「怒る」はOK、「怒鳴る」はNG──6秒ルールでつくる“信頼される職場”
杉山 晃浩
第1章 「怒ってはいけない」と思っていませんか?
「最近の若い社員は、少し注意するとすぐ落ち込む」
「ハラスメントが怖くて、強く言えない」
そんな声を多くの管理職から聞きます。
その結果、「何も言えない上司」と「空気を読む部下」が増え、職場のルールが形骸化しているケースも。
けれど、誤解してはいけません。
「怒る」こと自体は悪いことではありません。
問題なのは、「怒る」と「怒鳴る」を混同してしまうことです。
前者は“相手を良くしたい”という建設的な感情、後者は“自分のストレスを発散する”破壊的な行動。
怒りを“伝える”ことと“ぶつける”ことは、まったく別物です。
この違いを理解することが、信頼される上司の第一歩です。
第2章 人間の怒りは“6秒”がピーク──アンガーマネジメントの基本
アメリカの心理学者チャールズ・スペイルバーグによる研究では、
怒りの感情は発生から6秒間が最も強く、あとは急速に弱まることが分かっています。
つまり、怒りを感じたときに6秒間だけ我慢できれば、
“怒鳴る衝動”は自然に収まっていくのです。
6秒待つことで、脳の「扁桃体(感情中枢)」が興奮状態から落ち着き、
理性を司る「前頭前野」が働き始めます。
アンガーマネジメントとは、感情を抑え込むことではなく、
冷静になる時間を“意図的に作る”技術なのです。
怒りを完全に消すことは誰にもできません。
大切なのは、「反応」ではなく「対応」を選ぶことです。
第3章 「怒る」と「怒鳴る」の違い
たとえば、ミスを繰り返す部下に注意するとします。
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「なぜ同じミスをしたの? 次はこうしてみよう」
→ 目的は“改善”です。相手に考える余地を残しています。 -
「何度言えば分かるんだ!」
→ 目的は“発散”です。相手を萎縮させ、行動を止めてしまいます。
これが、「怒る」と「怒鳴る」の決定的な違いです。
怒る=相手を変えたい感情
怒鳴る=自分を守りたい感情
部下は、言葉よりもトーンや表情で「怒りの目的」を感じ取ります。
怒る上司は信頼され、怒鳴る上司は恐れられます。
結果として、後者の職場では報連相が途絶え、孤立したリーダーが増えるのです。
第4章 6秒ルールを実践する3つのステップ
① 距離を取る
イラッとした瞬間、その場で反応しないこと。
「少し資料を確認してから話そう」と一言添えて離れるだけで、6秒を稼げます。
② 言葉を選ぶ
怒りの言葉には「なんで」「どうして」がつきものです。
それを「どうすれば」に置き換えるだけで、建設的な会話に変わります。
③ 目的を思い出す
「この人を叱る目的は何か?」
その問いを6秒の間に自分に投げかけてください。
怒りを“伝える手段”に変えられる人が、信頼される上司です。
第5章 感情を扱える上司は、チームを成長させる
怒りをコントロールできる上司は、冷たい人ではありません。
むしろ“温かくて強い人”です。
部下にとって「怒られても大丈夫」という安心感は、成長の支えになります。
逆に、怒鳴られて萎縮する職場では、挑戦も創意工夫も生まれません。
6秒ルールを習慣化した上司は、感情の温度を自覚して行動できます。
その姿勢が、チームに「この人なら話せる」という信頼を生み出します。
第6章 怒鳴らない職場づくり──仕組みで感情を整える
怒鳴り声が響く職場の原因は、個人の性格ではなく、環境要因にあります。
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情報共有の不足
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人員の偏り
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曖昧な役割分担
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不公平な評価
これらが重なると、誰でも“怒りやすい状態”になります。
だからこそ、社労士として伝えたいのは、
感情を整える仕組みこそ、職場改善の核心だということ。
評価制度・面談制度・コミュニケーションルールを整えれば、
怒りの根本原因である「不満」と「不安」は激減します。
第7章 6秒で信頼を取り戻す──感情をマネジメントできるリーダーへ
怒りは、抑えるものではなく、使いこなすもの。
そのための第一歩が「6秒待つ」という小さな選択です。
6秒の間に、相手の立場を思い出し、自分の目的を整理する。
それだけで、叱る言葉は指導になり、怒鳴りは対話に変わります。
杉山事務所では、アンガーマネジメントを応用した管理職研修・職場改善コンサルティングを行っています。
怒りを力に変えることは、個人の技術ではなく、組織の文化です。
「6秒待つ」――それは、怒りを信頼に変える魔法の時間です。