社長が必ず押さえるべき 「法定相続」と相続税の非課税額の基本
杉山 晃浩
第1章|「相続税はほとんどの人がかからない」は本当か?
相続の話をすると、こんな言葉をよく耳にします。
「相続税って、よほどのお金持ちじゃないとかからないですよね?」
確かに、統計上は相続税が課税されるのは全体の一部です。
しかし、この数字だけを見て「自分は関係ない」と判断するのは、経営者にとって非常に危険です。
なぜなら、社長は一般のサラリーマンと比べて、
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自宅や事業用不動産を保有している
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自社株という“評価されやすい資産”を持っている
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生命保険や退職金などがまとまって発生する
といった特徴があり、相続税の課税対象になりやすい立場にあるからです。
相続を考えるうえで重要なのは、
「相続税がかかるかどうか」ではなく、
法定相続と非課税額の仕組みを正しく理解しているかです。
第2章|法定相続とは何か?社長が誤解しやすいポイント
法定相続とは、民法で定められた「相続人の範囲」と「取り分」のルールです。
基本は次のとおりです。
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配偶者は常に相続人
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子どもがいれば子どもが第一順位
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子どもがいなければ親
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親もいなければ兄弟姉妹
ここで多い誤解が、
**「法定相続どおりに分ければ安心」**という考え方です。
法定相続分は、あくまで「基準」であって、
家族関係や経営状況まで考慮したルールではありません。
特に社長の場合、
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自社株をどうするか
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誰に経営を引き継がせたいのか
といった点は、法定相続では何も解決してくれません。
第3章|相続税の非課税額(基礎控除)の仕組み
相続税には「基礎控除」と呼ばれる非課税枠があります。
計算式は次のとおりです。
3,000万円 + 600万円 × 法定相続人の数
例えば、
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相続人が配偶者と子ども1人(計2人)の場合
→ 3,000万円+600万円×2=4,200万円
この金額までは、相続税がかかりません。
ここで重要なのは、
「法定相続人の数」で非課税額が決まるという点です。
遺言で分け方を変えても、
非課税額の計算は「法定相続人」で行われます。
第4章|法定相続人の数で、税額はどう変わるのか
同じ財産額でも、相続人の数によって課税対象になるかどうかは大きく変わります。
例えば、相続財産が5,000万円の場合。
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相続人1人
→ 非課税額3,600万円 → 課税対象1,400万円 -
相続人2人
→ 非課税額4,200万円 → 課税対象800万円 -
相続人3人
→ 非課税額4,800万円 → 課税対象200万円
数字で見ると、
「思ったより簡単に非課税額を超える」ことが分かるはずです。
また、養子を相続人に入れる場合にも、
非課税額のカウントには制限があるため注意が必要です。
第5章|社長が特に注意すべき「非課税額の落とし穴」
相続税の非課税額について、経営者が特に誤解しやすい点があります。
① 自宅や不動産の評価額
現金が少なくても、不動産の評価額が高ければ課税対象になります。
② 生命保険は全額非課税ではない
「500万円×法定相続人」の非課税枠がありますが、
それを超えた分は課税対象です。
③ 分け方と税額は別問題
「配偶者に多く渡したから税金がかからない」とは限りません。
非課税額は万能ではなく、
超えた瞬間から相続税が発生するラインだという認識が必要です。
第6章|法定相続どおりにすると、会社はどうなるか
法定相続をそのまま適用すると、
自社株が相続人に分散するケースが多くなります。
すると、
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経営判断がスムーズにできない
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株主間の意見が割れる
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相続税の支払いのために株を売却せざるを得ない
といった事態が起こります。
「家族として公平」と
「会社として安定」は、同時に成立しないこともあるのです。
第7章|法定相続と相続税を理解した上で、社長が考えるべきこと
ここまで整理すると、
次に考えるべきは「ではどうするか」です。
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遺言で分け方を決める
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退職金や生命保険をどう使うか
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事業承継とどうつなげるか
大切なのは、
非課税額に収めること自体が目的ではないという点です。
目的は、
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家族を困らせない
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会社を混乱させない
そのための手段として、
法定相続と相続税の知識が必要なのです。
第8章|まとめ|相続は「知識不足」が一番のリスク
相続対策で一番怖いのは、
「知らなかった」「勘違いしていた」ことです。
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法定相続は分け方のルール
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相続税の非課税額は税金計算のルール
この2つを混同すると、判断を誤ります。
社長にとって相続は、
お金の話であると同時に、経営の話です。
まずは現状を把握し、
必要であれば専門家と一緒に整理する。
それが、最も堅実な第一歩と言えるでしょう。