研修会社に任せた結果、会社が責任を負う理由 助成金不正受給の構造
杉山 晃浩
昨年末、助成金不正受給をめぐる行政の調査や処分が、全国的に一斉摘発されました。
特に研修会社が関与した不正受給事案は、社労士業界だけでなく、多くの中小企業経営者に大きな衝撃を与えました。
検索をしてこの記事にたどり着いた方の多くは、次のような疑問を持っているのではないでしょうか。
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研修会社に任せていたのに、なぜ会社が責任を負うのか
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書類も支払いも揃っているのに、なぜ不正になるのか
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「黒」と「グレー」の境界線はどこにあるのか
本記事では、助成金不正受給が起きる構造を整理しながら、
「なぜ最終的に会社が責任を負うのか」を、実務の視点で解説します。
「言われた通りにやっただけ」が通用しない理由
―― 助成金申請における事業主責任
助成金制度において、最も基本的で、かつ見落とされがちな点があります。
それは、助成金の申請主体は常に事業主であるという原則です。
研修会社、コンサル会社、社労士などが関与していたとしても、
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申請書に署名・押印しているのは誰か
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助成金を受け取ったのは誰か
という点で、行政は判断します。
「専門家に任せていた」「知らなかった」という事情は、
責任の所在を免除する理由にはなりません。
助成金は外注業務ではなく、経営判断の結果として申請される制度だからです。
助成金制度の大前提
―― 「実質的な事業主負担」という考え方
助成金制度の根底にある考え方は、非常にシンプルです。
事業主が一定のコストを負担してでも
人材育成や雇用維持に取り組む企業を支援する
この「コストを負担する」という点で、
行政が重視しているのは 形式ではなく実質 です。
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領収書がある
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契約書がある
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一度はお金を支払っている
これらが揃っていても、その後、
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別名目で資金が還流している
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実質的な負担が相殺されている
と判断されれば、助成金の要件を満たさないとされます。
エッグフォワード事案に見る「手出し無しスキーム」の問題点
話題となったエッグフォワード関連事案では、
表面上の書類や支払いは、非常によく整っていました。
しかし、実態としては、
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高額な研修費を支払った後
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別契約・別名目で多額の資金が戻る
という構造が確認されました。
行政はこの点を重く見て、
「実質的な事業主負担が存在しない」
「欺罔行為に該当する」
と判断しています。
重要なのは、
「悪意があったかどうか」ではなく、「制度趣旨を満たしているかどうか」
という点です。
実は多い、助成金不正受給の代表的な手口
助成金不正受給の構造は、手出し無しスキームだけではありません。
実務上、次のようなケースも確認されています。
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親会社・子会社・グループ会社を使った親子スキーム
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別法人を介在させた資金循環型スキーム
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研修と無関係な業務委託・値引きによる実質還元
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「大手もやっている」という説明による安心誘導
これらは、一見すると「グレー」に見える場合もあります。
しかし行政は、全体の構造とお金の流れを総合的に見て判断します。
なぜ「グレー」でも不正と判断されるのか
助成金調査では、次のような視点が使われます。
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その取引は通常の市場取引として合理的か
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助成金がなければ成立しない取引ではないか
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時期・金額・名目に不自然な相関はないか
個々の説明が成り立っても、
結果として不自然な資金の流れがあれば、不正受給と判断されるのが現実です。
「だまされた被害者だ」という主張だけで、
処分が取り消されるケースは多くありません。
研修会社に任せても、会社が責任を負う理由
改めて整理すると、構造は明確です。
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助成金は会社名義で申請される
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助成金は会社が受給する
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会社が使途責任を負う
研修会社は、あくまで外部業者です。
主導していたとしても、最終責任は事業主に帰属するという仕組みになっています。
これは制度上の前提であり、例外はほとんどありません。
不正受給と判断された場合の経営リスク
助成金不正受給と判断された場合、企業は次のような影響を受けます。
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助成金の返還
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加算金・延滞金の発生
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企業名・代表者名の公表
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原則5年間の助成金申請停止
単なる金銭問題ではなく、
信用・採用・金融機関対応に直結する経営リスクです。
不正受給を防ぐために、経営者が押さえるべき視点
次のような説明には、特に注意が必要です。
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「実質無料」「ほぼ手出しなし」
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「別契約で調整できます」
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「今までは問題になっていません」
助成金は、お得かどうかで判断する制度ではありません。
制度の趣旨と構造を理解し、冷静に判断する必要があります。
助成金は“任せるもの”ではなく、“判断するもの”
私たちは、もし詐欺プロジェクトに協力しています。
この取り組みは、「だまされた企業を責める」のではなく、
だまされない判断軸を社会に広げることを目的としています。
杉山事務所にご相談いただければ、
助成金申請が結果的に不正受給と判断されるリスクを、事前に減らせる可能性があります。
助成金は、正しく使えば企業の成長を後押しします。
しかし、構造を誤れば、経営リスクに一変します。
少しでも迷いがあるなら、
申請前に立ち止まることが、最大のリスク対策です。