよ」
「あなたがいて助かる」
そんな言葉は、新人にとって
栄養ドリンクのようなものです。
認めてくれた人に対して
人は自然と「もっと頑張ろう」と思います。
3章:叱られる新人ほど「ありがとう」で伸びる理由
新人は経験不足です。
仕事が遅いこともありますし、
失敗することもあります。
そのときに
頭ごなしに怒られると
新人の心はこうなります。
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「自分はダメだ」
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「ここにいる資格がないかも」
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「辞めたほうが楽かも」
逆に
「ここまで進めてくれてありがとう」
その一言があるだけで
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「自分も役に立てたんだ」
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「もっと期待に応えたい」
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「相談してもいいんだ」
前に進む心が育ちます。
育成とは「行動の変化」を生むこと。
怒りより承認の方が、よほど強い影響力を持っています。
4章:現場あるあるで考える「ありがとう」の威力
ケース1:報告が遅い新人
✕「なんで早く言わないの!」
○「報告してくれてありがとう。次は早めにもらえると助かるよ」
ミスを責めるのでなく、行動そのものに感謝。
改善ポイントはその後に。
ケース2:失敗が多い新人
✕「何回言ったら分かる?」
○「挑戦してくれてありがとう。ここを一緒に修正しよう」
失敗は学びの機会。
行動した勇気を肯定する姿勢が定着を生む。
ケース3:積極性がない新人
✕「もっと自分から動いて」
○「相談してくれてありがとう。少しずつ覚えていこう」
安心できる関係があってこそ積極性は育ちます。
5章:「ありがとう」を使った新人育成5つの実践テクニック
1)行動の手前を褒める
完璧な成果でなくていい。
小さな前進を拾うことが重要。
「準備ありがとう」
「遅くまでありがとう」
「聞きに来てくれてありがとう」
2)注意は前後をポジティブに
いきなり怒鳴るのはNG。
ポジティブ→改善→ポジティブ
の順番が定着のカギ。
3)名前を呼んで感謝を伝える
人は「名前」がつくと一気に自分ごとになる。
承認が刺さり、信頼が強まる。
4)成功体験を意図的に作る
新人向けの「勝ち筋タスク」を用意。
成果を実感させると離職率は下がる。
5)期待を言語化する
「あなたに期待している」
この一言が、自信という土台をつくる。
6章:気をつけたい“ありがとう”の使い方
もちろん注意点もあります。
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表面だけの言葉
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操作しようとする気持ち
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えこひいき
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形式だけの承認
これらは逆効果になりがちです。
「ありがとう」には
誠実さが必須条件です。
7章:新人の離職を防ぐ組織は、小さな承認の積み重ねでできている
新人は、最初から力を発揮できるわけではありません。
だからこそ
「ここにいていい」
「あなたは仲間だ」
このメッセージが必要です。
心理的安全性のある職場は
新人の不安を減らし、行動力を引き出します。
好意の返報性は
いわばそのための最初の橋。
8章:まとめ|「ありがとう」が組織の未来を救う
叱る前に一言「ありがとう」
このシンプルな行動が
新人の心を支え、定着と成長を後押しします。
人は良い関係の中で伸びるもの。
心に届く育成が、組織を強くします。
9章:本気で新人が定着する職場へ
もしあなたが
-
新人を長く活躍させたい
-
教育が回る職場にしたい
-
人材が辞めない環境を作りたい
そう思っているなら
私たちは力になれます。
ただし
「とりあえず話だけ」
「変える気持ちはまだない」
その段階なら、まだ相談不要です。
行動を始めたい経営者へ。
新人が成長し、会社の未来が輝く環境を
一緒につくりませんか。