「報連相が遅い職場」に足りないのはルールではなく“目”──リーナスの法則で考える組織改善
杉山 晃浩
第1章 「また報告が遅れた…」――ルールでは解決できない職場の現実
「もっと早く言ってくれれば、手を打てたのに」
経営者の口から、何度も聞いた言葉です。
報連相の遅れは、今も昔も職場トラブルの温床。
しかし、多くの企業がその原因を“社員の怠慢”や“教育不足”に押し込めてしまっています。
たとえばこんな光景を見たことはありませんか?
・ミスを報告した社員が、上司に強く叱責される
・チーム内で情報が止まり、次の担当者が右往左往
・「報連相のルールを守れ」と掲げても形骸化している
報連相が機能しないのは、ルールがないからではありません。
“見ている目”が少ないからです。
つまり、情報が開かれておらず、問題が見えない状態。
この構造を放置すれば、どれだけルールを整えても現場は変わりません。
第2章 リーナスの法則とは?──“目が多ければバグは浅い”
リーナスの法則は、オープンソースソフトウェアの世界から生まれた言葉です。
創始者のリーナス・トーバルズ(Linux開発者)はこう言いました。
「目玉が十分にあれば、すべてのバグは浅い」
多くの人がコードを見れば、どんな不具合も早期に見つかる。
逆に、限られた人だけが知っている状態では、バグが深く潜り込んでしまう。
この考え方は、組織運営にもそのまま当てはまります。
経営・労務・現場のいずれかが閉じていると、
小さな誤解や不満が“誰にも見えないバグ”として蓄積し、
やがて大きなトラブルへと膨らんでいくのです。
第3章 報連相が遅れる職場の共通点
報連相が遅れる会社には、いくつかの共通点があります。
①情報が閉じている(属人化・ブラックボックス)
「この仕事は○○さんしかわからない」――これが続くと、報告経路が一極集中します。
その結果、上司がパンクし、連絡が滞る悪循環に。
②責任が曖昧(上司が“全部見る”構造)
「自分の判断で言っていいのか」がわからない社員は、報告を先送りにします。
ルールではなく、心理的ブレーキが原因です。
③フィードバックが怖い(心理的安全性の欠如)
報告=叱責と結びついてしまうと、報連相文化は根付きません。
「報告した方が損をする」職場に、改善の芽は生まれません。
第4章 “目”を増やす仕組みで組織は強くなる
では、“目”を増やすとはどういうことでしょうか。
それは「監視」ではなく「共視化」です。
誰かがチェックするのではなく、みんなで見合う状態をつくることです。
たとえば、こんな仕組みが有効です。
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チャットツールで進捗をチーム全員に共有する
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日報にコメント欄を設けて、横のつながりを生む
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OJTの記録を共有して、教え方のムラを減らす
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会議の議事録をオープン化し、言った・言わないを防ぐ
情報を「一人が抱える」から遅れるのです。
「みんなで見える化」すれば、報連相の遅れは自然と減ります。
第5章 見える化が離職を防ぐ理由
不思議なことに、見える化が進むと離職率も下がります。
なぜなら、「評価」や「努力」が“見える”ようになるからです。
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一人で抱えず、相談できる安心感
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頑張りを誰かが見てくれているという満足感
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「自分がこの職場にいていい」と思える居場所感
これらはすべて“目”によって生まれます。
組織の透明度は、社員の心理的安定と比例するのです。
第6章 リーナスの法則が示す「人の目による改善サイクル」
リーナスの法則を職場に置き換えると、次のサイクルになります。
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誰かが見る → ミスや課題の早期発見
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共有される → 改善アイデアが集まる
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フィードバックされる → 成長が定着する
上司だけが“見る”職場では限界があります。
チーム全員の“目”が加わることで、問題解決のスピードと精度が上がるのです。
それは、監視社会ではなく「信頼でつながるチーム」の姿です。
第7章 社労士が支援できる“見える化”の設計
リーナスの法則を実践に移すには、
「人が見える」だけでなく「仕組みで見える」状態をつくる必要があります。
杉山事務所では、以下のような支援が可能です。
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勤怠・評価・面談記録の共有化支援
個人フォルダに埋もれた人事データをチーム資産に変える。 -
報連相文化を育てる人事制度設計
「報告が早い人を評価する」など、行動基準の明文化。 -
管理職・リーダー研修の実施
報連相の受け取り方・フィードバックの伝え方を実践指導。
ルールやマニュアルではなく、「文化」として定着させる。
それが社労士としての伴走支援の真価です。
第8章 結論:「ルールよりも“目”を増やす職場は強い」
報連相が遅れる職場は、怠慢な職場ではありません。
**「見ている人がいない職場」**なのです。
だからこそ、経営者がまず動かなければなりません。
「見える仕組み」「共有する文化」「認め合う風土」――
この三つを整えた職場は、どんな危機にも強く、社員が自然と成長します。
杉山事務所は、そうした“見える組織づくり”を支援しています。
もし「報連相が遅い」「情報が止まる」と感じているなら、
それはルールではなく“目”の問題かもしれません。
覚悟ある経営者にこそ、
リーナスの法則を組織運営の武器として使っていただきたいのです。